異界都市日記10
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「――それで、血法の使い方が似ているから試してみたら問題なく形成ができて、これなら現場に出てもまともに戦えると思ったと。はっきり言おう。馬鹿か君等は。むしろよく入れ替わった状態で普通に飛んだり跳ねたりできたな」
「だ、だって自分の凡ミスですもん!自分で挽回したいじゃないですか!それに犯人も捕まえられたし」
「それは結果論だ。たまたま頭領格が一人でいて、混戦状態でなかったからよかったようなものの、下手をすれば取り返しのつかないことになっていたかもしれない」
「う……」
「何で止めなかったんだザップ。お嬢さんに比べたら動けなかったお前の方がまだ冷静に判断できただろう」
「いやー俺は止めたんすよ?でもこいつがノリッノリで」
「いやいやいや!ザップさんだってめちゃめちゃ乗り気だったじゃないですか!!」
「結理、今回のことは君一人の問題ではない。一歩間違えれば君もザップもどちらも死んでいたかもしれないのだぞ?」
「うぅぅぅぅごめんなさいぃぃ……!!」
「君達がタッグを組むと本当に面倒が増えるなあ……」
「大概こいつのせいですけどね」
「ふうん?自分にはいつも一切の非はないと言いたいのか?言い切れるのか?ザップ」
「う……いや、それは……」
リーダーと副官に代わる代わる説教をされ、ザップと結理はどんどん体を縮こませてうな垂れていっていた。
球根男が持っていた解除剤は幸いというべきか本物で、二人はめでたく元の体に戻っている。他の被害者も元に戻ることができ、犯人グループも拘束され、事件の方は終息した。
ただ、説教の方は今の所終息の気配はない。
「いつもあんな感じなんですか?あの二人」
「そうっすね。二人で組むと大抵クラウスさんかスティーブンさんに説教されてますよ」
「学習能力というものは……」
「なくはないんですけど、大体ぶっちぎっちゃってます」
「……それは……危険ですね」
「でも、何やかんやで切り抜けちゃうんすよね……特に[#dn32#]は」
心配よりも呆れの方が勝っている声で呟くツェッドに、レオが諦めの混じったため息をついて返した。無駄なく解決することは極めて少ないが、それでも何だかんだと場を切り抜けられる悪運の強さのせいか、結理はこうした無茶をよく実行する。
「何と言うか……結理さんがどんな人なのか、少しだけ分かった気がします」
「たまにその斜め上いきますよ」
「……気をつけます」
「うへあ……」
「だあぁ……くそ~……」
数時間後、ようやく解放された結理とザップが、疲れ切った面持ちで同じソファにどさりと座り込んだ。
「自業自得じゃないすか」
「うるせぇ……」
「だぁ~ってぇ……」
「つか、あん時電話してきたのユーリだったんだね」
「そう。頑張ってザップさんぽい悪口言ってみた。騙された?」
「思いっ切り騙された」
頷くと、結理はぐったりとしたままサムズアップを掲げた。その疲れの抜けない得意げな笑みに若干イラっとしつつも、レオはため息をつく。
「普通自分の体じゃなかったら大人しくしてるだろ……」
「血法使えなかったら流石に諦めて待機してたけどね」
「こいつにノせられた俺が馬鹿だった……」
「ザップさんは年中無休で馬鹿だから大丈夫ですよ」
「てんめええクソガキ…!!」
さらりと悪口を吐く結理に悪態を返すザップだったが、どちらも疲労が勝るらしく動こうとはしない。
「あーでも……楽しい体験だったなあ……何より目線がすごい高かった。うらやましいぐらいに…!」
「全っ然反省してねえし」
「してるよぉ……てゆうか、しないと本気で動けなくなる……」
呆れた様子で唸るレオに、結理は若干青ざめた顔で返した。説教の最後に反省するまで補給禁止令を下され、現在貧血寸前まで疲労を溜めている真っ最中だ。
「ザップさんバシバシ血法使い過ぎですよぉ……何でわたしの体で紅蓮骨喰なんてバカでかいの使うんですか……クラウスさんじゃないけど、短期決戦だったから何とかなったけど、混戦か長期戦だったら途中でぶっ倒れてましたよ?」
「あれでぶっ倒れるって、お前どんだけ燃費悪いんだよ……」
「普段で察してください……」
遠慮なく呆れた様子で唸るザップに、ため息交じりに言い返してからふと視線を上げると、何ともなしにやり取りを眺めていたツェッドと目が合った。結理は若干気まずそうに視線を逸らしてから、思い立ったようにもう一度見ながら、口を開く。
「あー……ごめんね?ツェッド君」
「?謝られる理由が分かりません」
「いや、よく考えたら、ツェッド君が何とかするって言ってくれてたのに、それダメにするようなことしちゃったなあって思って……」
「あーあー、男の手柄横取りするたあひっでえ女だなあ結理。奥ゆかしいジャパニーズの風上にも置けねえわ」
「日本人に夢見過ぎですよ」
「ザップさんも思い切り加担してたじゃないすか」
「……謝る所はそこではないと思うのですが……」
ザップの言葉はスルーして、ツェッドは戸惑い気味にそう返した。結理が分からないと言いたげにきょとんとした表情を見せるので、若干呆れた気持ちで言葉を重ねる。
「例え勝算があったとしても、するべきでない無茶をしたという自覚はありますか?」
「……ぅ……それは、まあ……」
「だったら、何に対して反省すべきかは分かりますね?」
「……はい……自分の体じゃないのに危ないことしてごめんなさい……」
「正解です」
「反省したから牛乳欲しいなぁ……」
「許可をもらっていません」
「く…!!」
ばっさり即答され、結理は悔しげに泣きそうな顔で唸った。
異界都市日記10 了
2024年8月11日 再掲