幕間:戦いの後、新たな決意
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「本当は昨日来るつもりだったんです。けどエイブラムスさんが病室に押しかけてきて、「入院中の今なら輸血も休養もバッチリだからちょうどいいだろう!」ってがっつり採血してったんですよ……血晶石も持ってかれちゃったしおかげで昨日一日ベットとお友達ですよ…!死んだら解剖させてくれって毎回言ってくるんですよ…!!わたしいつかヘルサレムズ・ロットの摩訶不思議や血界の眷属じゃなくて、あの人に殺されるんじゃないかって思うんですけど本当に…!」
ひとしきり泣き言を漏らして大きくため息をついてから、結理は気を取り直すように顔を上げた。ストムクリードアベニュー駅構内にて長老級の血界の眷属と戦い、共に負傷して病院送りとなったスティーブンに愚痴を聞いてもらう為に病室を訪れた訳ではない。
「という訳で、遅ればせながら治療に来ました」
「……君もまだ療養中だろう?そんな重体って訳じゃないんだから、無理に治そうとしなくていいよ」
「そりゃあ書類が積み上がってなかったらわたしも暇つぶしに雑談して病室戻ってましたよ…!!」
しれっとこちらの目的を撥ね退けようとするスティーブンに、結理は思わず唸るように即答した。ベッド横に置いてある小さなラックの上には十センチ程の書類の束が積まれていて、少女と会話をしているスティーブンの目線は手元の書類に向けられている。
血界の眷属が現れようとも連中と対峙して大怪我をして病院に担ぎ込まれようとも、世界は変わらず動き続けて止まらない。当然、片付けなければいけない案件も溜まっていくのが悲しいことに現実だ。結理もそこは諦めているが、かといって病室で仕事をするのは色々な意味でどうかと思う。
「どうせ療養しながら仕事するんなら、病室より事務所なり自分ちなりの方がいいでしょ?」
「まあそれはそうなんだけど……僕なんかよりK.Kの治療に行ってあげたらどうだい?」
「K.Kさんはとっくに治療済みです。あんたも怪我してんのに何言ってんだ!って怒られましたけど、最終的に許可はしてくれました。明日には退院できるそうです」
「仕事が早いなあ……」
「スティーブンさんに比べればまだまだです」
軽い嫌味もこもっている称賛を今度は結理がしれっと撥ね退ける。数秒程沈黙が流れ、先にため息をついたのはスティーブンの方だった。
「……お願いしてもいいかな?」
「もちろんです」
即答で頷き、結理は腰掛けるようにベッドの上によじ登った。包帯と病院着で覆われた傷の上に手をかざし、すっと小さく息を吸い込む。
「『療』」
少女がかざす手に淡い光が灯り、波が引くように痛みが消えていく。結理の治癒術には何度か世話になっているが、その手並みはいつでも鮮やかだ。少女自身は外傷しか治せない器用貧乏筆頭の能力だと卑下しているが、通常ならば完治に何カ月もかかるような重傷も治療できるその能力で助けられた者は決して少なくない。