異界都市日記1
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「……逃げたに20ドル」
「死んだもしくは死ぬに20ドル」
「逃げない死なないで事態を解決するに20ドルで」
さらりと賭け合って、それぞれ行くべき場所へ動く。結理は探知感度を上げてレオナルドを探し、ザップは少女の後を追い、チェインは邪神の位置を捕捉する。
もうもうと砂埃が立ち込める中、結理は迷わず進んでいく。視界の悪さは彼女にとってはほとんど障害にならない。それを知っているザップも、迷うことなく少女の小さな背中だけを見て追いかける。
「……いた!」
やがて結理が声を張り上げた。晴れてきた視界の先にはレオナルドとダイナーの父子の姿、そして彼等に向かって刀を振り翳している邪神の姿があった。
反応は結理の方が早かったが、実際に動いたのはザップの方が早かった。即座に邪神とレオナルドとの間に入ると、振るわれた刀を受け流しながら衝撃を流すように吹っ飛ばされる。
「『風術』!」
二人が瓦礫に叩きつけられる前に、結理が風を起こして速度を殺した。自分を助けた相手に気付いたレオナルドが、はっとした様子で顔を上げる。
「…ザップさん!!ユーリさん!」
「てめえ何で戻ってきた。」
「!?」
「…お前が逃げるに俺は20ドル賭けてたんだぞ」
「わたしは逃げない方に賭けてました」
「……!!」
「しっかし、近くで見ると余計にとんでもないですねぇ……」
「ああ。防戦一方で猿まで近づけねえ。」
ぼやいていると、遠くからチェインが邪神に向かって発砲を始めた。だがほとんどダメージはないらしく、邪神は痛がる様子もない。
「…お前なあ!!もっと働けよ…!!」
ザップが苛立ち交じりに悪態を飛ばすと、チェインは誰が見ても分かる殺気の込められた目でザップを睨み返した。
「…………!!今の見たか!?野蛮な仕事はお前らの仕事でしょう?ゴミはゴミらしくとっとと突っ込んで内臓引きずり出された挙げ句泣きながらなるべく苦しみつつ後悔とともに死んで来たらどう?って顔しやがったぞおい」
「ああああ今のは僕もそう思いました!!怖え!!あの人怖え!!」
「ザップさんが無茶ぶりするからでしょうが……」
ガタガタ震えだす男二人に呆れ切ったため息をついて、結理は両拳を二、三度開閉しながら邪神の方へ向き直った。諜報担当で戦闘がメインでないチェインに戦えというのはいささか酷だ。殺気交じりの視線を向けられても仕方がない。
「とにかく、もうすぐ次の「解放」です。その前に決めましょう」
「ああ。俺らが奴を足止めするから、その隙にお前が懐に突っ込んで猿を何とかしろ」
「…………」
「大丈夫だ……失敗してお前が死んだら次を考える」
ザップの言葉に、レオナルドはやや緊張した面持ちで小型の銃を持った。その表情には戸惑いも恐怖も見られず、ザップはふっと笑みを漏らす。
「何だよ…何があったか知らねえが、覚悟決まってるみたいじゃねえか。いい顔になってんぜ」
言いながらザップは特徴的なデザインのジッポを手に持った。結理も隣に立ち、打ちつけるように掌底同士を合わせた。
「タイミング逃すなよ…いくぜ…斗流血法」
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
ジッポを握り締めたザップの手結理が合わせた両掌から血が溢れ出し、形を作る。
「刃身の壱――焔丸」
「『拳―ナックル―』」
赤い刃と両腕を覆う装甲が出来あがっていく様子を、レオナルドは驚愕と呆然の混ざった表情で見ていた。ザップと少女が操る技は、つい先程見たものとよく似ている。
