日常に至る経緯3
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「しんっじらんない!あんな室内であんな火力出しますか普通!?髪の毛焦げちゃったじゃないですか!!」
「ああ!?死なねえように加減しただろうが!」
「わたしが壁と氷出さなきゃわたし達は焼け死んでましたー!!」
「ぐ…!そこは……ほら、あれだ、チームワークだろ」
「今日顔合わせたばっかの即席コンビでチームワークもクソもあるわけないでしょ!あんた絶対考えなしに火ぃつけてましたよね!?」
「んなこと言ったらてめえだって警告なしで火ぃふいてたじゃねえかこの大福!!」
「どう見ても加減してたでしょ!わたしが大福だったらあんたは焼き豆腐だ!!」
「だいたいあの程度でぶっ倒れてんじゃねえよ!貧血持ちの血法使いなんてあり得ねえだろ!!」
「しょーがないでしょ朝ご飯ちゃんと食べらんなかったんだから!つかそれすら元々はザップさんのせいじゃないですか!!!」
自分でもちょっとうるさいと思うぐらいぎゃあぎゃあ言い合って、疲れてきたからわたしとザップさんは息を切らせながら睨み合ったまま、それ以上言うのを止めた。
結論から言うと事件は解決した。そしてわたしは炎を防ぐのに『血術』と魔術を同時展開したら貧血で動けなくなって、回復した第一声が今のケンカだ。
骨の奴は骨せんべいみたいにこんがり焼けたけど、どうにか生きてたらしいから協定違反で拘束されて、彼が作り出した人間が主食で壁の中を自在に移動できる合成生物は跡形もなく燃え尽きた。多分、あの海苔もどきをまとってなかったら骨は炭になってたと思う。
……ついでに建物内にあった研究記録などなどの証拠品も見事に灰になりました……うん……自分達守るの精一杯で……そこまで気が回んなかったんだ……
「話し合いは終わったかな?二人とも」
「「……!!」」
……なのでこれからスティーブンさんによるお説教タイムが始まりまーす……やばい、笑顔がすっごい怒ってる。薄々感じてたけどこの人絶対怒らせたらいけない人だ……!
「初日から派手にやってくれたねお嬢さん」
「スイマセンでした……」
ていうか……今言われて思い出したけどわたし今日初日だよね…?何?堕落王の時といいわたしの初日は目まぐるしくなきゃいけないの…?
「いや、でも、その……最終的に炎上させたのはザップさんなんですけれど……」
「そもそもこいつがとっ捕まったのが始まりですからね」
「だからそれは作戦だって言ったじゃないですか!」
「先に言っとけっつの!!」
「……はあ……」
「「っ!!」」
また始まりかけたケンカは、スティーブンさんのため息で強制終了された。怖いものなさそうなイメージがあったザップさんだけど、流石にスティーブンさんには逆らっちゃいけないって叩き込まれてるっぽい。今日一日でこんなに綺麗に気をつけをしてるザップさんは初めて見た。
「……お嬢さんは初任務だということで今回だけは大目に見られる。いや、本当は見れないし言いたいことは山ほどあるんだけれど、まあ……後でいい。問題はお前だザップ」
「えぇっ!?俺っすか!?」
ていうか後で山ほど言われるのかわたし…!!!
「今お嬢さんが言った通りだよ。証拠品を粗方灰にしてくれたのは誰だ?」
「う゛……!」
「確保する相手を建物ごと黒焦げにしたのは?」
「いや、それは「ああ、最大の証拠である合成生物も燃やし尽くしてくれたんだっけ?」すんませんでしたあっ!!」
「後で始末書な。一枚で終わると思うなよ?お嬢さんもだ」
「はい……」
「謹んでお受けします……」
終わりよければなんて言葉があるけど、事件が解決しても一件落着なんてことにならないことだってあるのが現実で……
そんなこんなで、わたしの初出勤初任務は散々な結果に終わった。
その後、報告書と始末書の作成手順と一緒に、予告通り心がへし折れそうなぐらいお説教されて、更にザップさんの先輩とは思えないぐらいひっどい報告書の直しまでやる羽目になった頃には、日はすっかり暮れていた。今日は部屋探し&副業探しをしようと思ってたのに、すごい一日になったなあ……ていうかあの焼き豆腐先輩何ちゅう字だよ古文書かよ…!?うっかり解読できちゃったせいで仕事が増えたじゃないか!!
向かいのソファで寝てるザップさんをにらむけど、寝顔はぐったりしたしてるしわたしよりも更に、しかも仕事外で何かトラブルがあったみたいでそれも込みで、そのまま氷漬けにされるんじゃないかってぐらいお説教されてたから、追い打ちかけるのは止めた。可哀想とかじゃなくて、これで立ち直れなくなったらわたしのせいみたいで寝覚めが悪い。
代わりに今日一日を思い起こす。
最初にこの世界に来た日と同じか、それ以上に濃い一日だった。この街のことやライブラの活動も少しは知れたし、色んなものも見ることができた。
何より……一番近い先輩のことを色々知れた。
ガラが悪くて女の人にだらしなくて短気で喧嘩っ早くて、人のこと子供扱いする割には子供っぽい所があって、でも仕事に対しては真面目で案外面倒見が良くて……動けなくなったわたしを割と心配してくれて運んでくれたのは、結構びっくりした。
「クラウスさんの言ってたこと合ってたなあ……」
最初は疑ったけど、終わってみればその通りだった。
打ち解けたかどうかは……まあ、まだ結論は出さないでおこう。
わたしはペンを置いてザップさんの所まで行って、ずれて床に落ちた毛布をかけ直してあげた。
「今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。先輩」
日常に至る経緯3 了
2024年8月18日 再掲