幕間:山盛りを前に
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そうしてレオと結理が連れてこられたのは、想像以上に普通の外観の店だった。日本語で『あじらく』と書かれている看板から察するに、ラーメン屋か定食屋のようだ。
「……すごい普通なのが逆に怖い……」
「念の為聞きますけど真っ当な店ですよねザップさん?」
「おうよ。真っ当も真っ当、HL(ここ)で営業してんのが逆におかしいぐらい普通な店だぜ?」
不安と疑惑を隠さずに尋ねる結理に即答しながら、ザップは出入り口の引き戸を開けた。レオと結理も不安げな表情は崩さずにその後に続く。
内装も外観同様特におかしな所はなかった。昔ながらの日本の定食屋といった風な店内を切り盛りしているのは異界存在で、客層は人類異界人問わずそれなりに繁盛しているようだった。
……ただし、客の前に置かれている器の大きさが普通ではなかった。遠目に見てもバケツもしくは鍋のようにしか見えないどんぶりに盛られた料理を、客は必死の形相でかき込んでいっている。
「……大体察しました」
店内を見回した結理が、言葉の通り察した様子で眉を寄せた。
「大食いチャレンジの店ですね?ここ」
「まあお前なら楽勝だろ。好きなだけ食っていいぞー」
「んなことだろうと思いましたよ…!おごりじゃないじゃないですか!!」
「ああ?タダで飯食えりゃそれはおごりだろ!」
「いや何ですかその謎理論……」
「お、大食いチャレンジって俺無理っすよ!?」
「心配すんなレオ。こいつがいりゃ大丈夫だ」
客が立ち向かっているどんぶりの大きさを見て慌てるレオに平然と言い返しながら、ザップが結理の頭に手を乗せた。のしかかられて迷惑そうに顔をしかめてから、結理は諦めたように息をついて、鍋を振っている店員の方を見る。
「まあ……タダで食べられるんならいいんですけどね。すいませーん!このお店で一番量が多いチャレンジで!」
『!!?』
少女の言葉に、客店員問わず店内にいた全員がぎょっとした様子で顔を上げた。注目の的になっている結理は、平然とその視線を受け入れている。
「オイオイオイお嬢ちゃん!本気かい?確かに一番でかいのなら三人で分けてもルール違反にはならねえが」
「あ、いえ、チャレンジするのはわたし一人です」
「はあ?冷やかしなら帰って」
「まあ待て」
結理の物言いに顔をしかめた店員を遮るように前に出て、店主らしき異界人が威圧感のある顔を少女に向ける。自分に向けられた訳でもないのにレオが気圧されている中、結理はやはり平然と自分を見下ろす店主を見上げた。
「そんな自信満々ってことは、それなりに覚えはあんだろ。失敗したら残した量に応じた時間皿洗いと相応のペナルティを受けてもらうぞ?お嬢ちゃん」
「それでいいですよ。あ、わたしが食べきったらこの二人のメニューもタダにしてもらえます?」
「おー好きにしろ」
「……毎度あり」
睨むように告げてきた店主の即答を聞いた結理は、にやりと不敵な笑みを返した。
「……ちょ、マジでユーリ大丈夫なんすかザップさん!」
「だーいじょぶだっつってんだろ?」
話がまとまったものの未だに半信半疑なレオが焦りながら問いかけると、ザップは平然とした様子で少し離れた場所に座った結理を見やった。
話題の中心である少女も、普通に昼食をとりに来たように水を飲みながら、日本風の内装が気になるのか楽しげに店内を観察している。
「お前あいつと飯食ったことあんだろうが。だったらビビってんじゃねえよ。」
「いや、確かに普通の女の子よりは食べる方ですけど、一応常識の範囲内でしたよ?」
「おーいつるぺたー!お前猫かぶってんじゃねえよ!レオが皿洗いの心配してんぞ!」
「そっちの心配じゃねえよ!」
「は?何がですか?つかつるぺた止めろっつってんでしょうが…!」
「レオの前じゃ小食で済ましてるそうじゃねえか。あれか?好きな男の子の前では普通の女の子でいたい的なあれか?」
「…………小食で済ましたことないですけど……」
「……これでもうちょっとそれっぽいリアクションでもすりゃあ可愛げあんだけどな」
からかいの言葉をさらりとスルーして訝しげに眉を寄せる結理を見ながら、つまらなそうに顔をしかめてザップは息をついた。
「へいおまち!」
そうこうしている内に、少女の前に料理が運ばれてきた。
器の形は、一番近い表現をするならばひと抱えはあるタライだった。そのタライの中に大盛りのチャーハンと焼きそばに加え、店内に張られているサイドメニューが全種類乗せられている。量云々よりどんなバランスで乗せたのかが気になる山盛りの料理を前にして、少女は丸い目を更に丸くした。
「うわあおいしそう…!制限時間は?」
「無制限にしといてやるよお嬢ちゃん」
尋ねる結理に回答する店員はにやにやと笑っていて、クリアなど到底不可能だろうと言いたげだった。クリアが不可能だろうと思っているのはレオも同じだが、こちらは大皿を前にしても平然としている結理とザップに戸惑っている。
「無制限……じゃあ遠慮なく、いっただっきまーす!」
満面の笑顔できちんと手を合わせてから、結理は箸とスプーンを手に持った。
「俺らも食うか。ノーマルのラーメン定食」
「え!?あ……僕も同じので」
「んー!おーいしー!」