異界都市日記11
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「ぐぉぉめんなさあぁぁぁぁぁぁい!!!知らなかったのよおぉぉぉ!露店のお兄ちゃんはプラネタリウムだって言ったのよおぉぉぉぉぉ!!」
鏡とガラスの空間から脱出し、中で起こった出来事を聞き終わると同時に机に額を擦りつけるように平伏した『雑貨屋』を、結理は冷ややかな目で見下ろしていた。
「この間もそんな感じで変なオブジェ買って世界滅ぼしかけましたよね?」
「それもわざとじゃないのぉぉぉぉ!!」
「んなことは知ってます。わざとだったらとっくの昔に切り刻んでますから。けどこれ何回目でしたっけねえ…?!」
「ああん許してぇぇぇぇっ!!」
言い放つ結理は全身から怒のオーラを発していて、訪れた時に繕おうとしていた表情は一切ない。その光景をツェッドは黙って、ルレカは少し楽しげに苦笑しながら眺めている。
「……とにかく、この事は貸し一つということできっちり報告させてもらいますんで、覚悟しといてください。あと、ネットワークも少し洗わせてもらいます」
「ユーリちゃん……最近目つきがスターフェイズに似てきたわよ…?ああでも……その氷みたいな目も堪らない…!お仕置きに踏んで欲しい…!」
「やらかした人にご褒美あげてどうするんですか…!」
「ごめんなあユーリ、この人俺がいない時に限ってやらかしちゃうんだよ」
「……解決したし用も済んだし、今日はこれで失礼します。封書はちゃんと目を通しといてくださいね?ツェッド君帰るよ」
「また来てねーー!今度は真っ当なの用意しとくから!!次来たら踏んで!!」
「誰が来るか変態凍らされろ」
最後の言葉だけは聞こえない音量で吐き捨てるように呟いて、結理はさっさと室内から出て行った。遅れてついてきたツェッドが外に出たのを確認してからやや乱暴に扉を閉めて、嫌そうな顔でたった今閉めた扉を睨みつけて鋭く息をつきながらコートのポケットを探り、舌打ちをしそうな程顔をしかめる。
そんな結理を見つつ、ツェッドはぽつりと呟いた。
「……余りにもエキセントリックで驚きました」
「まあ…わたしが絡まないとそうでもないんだけどね。だからスティーブンさん抜きで来たくなかったのに……」
「いえ、結理さんの事です。彼……いや、彼女……もあの『雑貨屋』も個性的な方だとは思いましたが……」
「え、わたし?何で?」
「閉じ込められた空間から力押しでの脱出を試みたのは予想外でした。アテがあっての行動だったんですか?」
「…………ウン、モチロンダヨ」
「嘘ですね。というか、アテもなかったのによくあんな行動に出ましたね…!?」
「っ!さ、さー帰ろうか!」
冷静に指摘され、結理は若干慌てた様子でその場を離れようと踏み出した。だが数歩も歩かない内に膝から力が抜けたようによろめいて、そのまま倒れそうになる。
「危ない!」
「ご、ごめん……ちょっと、つまずいちゃった……」
支えられ、誤魔化すように苦笑する少女の声は僅かに震えていて、顔色はお世辞にもいいとは言えない。薄暗い『雑貨屋』の中では気付かなかったが、病的と言っていい程血の気が引いている。
「……貧血ですか?」
「血晶石切らしちゃって……でも、大丈夫。大したことないから……」
「……まったく……」
「う、わ…っ!!?」
尚も誤魔化そうとする結理を見て、ツェッドは大仰にため息をついてから少女を抱え上げた。突然の事に結理は目を白黒させて、抱え上げた本人を見やる。
「つぇ、ツェッド君!?」
「途中で倒れられてしまうよりは、こうした方がいいと思いまして」
「ちょ、ま、待って!てゆうか大丈夫だから!」
「そんな顔色で言われても説得力ありませんよ」
「ぅ……」
切り捨てるように言い放つと、結理は気まずそうに視線を逸らした。どうにかこの状態を拒否したいようだったが、ツェッドが譲りそうにないことを感じ取ったのか、両手で顔を覆ってか細い声で呟いた。
「あの、その……せめておんぶにシテクダサイ……街中お姫様だっこは目立つから…!!」
その姿もそれなりに注目の的となるのだが、幸いにと言うべきかどちらも最後まで気付くことなかった。
「本当に申し訳ない……怪我してる訳でもないのに……」
「気にしないでください。あの中では僕も助けられましたし、これでお相子です」
「お釣りが来そうな勢いなんだけど……」
「……そうですね。あの破壊活動をしなければ、こうはならなかったかもしれません」
「……ツェッド君のいじわる……」
「事実を述べているだけです」
「くぅ…!」
ひとしきりの応酬の後、ツェッドに背負われている結理はため息をついた。できるものなら今すぐにでも自分の足で歩きたいが、貧血のせいで今は動く気力も湧かない。『雑貨屋』を出るまではどうにか取り繕っていたが、あれ以上無理を推して歩いていたらツェッドが指摘した通り途中で倒れてしまっていただろう。
「……重くない?」
「驚くぐらい軽いです」
控え目に尋ねてきた結理に、ツェッドは気遣い抜きで即答した。少女の体は想像していたよりも軽く、簡単に壊れてしまいそうで、この身体のどこからあれだけの力を出せるのかと疑問に思う程だった。