日常に至る経緯1
名前変換
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「やあ一之瀬結理!久しぶりだねぇ…!もしかしたら君にとっては何十年ぶりになるのかい?一つ前の世界からしか見ていないから分からないのだけれど、僕にとっては約三年ぶりだ。君がいなくなってから世界は面白いことになったよ!紐育のあった場所にヘルサレムズ・ロットという都市が出来あがってね!なんと!今までこの世界では人間の歴史の表舞台に立つことの決してなかった異界とその異界に住まう存在が常識的に存在するようになってしまったんだ!だが彼等は今やその異常に慣れ切ってしまった!そう!普通になってしまったんだよ!僕が最も嫌う『普通』だ!まったく、人間の順応性と言うのは恐ろしいねえ!」
「……えっと、」
いきなり目の前に現れた、顔の半分だけ仮面をかぶった男の人にすごい勢いでまくしたてられて、わたしはとっさに言葉を返せなかった。
確かにわたしの名前は一之瀬結理で、訳あって異世界トリップと呼ばれてるものを繰り返してる身で、見た目15,6歳だけとそれよりはちょっと長く生きてる、と思う。年齢に関しては記憶が曖昧だからはっきりしたことは言えないけど……
そして、前の世界から次元移動の魔法を使ってこの世界に来た。
けどわたしは、この目の前の人に覚えがない。記憶力は自信満々とまではいかないけど、それなりにある。それ以前に、こんなインパクトの強い人を忘れるわけがない。
「あの……すいません、どちら様でしたっけ?」
「……はあ!?おーいおいおいおい!この僕を忘れただって?この堕落王フェムトを?ナンセンスを通り越して傑作だ!あんなに目をかけてあげたって言うのに!!」
名前らしきものを聞いたけど、やっぱり思い出せない。はて?堕落王フェムト……肩書きとルックス的にタダ者でないのは分かるんだけど……
「まあ、仕方がない。あの時の君は目も当てられない程憔悴していたからね。覚えていなくても仕方がない話かもしれない」
「はあ……すいません」
「だが僕を忘れた罰は、負ってもらうよ?」
「……え?」
思わず聞き返した時には、フェムトさんはわたしに触れていた。油断してたわけじゃないんだけど、びっくりするぐらい自然に首の下、鎖骨の間辺りに触って、軽く突き飛ばされた。
突然のことについていけなくて、フェムトさんの若干腹が立つ笑顔が妙に目に焼きついた次の瞬間、わたしは空中に放り出されていた。
「うそ……っ!」
放り出されたのはとんでもない高度だった。摩天楼…だっけ?そんな風に呼ばれる高いビルがたくさん並んでいて、遠くや空は霧がかかってる。多分、ここがさっき言ってたヘル……何とかロット?なんだろう。
……って、冷静に分析してる場合じゃない。考えてる間にもわたし落っこってる。これだけの高度がなかったらとっくに叩きつけられてるぞわたし。
「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
『ごきげんようヘルサレムズ・ロットの諸君。堕落王フェムトだよ!』
どっかから流れてる放送を聞きながら、わたしは魔力を練り上げる。出来ればどっかのビルの屋上とかに下りたいけど、偶然なのか狙ったのか着地できそうなビルは近くにない。
いや、これ多分わざとだろなあ……わたしのこと知ってるみたいだったし、ていうことはわたしの『能力』もろもろも多少以上は知ってるんだろう。
『まあた日々を退屈に無駄に過ごして浪費しているだろう君達に、僕からそんな退屈を吹き飛ばす素敵なプレゼントを用意させてもらった!まずは登場してもらおう』
「『風術』!」
地面に着く何メートルか手前で、わたしは魔術を放った。突風を吹かせるというどシンプルな魔術はわたしを一瞬だけ浮かせて、その間に体勢を立て直したわたしは難なく地面に着地した。周りの人がちょっとびっくりした顔で見てるけど、それはわたしも同じだ。
首から上だけやたら大きくて目が五個ある人。顔は普通だけと袖から伸びてる手が触手な人。そもそも人の形をしてない生物などなど、わたしを見てるのはほとんど……いや全部って言っていいぐらいの割合で人外だった。
人外率半端ないなあこの街……元ニューヨークらしいから街並みは結構普通なのに、ここまで人間率低い光景は初めて見た……
そう思ってたら、突然地面が揺れるくらいの重い音がした。見ると二階建てのアパートっぽい建物の屋根に何か……軽自動車ぐらいあるおまんじゅうに手足を生やしたみたいな、変な生き物がいた。周りの人が今度はその生き物を見て不思議そうにしてるから、あれがいるのはおかしな光景っぽい。
てか……おまんじゅう(仮)が何でかじーーーっとわたしのこと見てるんだけど……
『さあ現れたかな?この6体の魔獣は制限時間を過ぎると666体に増殖し、目に付いた生物は人間異界人問わず食べようとする。そうなる前に魔獣を止めないと、このヘルサレムズ・ロットは魔獣が住民の街になってしまうだろうねえ!それと、』
放送の声が途切れて、街路モニターが切り替わった。そこに映ったのは今言った魔獣とやらの現在地を表してるらしい地図と、黒髪に黒い瞳の女の子の写真。瞳の色は魔法で隠されてる状態だから違うけど、いつも鏡で見てる、よく知ってる顔がでかでかと映ってた。周りにいる人達が一斉にわたしを見るけど、こっちだって予想外の事態だ。
「……え、わたし?」
『彼女の名は結理一之瀬。なんと!異界とも違うまったく別の世界からやってきた異次元人だ!異次元人なんてこのヘルサレムズ・ロットでもまあまあ驚きな存在だろう?そんな彼女に今回の主役を務めてもらうよ!』
ちょっと待った聞いてない。てか主役って何?突っ込み入れたいけど絶対届かない…!
「……ぅ…!」
どうしようと思ってたら急に首の下辺り、さっきフェムトさんに触られた辺りが痛いくらい熱くなった。シャツを引っ張り下げて見ると、さっき触られた所に何か魔法陣ぽいものが浮かんでる。
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