異界都市日記1
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半狂乱で暴れ回っていた半神は、混沌の角塔ビルの先端に取りつくとそこで大人しくなった。
『…これはですね、自分の体の右側を探してるんですね!!離れ離れになった肉体がもう一度一つに合わさったとき、憤怒にかられている神が何を為すのかこれは想像もつきませんよ!!』
ラジオから流れる神性存在の解説を聞きながら、結理は黒のサマーコートのポケットから指抜きのグローブを取り出してはめた。具合を確かめるように二、三度手を振っていると、携帯が震えた。
「もしもし」
『元ジョニー・ランディスがゲートの開く瞬間が『視える』らしいの。グレートセントラルパークに追い込んだから一旦クソ猿と合流して』
「了解です」
チェインからの指示に結理は即座にグレートセントラルパークへと足を向けた。今いる場所からはそう遠くはないが、開放までの時間も余りない。
(あ~~ベスパ乗ればよかった…!)
乗り物がない方が臨機応変に対応できると思って愛車に乗らずに移動していたが、思わぬ所でロスになってしまった。悔みつつも全速力で走ってパークへたどり着くと、見慣れた姿とさっき見た姿の二人組が走っているのが見えた。
協力体勢でいるということは少年、レオナルド・ウォッチは本来の名を名乗ったのだろうと判断して、遠慮なく呼ぶ。
「ザップさん!レオナルド君!」
「結理?何でお前が…」
「『視る』のと『感じる』のとで解析したら?ってゆうチェインさんの提案です」
「成程な」
思わぬ相手に驚いたザップだったが、結理の言い分を聞くとすぐに納得気に頷いた。
そのまま三人で広場手前の草っ原に伏せ、中心辺りにいる音速猿を視界に捉える。
「頭下げろ。」
「…ええ」
「この距離ながら大丈夫だと思うが…」
辛うじて姿が見える距離まで離れている音速猿を見ながら、ザップが引きつった笑みを浮かべた。
「思い切って近付いてみるか!?……お前だけ」
「確かに思い切った提案ですね」
(…何なんだよこの人達はもう!!)
洒落にならないことを言うザップとそれにあっさり返す少女とに、レオナルドは顔を引きつらせるしかない。そんな表情の変化に気付いている結理はこっそり失笑を漏らした。
「さっきの話だがな、別にお前に一から十までやらせようなんて思っちゃいねえ。癪だが「見える」のと「見えない」のでは天と地の開きがあっからな。もちろん「感じ取れる」と「感じ取れない」もな」
レオナルドに言いつつ、ザップは隣に伏せている結理の頭に手を乗せた。圧し付けられるように手を乗せられた少女は不満げに顔をしかめるが、音速猿からは一瞬たりとも目を離さない。
「とにかくガッツリ見て気付いたことを教えるんだ」
「……っ……来ます…!」
緊張した結理の声の後、音速猿の形が変わったように見えるほど空間が歪み、轟音と共に周囲が真っ二つに切り裂かれた。その光景が見えて感じ取れていた結理は思わず顔を引きつらせる。
「うわえげつな……マジに半神合体したらHL終わりますよこれ……」
「ゴチャゴチャ言ってねえで、何か見えなかったのかよ?」
「太刀筋と、お猿さんの辺りから出てきたってことしか分かんないです。でも何か……何だろう…?何か違和感ありました。どこだ…?違和感……何だろう……?」
「その何かが見えなきゃ意味ねえだろ…!お前は?何か見えたか?」
顔をしかめて考え込んでしまった結理はひとまず放置して、ザップはレオナルドに声をかけた。だがレオナルドは、音速猿のいる方角を見たまま冷や汗を流して固まってしまっている。
「…おいッ!!…気圧されるのは後にしろッて!!」
仕方がないとはいえ今は時間が惜しい。ザップは焦りを見せながら少年の頭を軽く小突いた。
「気付いたことはあんのかって訊いてるんだ!!時間無えんだぞこのバカ!」
「…………猿…あの猿!!割れてなかったです!!」
「っ!それだ!!」
「…はあ!?」
「強盗犯はゲートが発現したとき縦に割れたでしょう!?あの猿は割れてませんでした!」
「じゃあ何処から半神の腕が出たって言うんだ!?」
「出現の気配は間違いなくお猿さんからしてるんですけどねぇ……」
「……もう一度…もっと近くで見てみないと」
「っ!ザップさんレオナルド君!!邪神が来る!!」
結理が鋭く叫んだ直後、三人に影が落ちた。一斉に見上げると同時に、頭上を音速猿と邪神が通り過ぎる。
「やっばこっちに集中し過ぎた…!追いかけますよ!」
「言われなくても分かってんだよ!!」
言い合いながら三人も慌てて邪神の後を追い始めた。
ランブレッタに無理矢理三人で乗って走らせていると、邪神と音速猿の関係性に気付いたらしい武装ヘリが音速猿をターゲットに定めて機関銃を乱射する光景が見えた。一斉射撃を邪神が全て払い落とし、それで確信を得たらしく攻撃が更に激化する。
「はっはっは!!何だか大事になってんぞ!!凄え!!」
「いやそんなこと言ってる場合じゃないですって!このままじゃマズイですよ!」
「何でだよ?上手くすりゃ連中が猿を殺ってくれんじゃねえのか?」
「多分それじゃダメです!」
「?」
「結理の言う通りね」
「チェインさん!」
結理の言葉にザップが問いを返すよりも早く、彼の頭の上に不意にチェインが降り立った。悲鳴を上げるザップと驚くレオナルドにお構いなしに、チェインは冷静に続けた。
「銀のモンキチ、フェムトってどんな奴?」
「モンプチみたいに言うな!…どんな奴って…切れ者でお調子こきで人格破綻者で悪趣味で狡猾で……謎の男さ」
「人の発想の斜め上行こうとするくっそ迷惑な愉快犯です」
「…そうよね。それを踏まえて考えてみましょう。騒ぎは起こってるもののほぼ自動的に猿がターゲットだと皆が推察できているこの状況、あんたの中のフェムトはこれくらいの仕掛けで満足する?」
「……確かにな」
「……もしかして、お猿さんを……っ……ザップさんストップ!避けて!!」
言いかけた結理が緊迫した声を上げる。だが誰もが反応するよりも早く前方全てに太刀筋が走った。
それにはランブレッタの前輪も含まれていて、真っ二つに割れた拍子に横倒しになって地面を滑る。同じように斬り裂かれた建物や通行人がバラバラに崩れ落ち、車が爆発を起こした。
「どんだけ射程長いの…!!」
「ちぃ…!オイ!あのガキ何処行った!?」
「え!?あ、うそ!いない!!」
悪態をつきながら道路に難なく着地した結理は、ザップの言葉で我に返って周囲を見回した。煙と砂埃で覆われた視界ではレオナルドの姿を見つけることができない。