幕間:山盛りを前に
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少女が大皿に向かっていく光景を、周囲の大半は最初は馬鹿にしきった笑みを浮かべて見ていた。
自分を分かっていなさ過ぎる。どうせすぐに根を上げるだろう。若気の至りとはよく言ったもんだ。等々、誰一人としてクリアできるとは全く思っていなかった。
だが、少女が食べ始めてから五分を過ぎた辺りから、その視線は変わっていっていた。
楽しげに食べている少女のペースが、一向に落ちる気配がないのだ。まるでごく普通の食事をしているように皿の中身を淡々と減らしていくその光景を見た周囲が、自分達の挑戦の手を思わず止めてざわつき始めた。
「にしても……最近なんちゃって和食屋増えてません?」
「この間HL TIMESでジャパニーズフードがヘルシーみたいな特集やってたろ。それの影響じゃねえの?」
「いやいや、大食いチャレンジも増えてんじゃないですか。わたしとしては嬉しい限りですけど。たまにはお腹いっぱい食べたいですし」
「そりゃああれだ。HLチメスで取り上げてたからだ」
「うわ……あのパクリ物まね何でもアリのゴシップ会社まだ潰れてなかったんですか?」
「意外にそれでウケてんだよ。あれが話題にすっとブームになったりもするしな。この間キャリー達も読んでだぜ」
「キャリーさん幅広いですよねえ……やっぱ仕事柄ですか?」
平然とした様子でザップと世間話をしながら大皿の中身を減らしていく結理を、レオは顔を引きつらせて見ていることしかできなかった。
今自分が見ている光景は一体何なのだろうか?幻術か何かを見せられているのだろうかと、そんな考えがよぎったが、『義眼』を欺ける幻術など今現在遭遇したことがないし、こんな訳の分からない幻術を見せる意味もない。
「……あ、すいませーん、この超XLパフェも追加で!」
「まだ食うの!!?」
料理が残り三分の一程にまでなった辺りで、ごく普通に追加注文をした少女に思わず叫ぶように言い放ったレオの突っ込みは、その場の総意だった。
「……すまねえが二度と来ないでくれ……」
「そうですか。それは残念です」
がっくりと肩を落としながら放られた店主の言葉に、結理はさして残念そうでもない様子で簡単に返すと、「おいしかったです。ごちそうさまでした」と言ってさっさと歩きだした。
「だから言ったろ?大丈夫だって」
ドン引きを通り越して若干の恐怖の表情で少女の後ろ姿を見ているレオに、ザップが言葉をかけた。
「……理解しました。大食いなんてレベルじゃないですよあれ……」
「本人曰く、あれでも腹八分らしいぜ」
「はあ!?あれ以上食うんですか!!?」
「何か知らねえがやたら燃費悪いらしくてな、一食でも抜いた状態で技使ったら即貧血になるんだとよ。初任務ん時もそれでいきなりやらかしてたな」
「はあ……」
そのやらかした原因が発言者本人にあるとは知らないレオは、どうリアクションをしていいのか分からずに曖昧に息をついた。
そんな中、前を歩いていた結理が振り向く。
「ザップさんレオ君、デザート食べにダイアンズダイナー行きません?バーガーの新メニュー出すってこの間ビビアン言ってたんです!」
「食ったばっかで行けるわけねえだろ!!てめえと一緒にすんな胃袋風船女!」
即答で少女に悪態を投げるザップを、レオはその時ばかりは諌める気にはなれなかった。
了
2024年8月11日 再掲