日常に至る経緯6
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そんなやり取りがあった少し後、チェインと結理は一緒に任務に出ていた。
今回の任務は街外れの閉鎖された地下道の探索だった。現在調査中の犯罪組織の追跡の一つで、いくつか捕捉した足取りから連中は地下道に居を構えている可能性が出てきた。その為、特に閉鎖されて人の近寄ることの少ない地下道を探り、アジトを見つけ出そうというのが調査目的だ。
ついでに結理が持つ探知能力のテストも兼ねていた。何をどこまで、どれだけ捕捉できるのかを報告するのも、任務の一つに組み込まれている。チェインはそのサポートだ。
「……ここですか?」
「うん」
地下道の入り口には柵が立てられていた痕跡があったが、とっくの昔に朽ちてしまったらしく端に名残があるだけで、誰でも入れるように開いてしまっていた。
「じゃ、入りましょう」
暗い口を開けている入口に、結理は軽い口調で言いながら躊躇なく入っていった。閉鎖されていて電気も通っていないはずなのに、点々と明かりがついている。
(早速ビンゴ…?)
それはそれで嫌な予感がするのだが、口には出さず結理は慎重に歩きながら探知感度を広げた。
「……奥から何人かの気配がします」
「電気が通ってるってことは、誰かが根城にしてるんだね」
「ですね。とりあえず、気配の方に向っていいですか?」
「うん」
頷きを聞いてから、結理は地図を片手に先行して歩き出した。場所によっては頻繁に区画や道が組み替わるHLだが、ここは当時から変化はなく地図も十分に機能する。元は地下道ということで入り組んだ作りではないが、崩落の際に被害を受けたのか別の理由なのか所々崩れた個所があり、時々地上の振動で小石が落ちた。
「いくつか道が崩れちゃってますね……ここから二番目と三番目の通路は完全に崩れてて通れないです」
地図と照らし合わせながら、結理はまだ視界にも入らない通路が通行不能なことを言い当てる。
「一番奥……管理室ですかね?そこに人が……三、四……っ?」
「どうかした?」
「……何の気配…?」
尋ねるチェインに、結理は独り言のような呟きを返した。感じ取った人間の気配の真ん中に、正体の分からない気配が突然現れた。他の気配が慌ただしく動いたので、どうやら彼等にとっても驚く事態らしい。
「――――!!」
「っ!?」
濁った悲鳴と発砲音が聞こえてきたのはその直後だった。結理は即座に駆け出して気配の中心へと向かう。
(何これ…?人の気配が変わっていく……一体何なの…?)
一分にも満たない間に、奥から感じられていた人間の気配が、全て別のものへと変わっていった。変化がないのは正体の分からない気配だけで、その持ち主が何かをしているのだろうということは推測できた。
やがて奥の部屋へ通じている横道に着いた。結理は止まることなく角を曲ったが、
「……っ……」
数メートルもいかない内に足を止めた。奥から『何か』が歩いてきている。明かりは最低限しかついていないのではっきりとは見えないが、人の形はしているようだ。
「結理、」
「……チェインさん……あれ、ドラッグの効果か何かですか?」
「……屍喰らい(グール)…!?」
追いついたチェインに念の為にといった気持ちで結理が尋ねると、その正体に気づいたチェインは軽く息を呑んだ。その反応で結理は即座にグローブを取り出してはめて戦闘態勢を取った。友好的な相手でも、見逃していい相手でもなさそうだと判断して、グールと呼ばれた、恐らくこの地下道を根城にしていた元人間であろう者達を見据える。
「マズイ系の相手ですか?」
「屍喰らい自体はあれぐらいの数なら馬鹿猿が軽くあしらえる程度だけど、それを作った奴がヤバい」
尋ねる結理に即答しならが、チェインはすぐさま通信を繋げた。
「チェイン。屍喰らいが発生しました」
(作った奴って……あの奥の気配?)
近付いて更に強さの増した気配は、今の所動く様子はない。奥から這い寄る重く冷たいプレッシャーは、まるで針を刺されているようだ。
「結理、一旦退却。ここ塞げる?」
「駄目です。逃げたらやられます。奥に、彼らを作った奴らしき気配がします」
「!?」
屍喰らい達ではなくその奥を見据えて、結理はきっぱりと言い切った。最奥の気配は完全にこちらを捕捉している。恐らく背を向ければあっという間に追いつかれ、屍喰らい達の仲間に引きずり込まれるだろう。力量は分からないが、チェインから出た退却という言葉で屍喰らいの制作者が楽に戦える相手ではないことだけは感じ取れた。
「チェインさんは下がっててください。ここで足止めします」
「……応援を呼ぶ。勝てそうになかったら迷わず逃げて」
「はい」
短く頷き、結理は屍喰らい達に向かって地を蹴った。掌底同士を打ちつけるように合わせ、こちらに狙いを定めた集団に腕を振るう。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『爪―クロウ―』!」
振るった刃爪は一番手前にいた屍喰らいをあっさりと両断した。チェインの見立て通り、自分でも相手をするのに苦はなさそうだと判断して、息もつかずに次々と屍喰らい達を斬り伏せていく。
「っ!この…!」
屍喰らいの一体が、結理の頭上を越えて外へ向かいだした。それを見逃さず、屍喰らいに腕を振るう。
「『血術』……『刃鞭―エッジ・ウィップ―』!」
奥へ完全に背を向けて赤い棘鞭で屍喰らいを切り裂いた次の瞬間、奥の気配が動いた。
相手は薄闇の中でもしっかりと少女の姿を捕捉しているらしく、真っ直ぐに鋭い殺気が飛んできた。結理は即座に振り返りながら展開させた赤い盾で弾く。火花が散り、一瞬だけ明確に相手の姿が見えた。一見すると人類の男のようだが、その腕からは刃が伸びていて、口元はソースでもこぼしたかのように真っ赤に染まっている。
(まさか……)
「『炎術』!」
疑念がよぎりながらも、攻撃の手は止めない。放たれた炎を男は飛び退いてかわし、腕の刃を伸ばす。それを身を深く沈めて避けながら、結理は相手の懐に一気に飛び込んで腕を振るった。