日常に至る経緯3
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映ったのは四分割された映像で、どれも場所は違うけどどこかの路地だった。多分、角度的に監視カメラか何かで、ちょっと画像が粗いけど両方の画面にそれぞれ若い男女が歩いてて……突然壁から伸びてきた黒い触手みたいなのに捕まって消えた。
……何あれ…?
「右上が五日前に、残りが堕落王の騒動の真っ最中に録られたものです。手口から見て同一犯に間違いありません」
「出現場所は完全ランダム……唯一の共通点は路地か。カメラに映ったのは偶然だろうな……」
それはつまり、実際はもっと大人数があの黒いのに捕まってる可能性が高いってこと。
何か……初日からすごい事件を追うことになりそう……って、右も左も分からない新人がいきなり現場に放り出されるってことはないか。誰かの補佐か、もしかしたら待機なんてことになるかもしれない。
そう思ってたら、何でかスティーブンさんがわたしの方を見た。何だろう?
「……よし、ザップとお嬢さん、君達で組め」
「「は?」」
「それでいいかい?クラウス。いきなりの任務だが、ザップとならこの街に慣れていないお嬢さんでも問題ないだろう?」
「ああ。結理君、初日から大変になるかもしれないがよろしく頼む」
「いや、あの、組めってどうゆう意味ですか?」
「お嬢さんにはまず事件の概要からだな」
そう言ってスティーブンさんは、今流した映像のあらましを説明してくれた。
今から二週間前、ライブラの構成員の人が偶然、路地裏で突然若い男女が消えたのを目撃した。それだけならこのヘルサレムズ・ロットなら日常だし、一瞬目を離した隙に消えたから角でも曲がったんだろうと思ってあんまり気にしなかったけど、その三日後、その消えた男女がいきなり街中に現れて暴れ出したらしい。
それも、原形を留めないほどの異形に変身して……
起動装甲警察隊が大通りのど真ん中で暴れる元男女を『始末』した次の日、また別の男女二人組の異形が現れて、今度はポリスーツを壊滅寸前まで追い詰めた。それから二日後には男女二組、四体同時に現れた上に合体して暴れ出して、それはクラウスさん達が鎮圧して、そこからまた何回か現れては鎮圧されてを繰り返した後、急に音沙汰がなくなって現在に至るとのこと。
この約一週間の騒動から、組織か個人かも分からないけど何者かが男女をさらって改造して、ぱたりと音沙汰がなくなったのは更に研究や強化を重ねているのではないかという憶測が出てきた。憶測に留まってるのは、異形化した男女がみんな倒されると同時に溶けてしまったせいで解剖とかの詳しい調査ができなかったからだ。
これ以上の被害の拡大を防ぐ為に調査を始めて更に一週間、間に堕落王の騒動とわたしの加入を挟んだ今日、チェインさんが入手した映像を持ってきた。
ちなみに堕落王の騒動の時もその調査中で外にいたから、わたしを早々に捕捉できたんだとか……
ていうか路地裏で誰かが消えるのが日常って、わたしも買い物中に連れて行かれかけたけどほんとにすごい街だな……殺気にいちいち反応してたら身が持たなそうだから少し気をつけないと……
「今見た通り、攫われたのは全員若い男女の二人組だ。路地以外に発生場所を絞ることができない以上、こちらは後手に回るしかない」
「つまり、わたし達に囮になれってことですか?」
「そういうこと。君達の勘でいいから路地をうろついてみてくれ。捕捉次第連絡、場合によっては戦闘に突入して犯人を確保しても構わない」
成程、大体理解した。これは初日から大仕事だ。むしろわたしでいいんだろうか…?
「ちょ、スターフェイズさん!俺にこのガキのお守りしろってんですか!?」
「お嬢さんはこう見えてやる子だから大丈夫だよ。ついでにこの街の案内でもしてやってくれ」
にこやかに言うスティーブンさんに、ザップさんは嫌とは言わなかった。
「あー……何だってガキ連れて歩き回んなきゃなんねえんだよ…!?」
ただし、外に出た途端予想通りに悪態をついた。わたしだって第一印象最悪な人といきなり組むなんて不安しかない。けどクラウスさんもスティーブンさんも、ものすごく嫌そうな顔してたチェインさんだってこの案を反対しなかったから、多分、何とかなる、のかなあ……?
「ガキじゃありません!一之瀬結理です!それに自衛なら問題なくできるんでご心配なく!」
「そういう自信満々な奴ほどこの街じゃ真っ先におっ死ぬんだよ!」
一応と思って言うわたしにザップさんは即答した。
「ガキの割には多少腕が立つみてえだが、基本的に何でもアリなのがこの街だ。腕っ節だけじゃどうにもなんねえことなんざごまんとあるし、いつ何がどんな形で起こるか分かったもんじゃねえ。お前自身、来て早々それに巻き込まれたんだろ?堕落王関連は流石にレアケースだが、それに近いことは普通に起こる。その色違いの目ん玉くり抜かれたくなきゃ油断すんなよ」
「どんだけ理不尽な街なんですか、ここ……」
葉巻をくわえて歩き出したザップさんは、嫌そうな顔のままだったけど声は真剣だった。脅しじゃなくて事実なんだろう。嫌だ嫌だ言う割には案外きちんと話してくれるのか……
……って……
「……ザップさん、今何て言いました?」
「あ?」
「わたしの目が色違いで見えてるんですか?」
「それがどうした」
「……マジか」
聞き逃してはいけない一言を聞き返したら、何がおかしいんだと言わんばかりの即答がきた。
わたしの瞳は確かに赤と緑のオッドアイだ。けど、そう見えてるのは本来ならおかしい。写真ですらわたしの瞳は両方とも黒で映る。そういう魔法が、わたしの目にはかけられている。
え、『効果』消えてる?いや、それは多分……いや絶対にない。よっぽど強い力じゃないと消えないってばあちゃん言ってたし……自分でやったんじゃなくて両親とばあちゃんが共同でかけたもんだからわたし自身も構造がいまいち分かってないけど、特定の条件をクリアして魔法に認められないと元の色で見えることはない……らしい。わたしは特定の条件が何なのかは知らないけど、まあ多分、わたしに害をなすかどうかみたいな感じだろう。
その効果が通じていない。と、いうことは……
「あー……ザップさん、」
「何だよ……うお!?」
前を歩くザップさんの腕を引いて、手の届く位置まで顔を下げさせる。ザップさんは驚いてるけどそれはとりあえず無視して、はれ上がってちょっと削れてる顔に手を添えた。
「『療』」
軽く唱えると、わたしの手が淡い光をまとって、傷を治していった。文句か何かを言おうとしてたらしいザップさんは、口を開けたままきょとんとしてたけど、何が起こったのか分かると滅茶苦茶びっくりした顔でわたしを見た。
「お前……何やった?」
「怪我を治す魔術です。少なくとも今日一日は組むんだし、そんな痛そうな顔を放っておくのも何か申し訳ないんで」
正直言って別にほっといてもよかったんだけど、挨拶代わりのサービスってことで。
「さっきはうやむやになっちゃったけど、今日はよろしくお願いします」
そう言って笑いかけると、ザップさんは何とも言えない複雑そうな顔になった。いきなり殊勝な態度になったわたしにびっくりしたのかもしれない。わたしも我ながら現金だなあとは思うけど、『認めて』しまったんだから仕方がない。
ザップさんはしばらく難しい顔でわたしのことを見てたけど、その内結論が出たみたいですたすたと歩き出した。わたしも普通についていく。
「……足引っ張んじゃねえぞ……新入り」
「はい!」