日常に至る経緯7
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「うぅ……あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ず…!!!」
「心配をかけたくないという気持ちは察するけど、どんな理由であれ体調が悪いのは隠さないこと。君の貧血は普通のとは違うんだから尚更だ。鉄剤は常備しておくから、何かあったらいつでも言うといい」
「……ぅ……はい……」
お見通しな言葉にわたしはうなだれるしかなかった。まあ、うん、貧血顔に出るもんね……
「……っ……あの、スティーブンさん、」
「ん?」
それから、少しだけ気になった……ていうか不安になったことがあるから聞いてみた。
「わたし、本格的に検体になるんですか?」
実の所それが一番怖い。エイブラムスさんが持って帰った血がどう解析されてどんな結果が出て、それからどうなるのか分からない。血だけじゃなくて体ごと解析しようとかそんな話になるかもしれない。それこそ、解剖とかいう話があがることだってあり得る。
明確な敵対者がいる組織っていうのは、目的の為に時には非道な手段を選ばないし犠牲をいとわない。そんな要素が、多かれ少なかれある。むしろライブラに入ってから今まで、その手の機関から何の音沙汰もなかったのが不気味なぐらいだった。
検体になるって決定が出たら多分……わたしは『牙刈り』やライブラを壊滅させない限りは二度と外には出られない。
いくら恩があっても、わたしは喜んで実験動物になるほど自己犠牲心の強い奴じゃない。そんな話になったらもちろん拒否するし全力で抵抗する。
けどそんな、クラウスさん達と敵対するようなことや裏切るようなことは絶対したくない気持ちもあるわけで……正直、どうしていいのか分からない。
「血界の眷属対策の専門家が来たってことは……そうゆうことですよね?」
「それはないな」
わたしの質問に、スティーブンさんは即答しながら隣に座った。
「さっき見た通り、彼は少し遠慮がないタイプだから、今回来たのもまず間違いなく独断だ。それに一応建前上として、異次元から来た君がHLの外に出られるのかという疑問が残ってる。HLだから存在を維持できているだけで、外に出た瞬間消滅するかもしれないし、別の次元に飛ばされるかもしれない。実際、『牙刈り』本部にはそう報告してあるしね。研究施設は外にあるから、君を連れ出すのは難しいだろう」
「成程」
多分HLの外に出ても問題ないだろうけど、確かにこの世界は色々怖い要素が多いからもしかしたらってこともある。別の世界に飛ばされるんならまだいいけど、無事に飛べるのかも分からないし、飛ぶと見せかけて消滅なんてこともありうるから結構博打だ。というか…その見解からいくとエイブラムスさんわたしの血ぃ持って外に出られるの…?まあ、駄目なら戻ってくるだろうからそれはいいか……よくないな戻ってくるのか…!
…………ん?建前上?
「建前ってことは、本音もあるってことですか?」
「クラウスが絶対に許さないよ。同志として勧誘して迎え入れたのに、掌を返して被検体として差し出すなんて所業は君への侮辱であり裏切りだ。そんな騙し討ちのような決定は断固反対する……と、あいつなら言うだろうね」
「……あー……」
確かにクラウスさんなら言いそうだ。採血の最中一番怖い顔して見てたのクラウスさんだったし。
「……信用されてるなあわたし……」
「疑われたいのかい?」
「嬉しいってことですー…!」
意地悪な聞き方をしてくるからすねた顔で即答した。
でも、笑うのはこらえ切れなかった。
「こんな、訳分かんない存在なわたしのこと仲間として認めてくれて……こんな嬉しいことないですよ」
「……それはお嬢さんが自分で勝ち得た信頼だよ」
「わたしが…?」
「君が何も包み隠さず行動で示してみせたから、みんな君を認めたんだ。さっきはクラウスが許さないと言ったけど、施設行きを反対するのはきっとあいつだけじゃない。例え本部と喧嘩になろうとも、君を実験動物扱いするような真似は許さないさ」
「……スティーブンさんも……ですか?」
「……そうだね」
聞いてみると、スティーブンさんは笑いながらそう言って、わたしの頭を撫でた。
「ザップが書いた古文書を解読できる子がいなくなるのは痛手だ」
「……実用的な理由ですね」
言い方がおかしくて、その言葉の奥が見えちゃって、頭を撫でる手が優しくて、わたしは思わず噴き出した。
要するに、この間氷漬けにしかけてまでわたしを試した人は、わたしのことを仲間だって認めてくれてるってことだ。わたしの姿勢は間違ってなかったし、思いはちゃんと伝わっていた。
それがすごく、嬉しい……!
「でも……ありがとうございます」
「…!」
お礼を言うと、スティーブンさんは何でかびっくりした顔をした。わたしの顔を、っていうより目をまじまじ見て、一人で納得したみたいに頷いた。
「ああ成程……『これ』か」
「へ?どれですか?」
「確かに綺麗な瞳だ」
「うぇえぇっ!?いきなり口説き文句ですか!?」
「子供を口説くほど不自由はしてないよ」
「うわナチュラルに失礼……」
驚くこっちにあっさりそう言って、スティーブンさんはわたしから離れるとデスクの方に向かった。今になってようやく気付いたけど、机の上には書類が積み上がってる。あー……わたしのあれやこれやで時間とらせちゃったかな…?
「……何か手伝えることありますか?」
「まだ大丈夫だ……と、言いたいところだけど、期限順に仕分けをしてくれないか?」
「はい喜んで!!」
せめて何かした方がいいかと思って聞いたら要請が来たから、わたしは二つ返事で飛びついた。
「……結理、」
「何でしょう?」
「君のその瞳、親譲りなのかい?」
「あー、はい。両方の家の力がうまいこと混ざっちゃったらしくて、両親の色をかたっぽずつ受け継いだんです」
……って、さっき言った『これ』って両目のことか……にしても、こんな人数『認めた』の初めてだなあ……術式緩んでたりするのか…?
「……変、ですかね?」
「いいや?よく似合ってるよ」
「……ありがとうございます」
「お?古文書が出た。頼むぞ結理」
「任せてください」
でも……まあ、いいか。