異界都市日記10
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気配を察知した時には、体勢を変えようとした時には、ごちん!と鈍い音がした時には全てが遅かった。
ぐらりと揺れた視界の先で、球根のような頭をした異界生物が手に持ったスプレーらしきものからガスを噴射したのが見える。
「う…!ごほっ!」
まずいと思ってもどうにもならず、ガスを思い切り吸い込んでしまった結理の意識はそこで一旦途切れた。
「―――!」
「―――!!」
「……う……」
痛む頭に響くような声に導かれるように目を開くと、見慣れた顔と見慣れた霧に覆われた空が見えた。起き上がりながら負傷個所を軽く確認する。どうやら頭以外には大きな怪我はないようだが、とにかく頭が痛い。余程強く打ちつけてしまったようで、視界がまだぐらぐらと揺れている。
「いった……」
「結理さん、大丈夫ですか?」
「うん……ちょっと頭痛いけど……平気」
「貴方には聞いてません」
「は?」
問われたから答えたのに何故か辛辣に返され、結理は訳が分からずに問いかけた主であるツェッドを見た。ツェッドは若干嫌そうな顔をして「何ですか?」と言ってくるが、それはこちらの台詞だった。
「え、何でそんないきなり」
「……ってー……レオ顔負けの石頭かよ…!!」
「……え……………………!!」
突然態度が変わったツェッドに返そうとするよりも早く、隣で声がした。知っているような知らないようなそんな声の持ち主を見て、結理は絶句する。
頭を押さえ、盛大に顔をしかめて悪態をついている自分が隣にいた。
この状況は一体何だ?何故自分が隣にいる?何故自分は自分を見下ろしている?何故自分の顔にかかっている髪が銀色なんだ?
様々な疑問がいっぺんに頭の中を駆け巡り、最後には思考停止に追い込まれる。状況が一切合財理解できない。理解したくない。
「あ?何だ?何でこんな……」
完全に思考停止している間に隣の結理が訝しげに自身の手を見下ろし、それからふいとこちらを向いた。
「…………………………」
それから今の自分と同じように目をまん丸に見開いて絶句する。
「え?な、何すか?何で二人で見つめ合ってんすか?」
「やはり頭を打ったせいですか?二人とも顔が真っ青ですよ」
状況が分かっていない、分かるはずもないレオとツェッドが戸惑いながら声をかけてくるが二人、ザップと結理の耳には届いていなかった。
「……嘘、だろ…?てめえ何モンだ!?俺に化けて何しようってんだ!!」
「本人ですよ!外見は!間違いなくあんたの体です……多分!いいですか?レオ君とツェッド君も。落ち着いて聞いてください……」
言いたくない。認めたくない。だが認めないことにはどうしようもない。あり得ない現象などではない。ここはどんな不可思議な現象でも当たり前のように起こる都市、ヘルサレムズ・ロットだ。
「……わたしとザップさん……中身が入れ替わってます」
決定的な言葉が投げられたきっちり3秒後、三人分の悲鳴が響き渡った。