日常に至る経緯1
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「どうしよう……っ……」
魔獣でもさっきの武装ヘリでもない気配を感じて振り返ると、道の向こうから今度は二人組の男の人がやってきた。二人ともフォーマルな格好をしてるけど、絶対にカタギじゃない。特に手前にいるすっごい大きくてすっごい顔の怖い男の人……いや、後ろにいる顔に傷のある人も同じだ。気配というかニオイというか、そういうのが違う。
「……ミス・ユーリ一之瀬、だね?」
多分、いや間違いなく、わたしを殺りにきてる。
大体察した。人外率が高いだけあって、この街は非日常と危険が日常だ。ちょっとした騒動で簡単に人が死ぬし殺される。
「悪いけど殺されるのはゴメンなんで」
先手必勝。わたしは魔力をまとって身体能力を強化して、男の人に向かって行った。普通の人なら地力で十分だけど、多分この人達は強い。わたしが向かって来て驚いた様子の赤い人(髪とか服装とか赤が多いから)に拳を繰り出すと、あっさり防がれた。間をおかないで二段蹴りを放ったけど、それも腕で防がれる。体格差考えて結構強めにやったんだけどダメージはなさそうだ。やっぱ予想通り強い。一対一でもヤバそうなのに、傷の人(顔に傷があるから)にまで動かれたらきっと簡単には切り抜けられない。
わたしの攻撃を『軽い』だろうと思ってくれてる内に決着をつけないとマズイ。
「『風……」
「待ちたまえ!我々は君を保護しに来たのだ!!」
「……へ?」
そう思ってひとまず目くらましに突風を放とうとしたけど、赤い人が予想外のことを言ってきたから、思わず攻撃の手を止めた。
今何て言った?わたしを……保護?何で?
油断させる為の嘘かもしれないから念の為間合いを取って、警戒してますよという意思表示として構えたまま慎重に聞く。少しでも怪しい素振りを見せたら即逃げる準備も忘れない。
「……保護……ですか…?本当に?」
「本当だ。どうか信じてほしい」
「……でも、っ!後ろ!!」
何の為にわたしを保護するのかって聞こうとしたけど、それは傷の人の真後ろに魔獣が降ってきたせいで遮られた。わたしは魔獣が地面に着地したのと同時に走り出していた。多分傷の人も強いだろうけど、どれだけ強いか分かんない以上黙ってられない。
「『血術』……」
さっきみたく『刃鞭』で細切れにしようとしたけど、傷の人の方が速かった。何でもなさそうに振り向いた途端、空気が変わる。
「エスメラルダ式血凍道」
魔獣が襲いかかるよりも早く、強く、傷の人は魔獣の頭を踏みつけていた。その踏みつけた足先から、ぱきりと音がする。
「エスパーダデルセロアブソルート―絶対零度の剣―」
一瞬で出来あがった大きな氷が魔獣を串刺しにして、一気に凍らせた。あっという間に氷の像になった魔獣はしばらく回復できそうにない。その景色は思わず足を止めるほど綺麗で、周囲の気温が一気に下がったのも気にならない程圧倒的な存在感で、
「……か……か……っこいいいいいいいい…!!!」
「……ええ?」
わたしの心を撃ち抜くには十分だった。警戒してたのも忘れて駆け寄ったわたしに、傷の人はびっくりしたみたいな顔をしたけど、それを気にしてる余裕はわたしにはなかった。
「すごい!すごいです!こんな綺麗で強くてかっこいい氷の術、わたし初めて見ました!!こんな綺麗な術ってあるんですね!!」
「……あはは……それはどうも……」
傷の人がちょっとだけ困ったみたいに笑った。本当に綺麗な術だ。わたしがさっき使った『氷術』とは比べ物にならない。比べるのすら失礼だ。きっと氷の術に特化した人なんだろう。どれだけ鍛錬を積めばこんなすごい使い手になれるのか、わたしには想像もつかない。とにかく素敵で、こんなに感動したのは久しぶりだ。
「……って、感激してる場合じゃなかった!」
出来ることならずっと眺めてたいし他にも技があるのかリクエストしたいけど、残念ながらそういう状況じゃない。色々残念だけど現実に戻って、わたしは傷の人におじぎをしてから、わたしを保護するって言った赤い人に向き直る。
……しまった、立ち位置悪い。これじゃ嘘だった場合逃げにくい……