明確に戦う意思を感じ取ったらしい邪神が、ザップと結理に狙いを定めた。鞘から刃を解き放つと、渾身の力を込めて振り下ろす。ザップは邪神の一撃を血刃でいなし、結理は悲鳴を上げるレオナルドを庇いながら腕の装甲で受け流し、時には殴り飛ばす。邪神の大きさに見合った重さと威力が周囲を削っていくが、二人を切り裂くことも押し潰すこともない。
「…ぐへ…!!やっぱ…スゲエな!」
「けど……それだけです…!」
「何度も受けてるうちによ…見えてきちゃってんだわ…太刀筋…」
一撃で地面を深く抉る攻撃を掻い潜り、ザップと結理は少しずつ邪神に向かって距離を詰めていく。
「旦那に比べると、やっぱちょっとアンタ浅すぎだぜ!!神様!!!」
「クラウスさんに失礼ですよ、それ」
ザップの台詞に顔をしかめつつ、結理は深く身を沈めて邪神に接近すると、膝裏に回し蹴りを叩き込んだ。邪神の巨体がぐらりと傾く。
「大蛇薙」
吼えるザップが振るった血刃は、無防備になった邪神の腕と指を切り裂いた。耳障りな悲鳴を上げる邪神に大きな隙ができる。
「走れ!!!クソ餓鬼!」
「…はいッ!!」
号令でレオナルドが走り出す。その間に、切り裂かれた邪神の指はあっという間に元に戻ろうとしていた。
「させるか…!」
それを阻んだのは結理だった。再生するというのならば、それが追いつかない程攻撃を繰り返せばいい。
「『血術』……『爪―クロウ―』!!」
腕の装甲から伸びた赤い刃爪が邪神を再び細切れにする。それでも尚再生を続けようとする邪神の姿が目に入り、レオナルドの走る速度が一瞬緩んだ。
「止まらないで!!」
「っ!」
「…俺を舐めてっと、承知しねえぞ。」
今まで刃の形をしていた血が糸となって邪神の周囲に伸びる。不敵に笑うザップがジッポに火をつけると、血の糸を導火線として炎が上がった。
「――・七獄」
炎が再生しようとしていた邪神を焼き尽くす。爆発したように燃え上がる炎の勢いに押されながら、レオナルドは音速猿の側まで駆け抜けた。殺気に当てられたのか涙目になっている小さな存在に銃を構えるが、まだ撃たない。ギリギリまで見極める為に大きく目を見開き、その目の『力』で何一つ見逃さないように隅々まで音速猿を観察する。
そして見つけた。今にも半分に割れそうに魔法陣を展開させる、蚤の姿を。
銃声は響かず、ただプチッっという小さな音が、この騒動の終わりを告げる合図となった。ゲートが開くことはなく、半神は文字通りに崩れ落ちて地面に塵の山を作った。
全てが終わったことを悟った音速猿が、安心しきった面持ちでこちらを迎えるように腕を広げたレオナルドに飛びついた。
「……堕落王探してきます!!」
「はあ!?オイ結理!!」
事態が収束したのを確認するや否や、結理はくるりと方向転換をしていた。
『あ~~~~!くそ~~~~っ!!』
放送から聞こえる悔しげな声に胸がすくような気分を覚えつつ、結理は探知感度を最大まで上げた。こんな騒動を引き起こしてくれた元凶を何としてでも捕まえる。そして殴ると決め、どんな小さな気配でも逃さないように集中する。
「今日こそ見つける…!!」
『あーそれと一之瀬結理!いくら君の探知能力が高かろうと僕の居場所を特定するのは不可能だ!無駄なことはやめたまえ!!』
「やかましい!!姿見せろ卑怯者!!」
『はっはっはっ!ディナーのお誘いならいつでも大歓迎だよ!』
「ふざけんな死ね!!!」
「……えっと、」
「あいつ初めてHLに来たその日に、堕落王にゲームの駒にされて病院送りになったんだとよ。で、堕落王も堕落王で何か知らねえがあいつにそこそこご執心なんだ。」
「えー……!?」
