異界都市日記12
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人の縁というものは、思わぬ所で繋がっている。
それはこの、異界と人界が交わり日夜世界滅亡の危機にさらされているヘルサレムズ・ロットでも同じで、一之瀬結理はそれを実感していた。
始まりは数週間前に遡る。
大道芸の営業が終わり、入ったばかりの報酬で昼食をとった帰り、通りの隅で小さな植木鉢を持って所在なさげに立っている一人の女の子を見つけた。まだ一桁の年齢であろう小女の側には保護者らしき大人の姿はなく、傍から見ても迷子だということが分かった。放っておけずひとまず保護しようと話しかけた所で、中年に差しかかった辺りの男が酷く慌てた様子で駆け寄ってきた。
曰く、人ごみではぐれてしまったらしい保護者は、自身より遥かに年下の容姿の結理にも丁寧に感謝と謝罪の言葉を述べ、キリシマと名乗った。
「キリシマって……もしかして日本人ですか?」
「あ、ああ、まあ…ということは、お嬢ちゃんも……」
「【はい!わたし一之瀬結理っていいます!訳あってヘルサレムズ・ロットで暮らしてるんですけど…日本人に会ったのは初めてです!】」
元紐育という都市において、滅多に会うことのない同郷の者ということですぐ様打ち解けた二人を、迷子だった小女、メイヴィがきょとんとした面持ちで見ていたがとにかく、そこから結理とキリシマの交流は始まった。
キリシマは公園で大道芸をしている結理の姿を時折見かけていたらしい。近くにいい園芸店があるからという言葉で彼が庭師であることを知り、自分もたまにその園芸店に足を運ぶということから話は更に広がった。
そんな交流が始まって少ししてから、結理はキリシマに彼が管理している植物園に招待された。何でも園芸サークルの集まりがあるらしく、数人に話をした所是非来て欲しいと言われたそうだ。
断る理由もなくその話を受けた当日、キリシマと共にその園芸サークルのメンバーと顔を合わせた。大道芸人としての結理を知る者もいて、互いに顔を見て驚きと感激を見せた者もいる。
「―――!?」
そしてその中の一人に知り過ぎている顔を見つけた結理は、盛大に表情を引きつらせた。むしろ何故この可能性を考えなかったのかと自分に問いただしたかったが、同じように驚愕の表情でいる相手が何かを言う前に先手を打つ。
「ミ……ミスター・クラウスじゃないですか!ウワー!奇遇デスネー!」
ただ街中で会ったくらいならばこんなことはしないが、今は互いにプライベートで、周囲には何も知らない者達がいる。ライブラのメンバーという共通点を除外してしまえば、大道芸人の結理と身なりからして上層の人間である彼、クラウスが余りにも親しいのは些か不自然だ。
それを分かっているクラウスも、他人行儀に呼ぶ結理に合わせるように返す。
「……ミス・一之瀬……ここで会えるとは、奇妙な巡り合わせだ」
「おや?君達知り合いかい?」
「はい!たまに園芸店で顔を合わせるんです。ね?」
「ええ。彼女には時折肥料を作って頂いています」
最初は若干のぎこちなさがあったもののすぐさま立て直し、本来ならまず縁がないだろう巨漢の紳士と少女は、園芸を通じて顔見知りになった二人ということで、事なきを得た。
最近妙に縁があるなあと、後に結理は独りごちてこっそり苦笑を漏らした。