異界都市日記11
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「……ここは……」
一方で、ツェッドも光の反射する鏡とガラスの空間の中にいた。結理と一緒に覗き込んでいたガラス細工に原因があるのは予測がついたが、この空間が一体何なのかは分からない。周囲を見回すが誰も、一緒に引きずり込まれたはずの結理の姿もない。呼ぼうとしたが、どういった作用のある空間か分からない以上、刺激するような行為は避けた方がいいと判断して声は飲み込んだ。代わりに再度周囲を見回して少女の姿はないか、どこかに通じている道はないかを探す。鏡とガラスで構成されている空間はどこからが壁なのかを判断するのが非常に困難だったが、目が慣れてくると少しずつ道が見えてきた。
足音が聞こえてきたのは道を見つけた直後だった。警戒して身構えると、鏡の壁の後ろから見知った小柄な姿がひょっこりと顔を覗かせた。
「結理さん!よかった、無事だったんですね?」
声をかけながら結理に駆け寄ろうとしたツェッドだったが、すぐにその足を止めた。無言で駆け寄って来る少女の瞳が、赤と緑のオッドアイではなく黒であることに気付いたからだ。即座に戦闘態勢を取った直後、結理の姿をした何かは指を鉤爪のように曲げながら身を沈めて踏み込んできた。
「っ!」
放たれた赤い刃爪の攻撃を、赤い三叉槍で弾く。結理の姿は臆した様子もなく無表情で再度ツェッドに向かい、連続して攻撃を繰り出してきた。攻撃は難なくさばけているが、見知った少女の容姿ということと、それ以前に目の前の少女が本当に偽者なのかも判断がつかない為、本物が操られているという可能性も捨てきれず反撃に転じるのは躊躇われた。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
ひとまず拘束を試みる為に風を起こして体勢を崩そうとした所で、聞き慣れた声が対峙している相手からではなくその横から聞こえてきた。
「『鉄槌―フレイル―』!」
「!!!?」
無表情の少女の真横の壁を、赤い塊のようなものがぶち破ったのはその直後だった。次いで、砕けたガラスと鏡が輝きながら飛び散る中をオッドアイの少女が飛び出してきて、黒目の少女に飛び蹴りを叩き込んだ。盛大に吹っ飛んだ自分と同じ姿をしている相手に、彼女は追撃をかける。
「『血術』……『刃鞭―エッジ・ウィップ―』!」
放たれた赤い棘鞭は少女の体を切り刻み、地面に落ちる頃にはガラス片に変わっていた。がしゃん!とひと際大きな音が反響した後は、耳が痛くなる程の沈黙が流れる。
「……ふう」
周囲を軽く見回して追撃の様子がないことを確認した結理は、軽く息をついてから唖然とした表情でいるツェッドの方を向いた。
「……本物、だよね?」
「……貴女こそ本物ですか?」
「もちろん。でもそっちはどうかなぁ…?鏡を作るのは得意でしょ?」
「?何の事ですか…?」
「まあ……会話ができるってことはニセモノではないよね。ちゃんと気配もするし、ニセモノ同士が仲間割れする意味もないし」
よく分からない質問に問い返すと、結理はふっと緊張を解くように笑い、ツェッドに駆け寄ってから上を見上げた。ツェッドもつられるように上を向く。光源は見えないのに天井は眩しいぐらいに輝いていて、果ては見えない。
「あのガラス細工に閉じ込められてしまったようですね」
「うん。この手のは、多分だけど核になってる部分をぶっ壊せば出られると思う。問題は核がどこにあるかってことなんだけど……」
「感知することはできないんですか?」
「さっき試そうとしたんだけど、色んな気配が反響しちゃって難しいんだよねぇ……」
問いの答え通り難しげに顔をしかめて、結理は周囲を軽く見回した。手近にあったガラスの壁に触れたり軽くノックをしながら、小さく息をつく。
「うーん……めんどくさいから一気にやるか」
「え?」
「多分色々降ってくると思うから、吹っ飛ばしてもらっていいかな?」
「は?」
怪訝そうなツェッドの返答を待たず、結理はコートのポケットから鮮血色の石を二つ取り出して一度に口に放り込むと、グローブをはめた掌底同士を打ちつけるように合わせて地面に両手を置いた。それから口に含んだ赤い石を噛み砕き、術を紡ぐ。
「『血術』……『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!!」
「!!?」
少女が形成した赤い棘が、鏡の空間を手当たり次第に貫いていく。氷を割るように地面を砕き、甲高い音を立てて壁をぶち破って天井にまで次々と伸びていき、満遍なく破壊していった。
「結理さん!!これは無茶が過ぎませんか!!?」
「へーきへーき大丈夫!」
少女の言った色々降ってくるという言葉を理解したツェッドが、慌てて風を起こして自分達に向かって落ちてくる鋭いガラス片を吹っ飛ばしながら思わず叫ぶ。何か意図があるのは分かっているが、無茶が過ぎるというよりは力押しが過ぎる。
デリケートそうな空間を遠慮なく破壊していく結理は平然とツェッドに返して、技を維持しながら目線を周囲に巡らせる。
「……見つけた!!」
やがて、天井付近から今まで降り注いでいたガラス片とは比べ物にならない程大きな何かが降ってきた。それを見るなり結理は巨大な塊に向かって跳ぶ。
「『血術』……『拳―ナックル―』!!」
赤い装甲に覆われた拳が水晶のような半透明の塊を殴り砕いた直後、引きずり込まれた時と同じように周囲が光で包まれた。