日常に至る経緯4
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日K.Kは、午前中からライブラの事務所に呼び出されていた。
連絡をしてきた腹黒男……もといスティーブン曰く、新人を紹介したいとのことだ。
ここ最近は立て続けに任務や家の何がしが入って事務所にほとんど顔を出すことができなかったが、とある新人が入ったという話だけは聞いていた。
堕落王の気まぐれに付き合わされて、解決しながらも即座に病院送りになった哀れな新人は、異界とも違う異次元から来た存在で、人間と吸血鬼とその他いくつかの人外の混血という、このヘルサレムズ・ロットでもかなり特異な少女らしい。一足先に彼女と顔合わせを済ませた武器庫―アーセナル―のパトリックは「人類と人外の合いの子っつーからどんな怪物かと思ったら、見た目はどう見ても普通の女の子だ。そんでもってちっちゃい。」とからから笑っていたが、それは彼が新人のことを異次元から来た存在としか聞かされていないからだと、K.Kは判断した。
新人が純粋でないものの吸血鬼に連なる者であることは、ライブラ内でも一握りの者にしか伝えられていないらしい。その新人の言葉を信じるのなら異次元の存在とはいえ、血界の眷属の血の入った者をよく同志として迎え入れたものだと思うが、電話の向こうのスティーブンは苦笑しているであろう声でこう言った。
「クラウスが彼女の人柄をいたく気に入ってね……まあ、うちのリーダーを射止めるぐらいにはいい子だよ。君もきっと、すぐに気に入ると思う」
そのリーダーを諌めるのがアンタの役目だろうが。と遠慮なく言い放って、K.Kは呼び出しに応じた。その新人に対して色々と疑惑が残るのだが、あのスティーブンですら多少以上認めている様子が見える上に、彼女が自身の血筋を話した上で監視でも被検体でもなく同志として勧誘されたのなら、こちらに害をなす存在である可能性は低いのだろう。『牙狩り』にも、過去に血界の眷属がこちら側と共闘したという記録が、わずかではあるが例外中の例外として残っている。
何にしろ百聞は一見に如かず。全ては彼女、結理一之瀬と顔を合わせてからだ。
今日の扉を指定して、事務所に上がる扉を開いた。
「ハーイクラっちー、噂の新人おがみにきたわよー」
「やあK.K、早くに呼び出してすまなかったね」
「アンタには言ってないわよ腹黒」
「今日も手厳しいなあ……」
困ったように苦笑するスティーブンは放っておいて、K.Kは我らがリーダーに視線を向けた。
「で?その新人は?」
「彼女だ」
K.Kの問いにクラウスが指し示したのは、彼の隣にいた小さな姿だった。大柄なクラウスの横にいたということを差し引いても、かなり小さい。
つやのある黒髪に丸い瞳。動きやすそうなTシャツとショートパンツの上にロングサマーコートを羽織った小柄な少女は、何故か驚いた様子でK.Kのことを見つめている。
驚いているのはK.Kも同じだ。確かに少女だとは聞いていたが、ジュニアハイスクールも卒業していないんじゃないかと思うくらいの、予想以上に子供で思わず言葉を失った。
「結理君、彼女が先程話したK.Kだ」
「あ……はい」
クラウスの言葉に若干硬い声で返事をした少女は、K.Kの前まで歩み寄るとぺこりとお辞儀をした。
「一之瀬結理と言います。えっと、ジャクハイモノ、ですけど、よろしくお願いします…!」
「どうしたお嬢さん?今日は随分硬いじゃないか」
「だ、だって、銃器のエキスパートで『牙狩り』で、結婚してお子さんもいるって聞いてて、失礼だけど怖い感じの人なのかな?って思ってたから……」
怪訝そうなスティーブンの問いに、結理は戸惑いがちにK.Kをちらちら見てから、はにかんだ笑顔を見せた。
「こんな美人さんだなんて思いませんでした…!」
身長差で上目遣いになっている視線を向けて、好奇心旺盛な小動物、あるいは小型犬を思わせる姿からそんな言葉が出てきた。
「………………」
何この子可愛い。
K.Kの中で真っ先に出た感想はそれだった。
「やだもう!そんな嬉しいこと言っちゃってー!」
「うわわわ…!」
そして真っ先に出た行動は少女を抱きしめることだった。顔を合わせる直前まであった疑惑や警戒は一発で吹っ飛んでいた。もしもこの可愛らしさが演技や裏があっての行動だとしたら、裏社会にいるより女優にでもなった方がいい。
「人外だとか吸血鬼の血が入ってるとか言うからどんな化物かと思ったら超可愛い子じゃなーい!クラっちどころかスティーブンまでメロメロになるの分かるわあ!」
「いや……確かに結理君は愛らしい。しかし容姿で彼女を同志に迎えたいと思ったわけではないのだが……」
「メロメロになった覚えはないよ」
戸惑うクラウスとばっさり切り捨てるスティーブンの返答も気にせず、K.Kは照れと戸惑いで顔を紅潮させた結理と向き直った。
そして気付いた。黒だと思っていた少女の瞳がオッドアイであることに。
「あら?あなた目が色違いなのね」
「おぉう……一発オッケー…?」
「?」
「あ、いえ、目立つんで初見だと黒に見えるようになってるんです」
えへへ……と愛想笑いを漏らしながら、結理はこっそりK.Kから少しだけ距離を取った。抱きつかれることは嫌ではないが、まだ顔を合わせて数分も経っていない相手なので戸惑いの方が勝る。それに気付いていないK.Kは軽く居住まいを正してから結理に手を差し出した。
「改めて。K.Kよ。よろしくね?ユーリ」
「はい。K.Kさん」
照れくさそうに笑いながら、結理は差し出された手を取った。