たった今まであった騒動の最中以上に殺気を振りまく結理を見たレオナルドが顔を引きつらせていると、やや呆れた面持ちのザップが息をついた。
「死んだもしくは死ぬに20ドル」
「逃げない死なないで事態を解決するに20ドルで」
さらりと賭け合って、それぞれ行くべき場所へ動く。結理は探知感度を上げてレオナルドを探し、ザップは少女の後を追い、チェインは邪神の位置を捕捉する。
もうもうと砂埃が立ち込める中、結理は迷わず進んでいく。視界の悪さは彼女にとってはほとんど障害にならない。それを知っているザップも、迷うことなく少女の小さな背中だけを見て追いかける。
「……いた!」
やがて結理が声を張り上げた。晴れてきた視界の先にはレオナルドとダイナーの父子の姿、そして彼等に向かって刀を振り翳している邪神の姿があった。
反応は結理の方が早かったが、実際に動いたのはザップの方が早かった。即座に邪神とレオナルドとの間に入ると、振るわれた刀を受け流しながら衝撃を流すように吹っ飛ばされる。
「『風術』!」
二人が瓦礫に叩きつけられる前に、結理が風を起こして速度を殺した。自分を助けた相手に気付いたレオナルドが、はっとした様子で顔を上げる。
「…ザップさん!!ユーリさん!」
「てめえ何で戻ってきた。」
「!?」
「…お前が逃げるに俺は20ドル賭けてたんだぞ」
「わたしは逃げない方に賭けてました」
「……!!」
「しっかし、近くで見ると余計にとんでもないですねぇ……」
「ああ。防戦一方で猿まで近づけねえ。」
ぼやいていると、遠くからチェインが邪神に向かって発砲を始めた。だがほとんどダメージはないらしく、邪神は痛がる様子もない。
「…お前なあ!!もっと働けよ…!!」
ザップが苛立ち交じりに悪態を飛ばすと、チェインは誰が見ても分かる殺気の込められた目でザップを睨み返した。
「…………!!今の見たか!?野蛮な仕事はお前らの仕事でしょう?ゴミはゴミらしくとっとと突っ込んで内臓引きずり出された挙げ句泣きながらなるべく苦しみつつ後悔とともに死んで来たらどう?って顔しやがったぞおい」
「ああああ今のは僕もそう思いました!!怖え!!あの人怖え!!」
「ザップさんが無茶ぶりするからでしょうが……」
ガタガタ震えだす男二人に呆れ切ったため息をついて、結理は両拳を二、三度開閉しながら邪神の方へ向き直った。諜報担当で戦闘がメインでないチェインに戦えというのはいささか酷だ。殺気交じりの視線を向けられても仕方がない。
「とにかく、もうすぐ次の「解放」です。その前に決めましょう」
「ああ。俺らが奴を足止めするから、その隙にお前が懐に突っ込んで猿を何とかしろ」
「…………」
「大丈夫だ……失敗してお前が死んだら次を考える」
ザップの言葉に、レオナルドはやや緊張した面持ちで小型の銃を持った。その表情には戸惑いも恐怖も見られず、ザップはふっと笑みを漏らす。
「何だよ…何があったか知らねえが、覚悟決まってるみたいじゃねえか。いい顔になってんぜ」
言いながらザップは特徴的なデザインのジッポを手に持った。結理も隣に立ち、打ちつけるように掌底同士を合わせた。
「タイミング逃すなよ…いくぜ…斗流血法」
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
ジッポを握り締めたザップの手結理が合わせた両掌から血が溢れ出し、形を作る。
「刃身の壱――焔丸」
「『拳―ナックル―』」
赤い刃と両腕を覆う装甲が出来あがっていく様子を、レオナルドは驚愕と呆然の混ざった表情で見ていた。ザップと少女が操る技は、つい先程見たものとよく似ている。
