日常に至る経緯4
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今日は差し当たって大きな任務もないので、K.Kは結理を連れて街へ繰り出していた。まずは雑談でもと思い、少女のリクエストもあって最近行きつけになったカフェに直行する。結理も何度か訪れていたらしく、マスターは「今日は珍しい組み合わせだね」と少女にも笑いかけていた。
「どう?この街も少しは慣れた?」
「はい。まあ何とか……任務も多少はこなせるようになりましたし……あ!でも初日の任務は大変でした!ザップさんと組んだんですけどもう散々で……」
「あー、ザップっちはねー……でもいい奴だったでしょ?」
「……はい。ガラは悪いし女の人にだらしないし色々クズいけど、悪い人じゃないのは分かります。仕事に対して真面目だし、面倒見もいい人だと思います」
「よしよし、アンタ見る目あるわ!」
「あ、ありがとうございます……」
わしわしと頭を撫でると、結理は恥ずかしそうに笑ってサイダーに口をつけた。湿らせる程度にちびりと飲んでから、隣に座るK.Kの方を向く。
「でも本当に、みなさんすごくよくしてくれてありがたいです。吸血鬼と戦ってる人達って聞いたから、もっと歓迎されないと思ってましたし」
「まあねぇ……私も正直、直にユーリっち見るまではちょっと疑ってたわ」
「ですよねえ……っ……」
苦笑してグラスに触れようとした結理が、不意に表情を凍てつかせた。そのまま動かず、視線だけで周囲を見回すと指を組み、親指の爪の先を掌に当てた。
「ユーリっち?どうしたの?」
「……あーK.Kさん、変な事聞きますけど、誰かから恨み買われてる覚えってありますか?」
「そりゃまあ、こんな仕事してたら心当たりはあるわね」
結理の問いに答える頃にはK.Kも気付いていた。コーヒーカップをソーサごとずらしながら、反対の手はごく自然にホルスターに伸びる。
「マスター、ちょっと騒がせちゃうけど勘弁してね?」
「え?ああ……」
K.Kの呼びかけに怪訝そうに返事をしたマスターは、窓の方を見るとすぐにカウンター裏にしゃがんだ。直後にガラスの破砕音が店中に響き渡り、各々武装した異界の存在が飛び込んでくる。
だが、狙いを定めて銃を構えた瞬間に、彼等は体の数か所を穿たれていた。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『刃鞭―エッジ・ウィップ―』!」
銃撃が途切れたわずかな隙を縫って赤い棘鞭が構えようとした相手を切り裂き、テーブルの隙間を駆け抜けた黒い影がすれ違いざまに叩き伏せていく。
昏倒した相手に目もくれず顔を上げた瞬間、背後から機関銃を構えた襲撃者が飛び出してきた。結理は即座に振り向いて構えるが、それよりも早く相手の頭に穴が空いた。
「ふう……この間の連中かしら?」
二方向に銃を構えたままK.Kが呟いた。周囲は銃撃の余韻が反響しているだけで、立ち上がろうとする者も援軍の気配もない。
「……か……っこいいぃぃぃぃぃぃ…!!」
「ありがとー!」
銃を下したのとほぼ同じタイミングで歓声を上げた結理に、K.Kは笑顔で返事をした。障害物を飛び越え、ついでに倒れている襲撃者を踏ん付けて駆け寄ってくる少女の色違いの瞳は、興奮と感動でキラキラ輝いている。
「もうめっちゃくちゃ!かっこよかったです!美人で強くてかっこよくて子持ちで既婚者ってどんだけパーフェクトなんですかってぐらいかっこよかったです!!」
「やだもー褒めすぎよ!ユーリっちだってやるじゃない!」
「えへへ……ありがとうございます!」
あの混戦の中できっちり襲撃者の相手をしながらK.Kの手腕を見てかつ、無傷でいられる技量は中々のものだ。正直に称賛すると、結理は照れくさそうに笑った。
「いやーすごかったなあ……」
銃撃の音が収まったのと雑談が始まったのとでひとまず終わりと判断したらしく、カウンター裏からマスターが顔を出した。それから店内の惨状を見て、困ったように苦笑してため息をつく。
「こりゃ掃除が大変だ」
「手伝いますよ」
「そうね。私らの責任でもあるし」
そう言って結理とK.Kは同時に腕を上げた。K.Kの放った銃弾が厨房からこちらを狙っていた異界人達を撃ち抜き、結理の指から伸びた赤い刃がマスターの首元を挟むように捉えて、こちらに向けようとした銃を切り落とした。
「結構気に入ってたんだけどねえこの店」
「残念です。さてマスター、」
ため息をつくK.Kに返してから、結理はマスターに笑いかけた。少女の笑顔はまるで世間話でもしているようで、生殺与奪を握っている風ではない。そのアンバランスさが背筋に寒いものを走らせたのか、笑顔を向けられている初老の男の顔から血の気が引いた。
「どこのどちらさんからの差し金か、教えてくれますか?」
(へえ、これは中々……)
そんな結理の姿を見て、K.Kは驚きと感心に目を瞠った。先程の戦闘もそうだが、愛らしい容姿に反して血生臭い荒事に慣れている。何の躊躇いもなく赤い刃を振るう様子から、この街を訪れる以前からそれなりに修羅場を潜ってきているのが見てとれた。それでいて少女の素直さを失っていないのだから、大した図太さだ。
「……」
「そちらのボスは、あなたの首がいらないほど守りたい人ですか?」
「……っ…!!」
最後通告に、元顔馴染みのマスターは震える声で雇い主の名と組織を口にした。