異界都市日記13
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結論から言うと、ミッションは驚く程円滑に成功した。
シャッター音を消したプライベート用の予備携帯でいくつか隠し撮りをし、ダメ元で正面からの撮影をお願いしたら、同行したパンドラムの獄長であるアリス・ネバーヘイワーズには盛大に睨まれたものの、ハマーやクラウスも含めた三人での説得の末、余所への持ち出しは絶対にしないという約束をどうにか取り付けたことで許可が下りた。
「……あ……ありがとうございます……!一生大事に゛じま゛ず……っ!!」
「!?」
「泣く程かよ」
「写真ぐらいならいつでも撮りにおいでよ!」
「ダメに決まっているだろうが!今回は特例中の特例だ!!」
(よかった…!これでアリギュラさんに写真渡せる…っ!!)
撮影を終えた時、結理はミッションクリアの安堵で少しだけ泣いてしまった。周囲は驚きや呆れ等色々なリアクションをしたが、滅多に会えない青年と写真を撮れた感激と解釈してくれて、特に疑われることもなかった。
だが、そんな平穏無事に終わったはずの帰り道で、事件は起こった。
「いや良かったな」
「!?!?!?!!」
ぽつりと呟かれたブローディの言葉に、アリスが驚愕を隠さずに振り向いた。似たような心境の結理もぎょっとしてブローディを見ると、当の本人はやや不満げに、どこか楽しげに言い返す。
「そんな驚くこたねえだろ…囚人はせいぜいエロ写真ぐらいにしか興味が無いとでも思ったか」
「ブローディさん絵画分かるクチなんですか?何か意外……」
「昔横流しすんのにちょいと調べたらハマっちまったんだ。目利きもできる方が色々都合良かったしな」
「理由すげえそれらしいですね……」
「絵画について語ったりなどするのかね?二人で」
「まあ好き嫌いの話程度さ。分かんだろ?コイツは議論に向くタイプじゃねえ。ただちょっと描かせると才能はあるな」
「ほう…実に興味深い。今度画材を差し入れるとしよう」
「ホント!?やった!!あ!じゃあその時ユーリちゃんも来てよ。モデルいてくれた方が描きやすいし」
「え……わ、わたしですか!?」
予想外の指名に驚いた結理が思わず聞き返した直後だった。
「っ?ぅわっ!?」
不意に探知能力が何かの気配を捉え、その方向を向こうとした結理だったが、それと同時に隣に座っていたクラウスが少女を抱き寄せ、反対の手で十字の杭を撃ち出した。地面に突き刺さった赤い杭によって急激に速度を殺された車がつんのめり、その勢いで回転するとどこからか『降ってきた』ポリスーツを止めるような形でぶつかって停車する。
だがそれで終わりではない。かなりの重量があるはずのポリスーツがもう一体飛んできて、現場を目撃して歓声を上げる子供達の真上に落下しようとしている。
「――血殖装甲(エグゾクリムゾン)」
それを止めたのは、車窓から飛び出した大きな赤い手だった。
「キャッチ&リリース」
血で形成した手に受け止められたポリスーツは子供達を下敷きにすることなく、何もない地面に派手な音を立てて落ちる。
「……び……っくりしたー……!!」
飛ばされないようにクラウスにしがみついたままの状態で、丸い目を更に丸くした結理が呆然と呟いた。
「何があった!?」
「ははは、ポリスーツが降ってきやがるとは」
「とんだ悪天候だね」
「気を付けろ!!1.1トンの強化外骨格だぞ」
「あれを吹っ飛ばせるって、相当なパワー系ですね」
各々言葉を漏らしながら同じ方向を見る。さほど広くない路地の入口にポリスーツが数体立っていて、何かと交戦しているようだ。銃での攻撃の効果はほとんどないようで、悪態をつきながら後退しているポリスーツを追うように、路地から大きな影がゆっくりと姿を現した。
「うわー……どっからどう見てもパワータイプ……」
(……あれ?あの人……どっかで……)
筋骨隆々という表現では追いつかない体格を持つ異界存在の顔に、結理は見覚えがあった。だが即座に記憶と繋がらない。どうにか引っ張り出そうと顔をしかめている間に、クラウスが連絡を取る。
「私だ。新三番街通りで緊急事態発生。未確認の巨大「人」物が機動警官隊と交戦中。念のために各員に伝礼、警戒態勢(デフコン)は2。緊急出動に備えよ」
それを聞きながら結理はコートのポケットから血晶石とグローブを取り出した。見覚えのある顔の詳細はまだ思い出せないが、今は後回しだ。グローブをはめながら血晶石を噛み砕き、気持ちを切り替えるように小さく息をつく。
「うーんクラウス兄ちゃん、これは僕ら行くべき?」
「バカヤロウバカ止めんなよ?バカヤロウ」
「いやこれ血槌(ブラッドハンマー)の出番でなかったら誰が出るんだって話ですよ…!」
どこか呑気に尋ねるハマーに言い返すようにブローディと結理が即答し、ひとまずの指示を終えたクラウスも神妙な面持ちで一緒にアリスの方を見た。
「………獄長」
「許可する。最短で拘束しろ」
「了解」
事態を重く捉えたアリスが即答で許可を出すと同時に、ハマーにかけられていた手錠が電子音と共に外れて落ちる。ブローディが歓声を上げる中、三人の戦士は揃って車を降りた。
「あ、それとスティーブン、ギルベルトに伝言を――」
向かう先にいるのは、強大な人型の異界存在。
「私の夕方の予定は、キャンセルしてくれ給え」