日常に至る経緯5
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わたくし、一之瀬結理、
「じゃあまずは、念動力をお願いできるかい?」
「はい」
ただいまライブラ事務所のテラスにて、能力テスト中です。
始まりはライブラに加入する時に色んな契約書と一緒に書かされた書類というかメモというかで、使えないと思うのも含めてわたし自身が把握してる能力を全部書き出したら、じゃあ実験してみようってことになったからだ。
何で役に立たないだろうなあと思う能力まで書く羽目になったのかというと、言いだしたスティーブンさん曰く、使えるかどうかはこっちが見て判断するとのこと。まあ確かに道理だ。
そんな訳で、書きだした能力を一つ一つ見せることになって、現在に至ってる。
ていうかこれ……初任務出る前に実験すべきだったんじゃないかなあ…?もうライブラ入って一週間ぐらいになるんだけど……いや、この一週間それなりにバタバタしてたのもあったけど……物件探ししようと思ってた日に五回も同じ形したおっきい異界生物が暴れ出したり、まだ残ってた契約書類みたいなの書こうとしたらトラックだけが次々と爆発する事件が起きたり、書類作成の事もう少し詳しく聞こうと思ったら変なガス吐き出す合成獣が出現したり……今日は朝一で大きな異界生物が癇癪起こして暴れただけで、あとはものすごい穏やかだ……って思う辺り、わたしもこの街に慣れてきたなあ……
何てことを色々思いながら、わたしは指示された通りに念動力を発動した。
対象は、何でいるのか知んないけど退屈そうに見学してるザップさん。軽いものならともかく大人の人を持ち上げるのはちょっとコツがいるから、誘導する感じで軽く腕を振って意識を集中しやすいようにする。
音楽で拍子を取るみたいに腕を横から縦に振ると、ザップさんの体がふわりと浮いた。
「っ!な……は!?え!?」
……あ、意外に重い。やっぱ戦う人だからすらっとしてても筋肉ついてんのか……
「オイコラクソガキ!!てめえの仕業か!!」
「一応100キロちょっとぐらいまでならこんな感じで持ち上げられます。軽ければ軽いほど簡単ですね。あとは瞬間的に発動させて、衝撃波みたく吹っ飛ばしたりもします。この時は結構重い物でも飛ばせます」
「成程」
「きーてんのかコラ!」
「この空間転移というのは?」
「あ、それ試すんなら最後にしてください。簡単に言えば魔術的なものも含めた障害の一切をすり抜けられるテレポート能力なんですけど、使った直後に気絶するんで。」
「じゃあ後回しだな」
「人吊るし上げといて呑気に話してんじゃねえよつるぺた!ちんちくりん!大福!チビすけ!まな板!げふっ!」
最後はちょっと聞き捨てならなかったというか、最初から聞き捨てならなかったから発動を止めて地面に落とした。そんなに高く持ち上げてないから痛いで済むはずだけど、打ちどころが悪かったみたいでザップさんは腰を押さえてがっくりしてる。
それを見てるスティーブンさんも特に何も言わないから、とりあえずザップさんは放置した。
「『血術』は何回か見せてるんで省いていいですよね?」
「そうだね。魔術というのは火や風を起こす能力の事かい?」
「はい、あってます。得意なのは火と風ですけど、他に氷と雷と水も出せます。でも全部に共通してますけど、出力調整はあんまり得意じゃないです」
とゆうか能力全般に言えることだけど、『血術』以外ははっきり言って精度が低い。極端な威力が出るか、大した威力が出ないかのどっちかだ。念動力はマシな方かな…?一応火と風の魔術も調整ができる方だけど、アレンジを加えてかまいたちとか炎の矢とかそういうことはできない。
「発動しますか?」
「いや、これも何度か見ているからいい。しかし……中々バラエティ豊かだ」
