異界都市日記10
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「く~そ~が~~……!!」
「はいはい、いいから大人しくしててください」
気合を入れて起き上がろうとするザップをあっさり引っ張り倒して、結理は隣に座った。現在執務室内は中身の入れ替わってしまったザップと結理の二人きりで、他のメンバーは今回の騒動の犯人の捕縛へ出向いてしまっている。
「でも……確かにここで待ちぼうけは嫌ですよねぇ。何かできることないかなあ…?」
天井を仰ぎ見るようにソファに体重を預け、結理は顔をしかめる。自分達の不注意で起きた事態なのに、それを自身で解決できない現状というのはかなり心苦しい。外を見やりながら探知感度を上げてみるが、やはり体の勝手が違う為かいつもよりも狭い範囲までしか届かない。
「……何か……はっ!もしかしてこの身体ならクラウスさんに挑める…!?」
「旦那の胃に穴空ける気かてめえは……いや待てよ…?逆にこのちんちくりんの体で挑めば今度こそ……」
「それこそクラウスさんの胃に穴が空く話になりますよ。クラウスさん絶対反射的にフルボッコにしますもん……って、そっちじゃなくて犯人捕まえるって話ですよ!」
「言い出したのはお前の方だろうが……」
話題を逸らした張本人に突っ込みを入れて、ザップは重々しいため息をついた。理由が分かる結理は、苦笑交じりに少女の頭を撫でる。自身を見下ろして触れるというのは何とも不思議な感覚だが、そうそうできない体験でもあるので何となく楽しい。
「しんどいですか?」
「世界が回ってる……」
「正常な反応です」
「お前よくこうなるの分かっててバタバタ倒れんな……」
「案外直前まで分かんないんですよ。だから時々限界見誤って倒れるんです」
「オイやめろバカ。絵面が気色悪いことこの上なくなるぞ…!」
「誰もいないからいいじゃないですか」
更に顔を青くするザップに何でもないように返しながら、結理は少女の頭を自分の足の上に乗せた。見た目だけで言えばザップが結理に膝枕をしているという光景は、普段ならば絶対にあり得ない状態だ。
「何て言うか……傍から見ると本当に小さいんですね、わたし」
「おうそうだ。ちんちくりのつるぺた大福のクソガキだ」
「K.Kさんが甘やかしたくなるって言ってたの、何か分かります」
小柄であることは自覚していたが、いざ客観的に見てみると自分の体は本当に小さく華奢に見える。成人に届いているだろうレオですら少年扱いされるのだから、それより更に子供扱いされても仕方がないのかもしれない。
「こんなんが敵陣に突っ込んで行ったら、そりゃあハラハラしますよね。おまけに貧血持ちでいつ倒れるか分かんないし」
「お?何だ?じゃじゃ馬止めて後ろ下がるか?」
「下がりませんよ」
からかうような問いに、結理は笑いながら即答した。
「クラウスさんやツェッド君に心配されてもK.Kさんにお説教されてもレオ君に怒られてもザップさんに呆れられても、わたしは生き方を変えられませんから」
「……けっ、ガキがいっちょ前な口ききやがって……」
「今はザップさんの方がそのガキでしょ……あ、」
「?」
「ザップさん、もしかしたらなんですけど、試してみませんか?」
レオの携帯に着信が入ったのは、犯人達の根城に着く直前だった。ディスプレイ映った名前を見て、何かあったのかと電話に出る。
「ザップさん?どうしたんすか?」
『レオか?今お前のGPSを追って、俺と結理も現場に向かってる』
「え……え?あれ?ザップさん……ですか?」
聞こえてきた声が予想していた少女の声ではなく、レオは盛大に戸惑った。それを見越していたらしい相手は、どこか得意げに続けた。
『そうゆうこった。どうやら時間で戻る系だったみたいでな。旦那達にはもう連絡してあっから、俺らもなるべく早く向かう』
「でも戻ったばっかで大丈夫なんすか?」
『こっち気にかけてる暇あったらてめーの心配してろよどチビ陰毛。それともそのむっだに硬い石頭で球根ブチ割ってくれるか?』
「あー全然大丈夫そうすねつーか陰毛で区切んなせめて頭つけろ」
通常運転な言葉にこちらもいつも通りに返すと、何故か失笑が聞こえてきた。何となく引っかかったが、『とにかくすぐ行くから獲物残しとけよ』と一方的に言い放たれて電話が切れた。
「結理さんと兄弟子が合流するんですか?」
「はい。元に戻ったらしいっす」
妙な違和感があった気がするものの、今はこちらも集中しなければと、レオは現場へと意識を向けた。