明確に戦う意思を感じ取ったらしい邪神が、ザップと結理に狙いを定めた。鞘から刃を解き放つと、渾身の力を込めて振り下ろす。ザップは邪神の一撃を血刃でいなし、結理は悲鳴を上げるレオナルドを庇いながら腕の装甲で受け流し、時には殴り飛ばす。邪神の大きさに見合った重さと威力が周囲を削っていくが、二人を切り裂くことも押し潰すこともない。
「…ぐへ…!!やっぱ…スゲエな!」
「けど……それだけです…!」
「何度も受けてるうちによ…見えてきちゃってんだわ…太刀筋…」
一撃で地面を深く抉る攻撃を掻い潜り、ザップと結理は少しずつ邪神に向かって距離を詰めていく。
「旦那に比べると、やっぱちょっとアンタ浅すぎだぜ!!神様!!!」
「クラウスさんに失礼ですよ、それ」
ザップの台詞に顔をしかめつつ、結理は深く身を沈めて邪神に接近すると、膝裏に回し蹴りを叩き込んだ。邪神の巨体がぐらりと傾く。
「大蛇薙」
吼えるザップが振るった血刃は、無防備になった邪神の腕と指を切り裂いた。耳障りな悲鳴を上げる邪神に大きな隙ができる。
「走れ!!!クソ餓鬼!」
「…はいッ!!」
号令でレオナルドが走り出す。その間に、切り裂かれた邪神の指はあっという間に元に戻ろうとしていた。
「させるか…!」
それを阻んだのは結理だった。再生するというのならば、それが追いつかない程攻撃を繰り返せばいい。
「『血術』……『爪―クロウ―』!!」
腕の装甲から伸びた赤い刃爪が邪神を再び細切れにする。それでも尚再生を続けようとする邪神の姿が目に入り、レオナルドの走る速度が一瞬緩んだ。
「止まらないで!!」
「っ!」
「…俺を舐めてっと、承知しねえぞ。」
今まで刃の形をしていた血が糸となって邪神の周囲に伸びる。不敵に笑うザップがジッポに火をつけると、血の糸を導火線として炎が上がった。
「――・七獄」
炎が再生しようとしていた邪神を焼き尽くす。爆発したように燃え上がる炎の勢いに押されながら、レオナルドは音速猿の側まで駆け抜けた。殺気に当てられたのか涙目になっている小さな存在に銃を構えるが、まだ撃たない。ギリギリまで見極める為に大きく目を見開き、その目の『力』で何一つ見逃さないように隅々まで音速猿を観察する。
そして見つけた。今にも半分に割れそうに魔法陣を展開させる、蚤の姿を。
銃声は響かず、ただプチッっという小さな音が、この騒動の終わりを告げる合図となった。ゲートが開くことはなく、半神は文字通りに崩れ落ちて地面に塵の山を作った。
全てが終わったことを悟った音速猿が、安心しきった面持ちでこちらを迎えるように腕を広げたレオナルドに飛びついた。
「……堕落王探してきます!!」
「はあ!?オイ結理!!」
事態が収束したのを確認するや否や、結理はくるりと方向転換をしていた。
『あ~~~~!くそ~~~~っ!!』
放送から聞こえる悔しげな声に胸がすくような気分を覚えつつ、結理は探知感度を最大まで上げた。こんな騒動を引き起こしてくれた元凶を何としてでも捕まえる。そして殴ると決め、どんな小さな気配でも逃さないように集中する。
「今日こそ見つける…!!」
『あーそれと一之瀬結理!いくら君の探知能力が高かろうと僕の居場所を特定するのは不可能だ!無駄なことはやめたまえ!!』
「やかましい!!姿見せろ卑怯者!!」
『はっはっはっ!ディナーのお誘いならいつでも大歓迎だよ!』
「ふざけんな死ね!!!」
「……えっと、」
「あいつ初めてHLに来たその日に、堕落王にゲームの駒にされて病院送りになったんだとよ。で、堕落王も堕落王で何か知らねえがあいつにそこそこご執心なんだ。」
「えー……!?」
たった今まであった騒動の最中以上に殺気を振りまく結理を見たレオナルドが顔を引きつらせていると、やや呆れた面持ちのザップが息をついた。