幕間:少女の仕事
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(ど う し よ う……!!!)
レオが渦中の存在であろう友達を探して奔走している頃、結理は病院のベンチに座ったまま頭を抱えていた。怪我はなく、簡単な検査も終えて異常がなかったので帰っていいと言われたが、昨日の記憶が全くと言っていいほどない。その状態も十分混乱する事態だが、記憶がないのが昨日という日であることが大問題だった。
予定通りなら、昨日の自分は任務に出ていたはずだ。それもそれなりに重要な。それを一切覚えていない。ニーカに連絡をして確認を取ったので、準備をして任務に向かったことは確からしい。その時に食事に行く約束もしたらしいのだが、それを含めどれだけ思い出そうとしても、濃い霧の向こうに覆われたように記憶を手繰り寄せることができない。
(失敗は……してないよね?でも詳細覚えてなきゃ報告も何もできない…!)
頭の中でヤバいという文字が浮かび、ぐるぐると回りだした瞬間、まるでそれを見越したかのように着信音が響いた。びくぅ!と思い切り身じろいでから、結理はディスプレイに表示されたスティーブンの名前を見て更に顔を引きつらせ、恐る恐る電話に出る。
「……もしもし、」
『お疲れ、お嬢さん。チェインから話は聞いたよ。事件に巻き込まれて昨日の記憶がないんだって?』
「はい……一応パトリックさんの所には寄ったって確認は取れたんで、任務には出たらしいんですけど……一切覚えてないんです……ごめんなさい………」
『そう落ち込まなくていい。昨夜の君から完了の報告は受けているし、周辺でトラブルも起きていない。君はちゃんと仕事を終えている』
「……ならいいんですけど……」
『災難だったね。怪我は?』
「してないです。記憶がない以外の異常もないそうです」
『そうか。記憶はともかく、結理が無事でよかったよ』
「……今メンタル弱ってるんでそんな優しいこと言われたら泣いちゃいます」
『はははっ!慰めてあげるから帰っておいで』
「……はい。今から戻ります」
穏やかな軽口に少しだけ気分を持ち直した結理は、頷いて通話を終えた。
そんな謎の集団記憶喪失事件に、今度がレオが巻き込まれたという一報が入ったのはその日の夜だった。被害者は軽く数千人を超え、レオはここ一カ月の記憶を失ってしまった。おまけに何に襲われたのか、頭に怪我までしている。
「本当に何にも覚えてないの?」
「うん……」
「マジかよ…!じゃあ俺から70ゼーロ借りたことも」
「嘘だから聞かなくていいよ」
「だろうね」
「てめえクソガキ!」
「わたしの昨日一日なんて些細なことになっちゃったなあ……あ、じゃあここ最近ジャック&ロケッツバーガーばっかり食べてたのも覚えてないの?」
「え?そうなの?」
「うん。あとは……あれ?」
怪訝そうに問いかけるレオに、結理は何か記憶の手がかりになればと話しかけて、何を話そうとしたのか分からなくなり、首を傾げる。
「何か聞いた気がするんだけど……ダメだ、思い出せない」
「こっちはこっちで記憶喪失かよ……」
「一応わたしも被害に遭ってるんで。レオ君に比べたら全然マシですけど」
呆れたように唸るザップにため息をついて返してから、結理は慎重にレオの頭に触れる。
「何にしろ……災難だったねレオ君」
「全っ然覚えてないんだけどね」
「良かったんだか悪かったんだか……まあいいか、とりあえず治すよ。退院したらまたバーガー食べに行こう?」
苦笑するレオに笑い返しながら、結理は治癒の術をかけた。
了
2024年8月11日 再掲