日常に至る経緯7
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エイブラムスさん、限界ぎりっぎりまで血ぃ抜きました。本当に2リットルぐらい抜かれたんじゃないかってぐらい、結構がっつりやられました。ついでに細胞の採取とかで耳たぶと爪と髪の毛ちょっとだけ切られました。でもわたしどうにか何でもない風にしてました。だって何か室内ちょっと殺気立ってるんだもん!!これでわたしぶっ倒れたら絶対大事になる予感がするんだもん!!何でよ!?わたしちょっと前まで監視されてたじゃん!実際の所エイブラムスさんの反応の方が普通じゃん!嫌だけど!!もう胸中大号泣ですけど!!
「……あ、エイブラムスさん、よかったらこれも持ってってください」
「ん?これは?」
ものすごいめまいをどうにか耐えながら、わたしはポケットから赤いビー玉サイズの石を三個出して渡した。ていうか最初からこれ出しとけば自分の限界に挑戦なんてことになんなかったんじゃ……いや、過ぎた事だから止めよう。作るのも楽じゃないからケチりたかったんだよ…!
「血晶石っていって、わたしの血を魔術で固めたものです。砕いて水で溶けば普通に血にもなりますんで、好きな方法で解析してみてください」
「ほう……血を固めた石か…!ありがたくいただいていく。いやしかし、協力に感謝するよユーリ君。これで血界の眷属の対抗手段が新たに見つかるかもしれない!」
「……いえ……」
何か社交辞令の一つでも言った方がよかったのかもしれないけど、言うと洒落抜きに墓穴掘りそうな気がしたから止めた。あと貧血過ぎて頭回んない……
あとは専門の研究機関で解析するらしくて、エイブラムスさんはそのまま帰って行った。あ、そういえば呪いのこと聞き忘れた。けどいいや……もーいい……できればしばらく、いやもう会いたくない……油断したら本当に解剖されるんじゃないかって思った……
エイブラムスさんを送っていくってことで、みんなが事務所を出た。ザップさんが半泣きになってたけどそんなに嫌なのか……扉が閉まるまで見送ったところで、わたしはとっくに超えてた限界を受け入れて、ソファに引っ繰り返る。
「うぅ~……」
とりあえず……血晶石残しといたからそれ食べて……あとは……ちょっと寝よう……いやでも…このまま意識飛んだらしばらく起きられないな……クラウスさん帰ってきた時に倒れてるって判断されたら申し訳ないしなあ……
「大丈夫……じゃなさそうだな、お嬢さん」
「……スティーブンさん…?」
声をかけられて目線だけ上げると、スティーブンさんがこっちを覗き込んでた。あれ…?クラウスさん達と一緒に出て……なかったわそういえば。しまった、誰もいないって思いこんで思い切りぶっ倒れちゃった……
「いや……大丈夫です……緊張し過ぎただけで……気疲れってやつです……」
嘘ではないけど本当とも言い切れないことを言って、わたしはポケットから血晶石を出して口に放り込んだ。いつもならこれでほぼ全快になるんだけど……術を使った反動の貧血とも違うし、抜かれた血の量が多過ぎて半分も回復しない。うう~めまいがおさまらないよ~……もう一個とっとけばよかった……
「……エイブラムスさんにまとわりついてた呪いって、聞いて大丈夫な感じですか?」
「感知できたのか……」
「あれだけ濃いのが大量にへばりついてたら嫌でも……」
気を紛らわせる為に聞いたら少しだけびっくりした顔をされたけど、スティーブンさんはすぐに答えてくれた。
「彼は血界の眷属対策の専門家だけあって、連中からの恨みも大量に買っているんだよ。あの呪いは全部血界の眷属が施したものだ。」
「……え、何で平然としてるんですかあの人…!?」
「とんでもない強運なんだ。『豪運のエイブラムス』、なんて通り名がつくぐらいね。その強運のおかげで呪いが彼をどうこうすることはほぼ絶対にない」
「…………それって発動した呪いが全部外に向かうってことじゃ……」
「お嬢さんは察しが良くて助かるよ」
だからザップさんあんな怖がってたのか……そりゃそうだ。呪いが全部外に向くってことは言っちゃえば歩く災害発生機だ。しかもこのヘルサレムズ・ロットじゃただでさえ騒動が多いから、側にいたら何が起こるか分からない。そんな人を送ってくなんて命がけだろう。
「……とんでも、ないですね……」
気を紛らわせるのも限界近くなってきた……寝っ転がってても分かるぐらい頭がふらふらして、勝手にまぶたが落ちそうになる。諦めて寝ちゃおうかと思ってたら、ことんて音が横でした。見るとテーブルの上に赤い錠剤が入ったビンと……
「牛乳!!」
ちょっと大きめのビン牛乳が置いてあって、わたしはめまいも忘れて飛び起きた。頭くらくらしてるけど、一気にフルスロットルになったテンションが支えてくれてて全然気にならない。スティーブンさんの方を見ると、ちょっとだけ得意そうな顔で笑ってる。
「彼が来るって聞いた時点でこうなるんじゃないかって思ってね」
「うわああああああん!!ありがとうございますスティーブンさん大好き!!!」
元気だったら勢い余って抱きついてたところだけど、本当に限界間近だったから最優先で鉄剤と牛乳に飛びついた。普通の人だったら致死量になるだろう量の鉄剤をいっぺんに飲んで、牛乳も一気飲みすると嘘みたいにめまいが薄れた。生き返った……かつてないほど生き返った……家の始祖も灰から蘇った時きっとこんな気分だったんだろう……!!ああ…世界が明るい…!!