幕間:血晶石
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「休暇?」
「はい。丸一日一切の召集に応じられない日が欲しいんです」
「理由は?」
「『作り貯め』をしようかと思いまして。」
「成程ね。だが休暇としては認められないな。それは真っ当な『業務』だ」
「いや、でも……最近作るのサボってたツケで、この間あんなことになっちゃったわけですし……業務扱いってわけには……」
「あの時手持ちがなかったのは、エイブラムスさんに根こそぎ持っていかれたからだろう?それに本部からも送るように要請が来てるんだ。仮眠室を使って今日の午後から明後日の昼まで『制作業務』に取り掛かってくれ」
「……ぁー……はい、ありがとうございます。あ、じゃあ『準備』にレオ君借りていいですか?」
「構わないよ。少年、今言った通りだ。お嬢さんを手伝ってやってくれるか?」
「え!?あ、はい!」
いまいち内容の見えない会話にいきなり自分が出てきて、ソニックと戯れていたレオはびくりと身じろいだ後に、訳が分からないながらも反射的に頷いた。
準備と言うから何をするのかと思っていたら、一旦結理の自宅に寄ってから向かったのはスーパーだった。主に人類向けに展開されているので客層の大半が人類だったが、異界の者もちらほら歩いている。薬局も併設されている大型のスーパーは少女の行きつけらしく、薬局のレジでは手の指が左右で十本ずつある異界人の店員に「いつものだね」と大瓶の鉄剤を数本出されていた。更に食料品エリアで棚から約半分ほどの牛乳をごっそりと買い込み、それで準備は完了らしい。
「……何かと戦うとかそういう系?」
「ある意味ね」
袋一杯の牛乳を抱えてベスパの後ろに乗っているレオの問いに、もう一つの袋をステップに乗せて足で挟んでいる結理は、いつもと変わらない調子で答えた。
「厳密に言うと戦う準備の為の戦い、かな?この間の偏執王の騒動の時、貧血でぶっ倒れちゃったでしょ?ああゆう時にぶっ倒れても即動けるようにする為の準備をするの」
「ふうん……」
それとこの大量の牛乳と鉄剤はどう関係するのだろうと思ったが、大型車が真横を通った轟音で会話は遮られた。
レオに手伝ってもらって買い込んだものを仮眠室に運び込むと、結理は一旦執務室へ戻った。
「それじゃあこれから籠ります」
「結理、決して無理はしないでくれ。個数は定められているわけではないのだから、辛かったらすぐに中断して構わない。君の体調が第一だ。確かに制作は君自身の為でもあるが、倒れてしまったら本末転倒だ」
「大丈夫ですよクラウスさん。実質二日分も時間もらってるんですから、適度に休みながらやりますって」
殺気立っているように見える程真剣な表情で言い聞かせるクラウスに、結理は苦笑しながら答えた。心配されるのは決して嫌ではないが、申し訳なくもある。だから休暇という扱いで自宅でひっそり『作業』をしたかったのだが、通らなかった申請を今更どうこう言っても仕方がない。どんな形であれ時間をもらえただけでも十分だ。
「それじゃあまた明後日に」
言いながらお辞儀をして、結理は仮眠室へ向かった。扉が閉まって少ししてからレオは尋ねる。
「……ユーリはこれから何するんですか?」
「簡単に言うと、『非常食の制作』ってところかな?」
「貧血になっても大丈夫になる、ってやつすか」
でも何故それでクラウスがあんなにも心配するのだろうか?
その疑問が顔に出ていたらしく、スティーブンが書類処理を始めながら答えてくれた。
「貧血を伴う作業なんだ。それで一度自宅で倒れて音信不通になったことがあってね」
「あー成程……」
レオは数えるほどしか見たことがないが、クラウス達の話を聞いている限りでは、結理は貧血を起こした際によく倒れているらしい。そんな光景を頻繁に目撃していれば、いくら仮眠室で作業をするとはいえクラウスが心配して注意を促すのも仕方がない話かもしれない。ついでに、大量に買い込んだ牛乳と鉄剤の意味もようやく理解できた。
(結構無茶するからなあ……ユーリ……)
少女が消えていった扉を眺めながら、レオは胸中で独りごちた。