幕間:闘技場の舞姫
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「『漆黒の戦乙女―ブラックヴァンキュリア―』なんて、随分洒落たリングネームだね。お嬢さん」
「ひ………………!!」
デスクの上に置かれた写真を視界に入れてしまった結理は、引きつった声をあげて息を止め、びしりと音がしそうな勢いで固まっていた。写真を置いたスティーブンに凍らされたわけではないが、それに近い状態といえばそうかもしれない。
写真にはスポットライトを浴びて黒髪と黒いコートを翻して異界存在に蹴りを入れている少女、つまり自分が映っている。頭の中でヤバイの三文字がぐるぐると駆け廻り、冷や汗が流れ出す。
「こ、これ……は……」
「諜報活動中にチェインが偶然入手したんだ。この間クラウスがザップに呼び出された地下闘技場……確か、エデンって言ったかな?そこの前座の闘技ショーで大活躍してるそうじゃないか」
「…………はー……」
長い長いため息をついて結理はがっくりとうな垂れた。どうやら自分のここ最近の素行は洗われているらしい。これはもう諦めるしかないと考えると、自然と緊張は溶けて消えていった。やっぱり人間隠しごとはせず正直に生きるべきだと思いながら、申し訳なさそうに顔を上げる。
「……ごめんなさい。最初は大道芸仲間のピンチヒッターだったんですけど、何か人気出ちゃって辞めるに辞めらんなくなったんです……」
「別に余程のことじゃなきゃ、プライベートの行動にとやかく言うつもりはないよ。そんなことしていたらザップなんて何十回氷漬けにしても追いつかない。ああ、ちなみにこの写真は場内で限定枚数で出回ってるブロマイドだそうだ」
(誰だそんな商売してる奴…!!)
「あ、あの……でも、クラウスさんには内緒にして頂けると……」
前回は何とか誤魔化せたが、決して安全な場所ではない地下闘技場に出入りしていることがクラウスに知られたら、何かと気にかけてくれる彼の胃に大ダメージを与えかねない。
そう思いながら、ついでにブロマイド販売の元締め探しの決行を誓いながら恐る恐る申し出ると、スティーブンがにこりと笑った。ああこれは碌でもないことを押し付けられるなと、予感というよりは確信がよぎる。
「勿論。けれど、タダでという訳にはいかないかな?」
(ほらきたーーーー!!)
「うぅ……何なりとお申し付けください…!」
自分が招いたこととはいえ、結理は敗北者の気分でそう言うしかなかった。