幕間:山盛りを前に
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ある日のドギモピザは何故か大盛況だった。注文の電話が殺到し、配達員も休む間もなくひっきりなしに店と配達先との往復を繰り返している。レオもその一人で、帰ったと思ったらまた即座に配達に放り出された。
「もー……何なんだよ今日は…!」
思わず声に出してぼやきながら、先の信号が赤になっているのに気付いて速度を緩めた。騒動が日常的に起こるヘルサレムズ・ロットだろうと、最低限の交通ルールはきちんと存在する。忙しいからといって破っていいものではないし、実際の所破った方が危険が増す。この異界都市は無秩序が乱立しているように見えるが、実はそうでもない所の方が多い。
信号の手前でバイクを止めて一息ついた所で、視界の端が知った姿を捉えた。
(あ、ユーリだ)
何気なく見ると、黒のサマーコートを羽織った少女がカフェテラスも併設されているパン屋に入っていく所だった。時刻はちょうど昼時で、彼女も昼休憩をとっているのだろう。
(ベーカリーで昼ごはんって……女の子って感じだなあ……)
どこかうきうきとした様子で扉を潜る結理を微笑ましげに一瞥してから、レオは自分の仕事に戻ってバイクを発進させた。
レオが結理の姿を再び見たのは、それから三十分程後だった。先程と同じく信号待ちをしていると、交差点の向こうにいる少女を見つけた。
声をかけるには少々遠かったので何ともなしに眺めていると、結理は交差点の角にあるステーキハウスに入って行った。
その姿に、思わず首を傾げる。
(……あれ?さっきベーカリーに行ってたよな…?)
もしかして先程はおつかいか何かで、今度こそ昼休憩なのだろうか?と考えている間に信号が変わり、レオは疑問はひとまず隅に置いて今すべき仕事に戻った。
「んん?」
何の偶然なのか三度少女を見かけたレオは、とうとう疑問の声を出していた。
つい先程通った道を戻っている途中で、ステーキハウスから出てきた結理を見かけた。それだけならば昼食が終わったのだろうと思って終わりだったが、少女はその足で二つ離れたバーガーショップに入って行った。昼食が終わったのだろうにもかかわらず、また飲食店に入って行った光景は、疑問に感じても仕方のないことだ。
(メシ屋のはしご…?)
そんな考えがよぎったが、同時にまさかとも思う。この二時間足らずで少女は三軒の飲食店に入っていて、その内の二軒はかなり腹に溜まる系統のジャンルだ。持ち帰るにしても時間の間隔が狭すぎる。
(ユーリも何だかんだで結構不思議なんだよなあ……)
内心思いつつ、レオは自分が見た不可思議な光景はひとまず隅に追いやることにした。
数日後、
「うぉーい可愛い後輩どもーメシ行くぞメシー」
「って……どうせまたたかる気でしょ…!」
言いながらのしかかるように頭に腕を置くザップに、結理は若干以上迷惑そうに顔をしかめて息をついた。そんな険のある返答も何ら気にせず、ザップは涼しい顔で少女に返す。
「ばっかおめえ、俺がそんな奴に見えっか?」
「じゃあ今日はザップさんのおごりですね。わーセンパイ素敵ー!」
「あざっすザップさん!」
「ふっざけんなチビガキ!胃袋「永遠の虚」のてめえにおごったら破産するわ!!レオもどさくさで乗っかってんじゃねえよ!!」
「元々財布事情破綻してんじゃないですか。今更大して変わりませんよ」
「限度っつーもんがあんだろうが!」
「それそっくりそのまま返しますよ!あんたどんだけわたしとレオ君にたかってると思ってんですか!」
「んだよそれぐらい……いや待てよ?」
「「?」」
噛みつく結理に悪態を返しかけたザップが、ふと思案気に表情を変えた。レオと結理が怪訝そうに顔を見合わせていると、ザップは何かを思いついたらしくにやりと楽しげな笑みを浮かべる。
「よーし、そこまで言うんなら今日は俺がおごってやろうじゃねえの」
その言葉には、そこはかとない嫌な予感しか感じられなかった。