「別名器用貧乏です。それぞれに特化した人には当たり前だけど敵いませんし、さっき言った空間転移みたく反動がきつくて実戦じゃ使えないのもあります。あとは効果が中途半端だったり。治癒術が一番いい例ですね。血が出るような怪我は重傷でもある程度治せますけど、塞ぐだけで体力を回復させたり血を補充したりはできないってゆう、半端な仕様になってます」
「軽傷にしか期待できないってことか……」
「そんな所です」
「くぉらあこんガキャァァっ!!」
「ザップさんストップ!!」
「!?」
話してると、復活したザップさんが詰め寄ってきた。わたしは一瞬考えて、ザップさんに思い切り叫んだ。声の大きさにびっくりしてくれたみたいでザップさんは足を止めてくれたから、その間に結界を張る。
「前気をつけてください。そこ通れないんで」
「はあ?何言って……は?」
不思議そうに言いながらザップさんが近づいてこようとするけど、何かにぶつかったみたいに軽くよろけてますます不思議そうな顔をした。何もないように見える前を軽く拳で叩くと、壁に当たったみたいな音がする。
「今発動したのが結界です。目に見えないバリアーみたいなのと思ってもらえれば……強度的には強化ガラスよりちょっとマシ程度なんで、マシンガンとかぶっ放されると持ちません」
正直、『血術』で壁張る方が断然効率がいい。透明だから状況見られるし不意打ちはできるけど。
それが聞こえたザップさんが、焔丸で思い切り結界を張った辺りをぶっ叩いた。ガラスが割れるみたいな音がして、結界は消える。
「……とまあこんな感じで、能力に対してはほぼ無力です。あ、でも衝撃を受けなきゃいいんでその場で留まって毒ガス防いだりなんてことはできます」
ていうか……今思ったんだけど、ザップさんがいるのってもしかして……いやいやそんなまさか。だってわたしがターゲットにしなきゃ本当にただの見学者だったじゃないですか。記録係のチェインさんがこっちに詰め寄ってこようとしてたザップさんを思い切り踏んずけながら、「実験台は出番まで大人しくしてなさいよ」って言ってるけど聞こえないぞー…………後で何かお礼します。
「発火能力は魔術とは違うのかい?」
「あー……はい。それは血を飲まないと使えないです」
「ふうん……血をね」
あ、何かちょっと温度下がった。はいそうです。お察しの通り吸血鬼部分の能力です。
「まあ、魔術で火を起こす方が遥かに楽なんで、数えるほどしか使ったことないですけど。それこそ、最初に言った役に立たない能力です」
「……血を飲むことで使える能力は他にもあるのか?」
「いえ、今言った発火能力だけです。あとは強化されたり持続時間が長くなったり、反動が軽減されたりします。特に念動力と催眠術は顕著ですね」
「催眠術?ああ、書いてあるね」
「催眠術ってゆうか、視線誘導とか意識誘導に近いですかね?相手の意識とか視線を逸らしたり逆に注目させるのが基本ですけど、血を飲んだ時だけ……記憶操作、的なのもできます」
「記憶操作か……後々機会があるかもしれないな」
正直な所、血を飲んだ時の催眠術は拷問めいた使い方もできるから、あんまり好きじゃない。催眠術なんて表現してるけど、実際は精神支配って言った方が正しい。相手の意識を操ってこっちの好きなように行動させたり、考えてることや知ってることを全部吐かせたり、逆に記憶を消したりすることもできる。
……まあ、はっきり言わなくてもスティーブンさんは察したぽいけど……ぼそっと聞こえた機会が何なのかは聞かないでおこう。藪はつつかない主義だ。気付かないで突っ込む時は多々あるけれど!!
「じゃあ、さっき保留にした空間転移を見せてくれ。それで一旦休憩にしよう」
「分かりました。執務室に飛びますね」
それから宣言通りに執務室に空間転移をして気を失って、ついでに補給タイムも挟んでから、特定の条件下でないと使えないのを除いた残りの能力もいくつか披露して、能力テストは終了になった。
幸いって言うべきか、ザップさんへの実験は視線誘導と幻術で作った隙をついて二回すっ転ばせただけで済んだ。
日常に至る経緯5 了
2024年8月18日