日常に至る経緯1
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「何これ…」
『彼女には魔獣を引き寄せるマーキングをつけさせてもらった。魔獣は彼女を最優先で狙って喰らおうとするが、ここで気をつけてほしいのは彼女が魔獣に喰い殺されたその瞬間に、施した魔術が発動して魔獣が666体に増殖するということだ。そうなればもちろんゲームオーバー。それ以外の方法で彼女が死亡した場合は、マーキングは消滅し魔獣は捕食行動と攻撃行動を止める。これがどういう意味か、ナンセンスな平穏を貪っている君達でも分かるよねぇ?あ、そうそう。彼女を最優先にとは言うけど、目が合った生き物はとりあえず口に入れるからせいぜい気を付けたまえ!!平凡で愚昧な住民共は地面を見つめて歩いてればいいさ!』
つまりわたしが魔獣以外に殺されるなり不慮の事故で死ぬなりすれば、魔獣は止まって皆平和ってことか。ああ、後半からちょっと嫌な視線感じたけど皆さん考えてること似たり寄ったりですよね……?
『最後に、制限時間は111分だ。それまでに魔獣を止めてみたまえ!それでは、スタート!!!』
堕落王(もうさん付なんてしない絶対)の合図で、一番近くにいた魔獣が思い切りわたしに向かってきた。わたしはその場から動かないで迎え撃つ態勢を取った。逃げれば被害が広がる。
「『炎術』!」
大口開けて向かってきた魔獣に向かって炎を放ったけど、口の中を焼かれた魔獣は熱がるだけで大して足止めにならない。一応ダメージは通るみたいだけど、もっと大きいのか直接攻撃系じゃないと駄目そうだ。
だったら!
わたしはコートのポケットから指なしのグローブを取り出してはめた。打ちつけるみたいに手の平を合わせると、グローブに仕込んである刃がわたしの皮膚を破る。流れ出す血は、わたしの最大の『武器』だ。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
炎をまといながら向かってくる魔獣に、わたしは腕を振るった。あふれた血が形を作って研ぎ澄まされて、固まる。
「『爪―クロウ―』!!」
赤い鉤爪の刃の形になったわたしの血は、すれ違いざまに魔獣をぶつ切りにした。とりあえず1体。わたしを探しだすんならちょうどいい、残り5体も見つけ次第全部切り刻む。あと堕落王殴る。見つけ出して絶対殴る。
そう思って駆け出そうとしたけど、視界の端でもごもご動くものが引っかかって、その方向を見た。凄まじく嫌な予感しかしない……
お願いだから外れてって思ったけど、そうであってほしくなかった予想通りに、たった今わたしが切り刻んだ魔獣が、くっついて再生しようとしてる。
『ああそうそう!言い忘れていたけど、魔獣は規定の手順を踏んで破壊しない限りは再生し続けるからね!手順は言ってしまったらつまらないが、一つだけヒントをあげよう。同時攻撃だ。それじゃあせいぜい頑張りたまえ!』
「ええ…!?ああもう……『氷術』!!」
放送を聞いてとりあえず氷の魔術で凍らせて再生を食い止めるけど、堕落王の言うことが本当なら多分そんな長くは持たない。それが周りの人にも分かったみたいで、じんわりとした殺気が漂ってる。こいつ殺しとけば楽に解決するんじゃね?そんな空気になり始めてるのが嫌でも分かった。
……作戦変更。逃げよう。どっちにしろこんな人通りの多い所じゃ何かしらの被害が出る。誰もいない広い場所を探そう。ニューヨークなら公園の一つや二つあるだろう多分。
思い立ったが吉で、わたしは即行で駆け出した。殺そうとしてくる人は今の所いないけど、わたしに刺さる視線は痛い。興味本位か殺る気なのか分かんない(多分後者だと思う)けど、わたしを追いかけてるような気配もする。いつ誰がどこで行動に移すか分からない。ひとまず人目を避けてかつ魔獣が見つけやすい場所に……上かな?
壁とポールを足場に跳んで、街灯の上に立つ。何が起こるか分かんないから魔力はできるだけ温存したい。地の脚力だけで街灯からちょっと低めのアパート、そこからもう少し高いビルの上に跳び移る。誰もいないのを確認してから一息ついて、魔獣の気配を探る。今再生中のを除いた5体全部が、少しずつだけどわたしのいる所に近づいてきてる。結構遠くにいる奴まで迷わず移動してるってことは、マーキングの効果はかなり強いっぽい。
とにかくこのマーキングをどうにかしてかつ、あの魔獣達を何とかしないとこの街が……わたし自身もだけどとんでもないことになる。
魔法陣に触ってみると、少しだけピリッとしたけど弾かれたりはしなかった。触れても問題ないほど陣が強いのか、そもそも陣の核がここじゃないのか……いや、自分のじゃない強い魔力が張り付いてる感覚はここしかないから、多分前者だ。というかそもそも、マーキング消して本当に魔獣が止まるの…?同時攻撃がヒントってどういう意味…?そのまま答えで魔獣いっぺんに倒せばいいんじゃないの…!?
「あああああもう分かんない!!」
わたしは頭が悪いんだ!!って、自信満々に言うのも情けないけどこういう解析とかは得意じゃない。
ちゃんとばあちゃんの講義聞けばよかった!聞いても理解できないからさじ投げたしばあちゃんも仕方ないって言ってくれたけど、記憶の端ぐらいには残ったかもしれないのに!!何か応用できたかもしれないのに!!
『件の少女を発見した!!』
考えたり嘆いてたりしたら、爆音と一緒に武装したヘリが飛び出してきてわたしを補足した。人間なんて一瞬で粉砕できそうな機関銃の銃口は、何故かしっかりわたしに向いてる。
……嫌な予感……
「嘘でしょ…!?」
『撃て!!』
「っ!!」
馬鹿じゃないの!!!?って文句言う暇も惜しくて、わたしは屋上から飛び降りた。その直後にすごい破砕音がしたけど確認する気にはなれない。多分この街の武装警察か何かなんだろうけど問答無用で撃ってくるとかあり得ない!!殺す気満々な警察なんて……いなくはなかったけどこっちだって被害者だぞ!!
仕方なしに地上に下りて、路地裏を中心に走り抜ける。武装ヘリはわたしを見失ってくれたようで、音はするけど近づいてくる気配はない。
「っ!!」
けどちょっと広い所に出た出会い頭で、魔獣と鉢合わせた。わたしは即座に攻撃に移る。
「『血術』……『刃鞭―エッジ・ウィップ―』!!と、『炎術』!!」
刃と茨の鞭で細切れにして、手加減なしで焼き尽くす。どんだけ再生力が強くても、普通ならここまでやれば再生不能になるけど、魔獣はやっぱりもごもご動きながら再生しようとする。
……やっぱ同時攻撃の謎を解かないとダメだ。一番可能性が高いのは6体全部いっぺんに倒すだと思うんだけど……ちょっと触っただけで魔法陣仕込める技術といいこの魔獣といい、堕落王はかなりその手の分野に強いっぽいからそんなベタな解決法なのかかなり不安だ。もっと、何か複雑な方法があるような気がしてしょうがないけど……その何かが思い当たらない……!
制限時間もあるし息も切れてきたし、わたし一人じゃこれ以上どうしていいのか分からない。