異界都市日記13
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(だあああもおおおおお!どうしよおぉぉぉぉぉぉ…!!)
反射的に約束してしまい、結理は頭を抱えてうな垂れていた。堕落王を引き合いに出されて二つ返事をしてしまうのは何回目だと嘆くと同時に、約束を果たしてしまったら偏執王のモチベーションを上げてしまうことになり、結果的に騒動の引き金を自分が引いてしまうという事実にも気付いてしまった。
(いや、でも、写真渡しちゃえば少なくとも堕落王は出張ってこないし、アリギュラさんなら堕落王よりは多少……ほんとに多少だけどマシだから騒動起こしたらわたしが率先して阻止すればいいけど…アリギュラさんもそこに関してはノータッチだし……それ以前に!どうやって!あの二人に会うの!?つかどうやって写真撮るの!?無理だったは絶対通じないし!)
「結理?」
何て面倒な相手と交友関係を持っているのだろうと、そして何で頼みを聞いてしまったのだろうと更に項垂れていると、声をかけられた。
「あ、クラウスさん。おかえりなさい」
「酷く悩んでいるようだが、何かあったのか?」
「え!?いや、その、えっと……あ!期限が近くてわたしじゃ処理できない書類が出てきたんですけど、スティーブンさんと連絡つかなくてどうしようかと思ってまして!これなんですけどね!」
「ではこちらで預かろう。スティーブンには私から言っておく」
「ありがとうございます」
現在悩んでいたことではないが、実際本当に困っていた事柄を伝えてその場を誤魔化しながら、結理は表情を繕った。
「……あの、クラウスさん……」
できれば自分一人でどうにかしたいミッションだが、内容が内容な為そうもいかない。
「ハマーさんと会うことって、できますか?」
「ハマーと?」
「あ、いや、大したことじゃないんです!けどほら、ハマーさんって色んな事情から中々会えないじゃないですか?でも、やっぱりライブラの仲間だし、任務抜きで会いたいなーとか思ったり、ブローディさんとも、ちょっとお話ししてみたいなーなんて、思ったりしたり、したん、です、はい……」
(あああああ心苦しいいいいい…!!)
胸中の表情は表に出さないように全力を尽くしながら、結理は恐る恐る申し出た。その言葉に嘘はない。会う機会こそ少ないが、ハマーは結理のことを小動物的に気に入っているようで顔を合わせるとよく構いに来る。小動物扱いはともかく、朗らかで裏表のないハマーに構われるのは満更でもない結理ももっと顔を合わせたいと思うし、彼を宿主としているブローディとも話をしてみたいと思っている。
だがその本心の更に奥には、偏執王から投げつけられたミッションが隠れている。他でもないクラウスに隠し事をしながら頼み事をするというこの状況は、色々な部分が苦しい。
いっそ無理だと突っぱねて欲しいと思い始めた結理だったが、それは思わぬ方向に覆された。
「それならば、丁度いい予定がある」
「え?」
「今度、ハマーを連れて美術館に行くのだ。よければ君も」
「はい!是非行きたいです!」
「では君の分も手配しよう」
「やったー!ありがとうございますクラウスさん!!」
「ハマーもきっと喜ぶだろう」
立ち上がって即答すると、クラウスが満足げに頷いた。満面の笑顔で歓声を上げる結理を眺めているその背後には花が飛んでいるように見えて、機会が少ないながらに仲のいい青年と久しぶりに会える少女の様子が微笑ましく映っているのだろう。
(外で会えるんならチャンスでかい!直接もよし隠し撮りもよし!クリアに希望キタ!!)
ただし、その少女の胸中までは当然ながら窺い知ることは出来なかった。
そして当日、
「ハマーさーーん!!」
「あー!ユーリちゃんだ!久しぶりー!」
笑顔で駆け寄ってきた結理を見つけるなり、ハマーも歓声を上げて少女に駆け寄り、そのままの勢いで抱き上げてくるりと一回りした。
「うわわ……お久しぶりです!」
「よう、今日はチビガキも一緒か」
「ブローディさんもお久しぶりです」
抱き上げられた結理が驚きながらも久しぶりの対面に破顔していると、ハマーの中から出てきたブローディが物珍しげに少女の周囲を回る。結理は笑いかけて挨拶をして、ハマーはブローディの言葉にむっと眉を寄せた。
「コラ、デルドロ。チビガキじゃなくてユーリちゃんだよ。ちゃんと名前で呼ばないと失礼だろ?」
「お前こそ年頃の女相手に小動物扱いはひでえだろ」
「いいんですよ別に。ハマーさんも気にしないでください」
「しかしチビガキも一緒たあ珍しいな」
「お二人に会いたくてクラウスさんに我がまま言っちゃいました!」
「えーほんとー?僕もユーリちゃんに会いたかったよ!」
「えへへ……」
「……ドグにならともかく、俺にも会いたかったとはどういう風の吹き回しだ?」
「え?だってブローディさんとも中々会えないじゃないですか」
尋ねられ、結理は不思議そうに即答した。ブローディはそんな少女をじっと見つめながら、どこか皮肉気に息をつく。
「ほお……俺ぁてっきり誰かの回しモンかと思ったぜ」
「……何ですかそれ?」
「どういう意味?デルドロ」
「……何でもねえよ」
(何この人野生の勘か何か!?わたしがアリギュラさんと交流あるの知らないはずじゃん!!)
怪訝そうに二人に尋ねられたブローディは、興味を失くしたようにふいとそっぽを向いてハマーの中に戻った。結理はハマーと顔を見合わせて首を傾げるが、その胸中は一切穏やかではなかった。一体どこでどうやって何をかぎつけたのか全く分からないが、ひとまずはボロは出さなかったようで内心安堵のため息をつく。
だが、ミッションはまだ始まったばかりだ。というよりは、始まってすらいない。
「三人とも、そろそろ行こうか」
「はーいクラウス兄ちゃん!」
「あ、あの、ハマーさん……そろそろ降ろしてもらえると……」