異界都市日記9
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次に訪れた店は、シェフが口に含んだものを吐き戻したゲロ丼の店だった。恐ろしく刺激的な調理工程だが癖になる味なのか、客は嬉々とした表情で丼を掻っ込んでいる。
「…なるほど、これは斬新だ。行きましょう。」
「やめてくださいいいいいい!俺が嫌ですうううううううう!!!」
「いやああああああああ!!やめてツェッド君!!いややめてくださいツェッドさん!ツェッド様!!」
あっさり入ろうとするツェッドを、今度はレオが足に、結理が腰にしがみついて止めた。既に半泣きの二人を、ツェッドは不思議そうに見る。
「親鳥は一度咀嚼し消化したものを戻して雛に与えると言います」
「鳥じゃん!!バードの話じゃん!!」
「わたし達半分くらい人外だけどヒューマンの習性は捨てちゃダメだよ!!ヒューマンは基本ゲロ食べないよ!!!」
「…クールぶりやがってコノヤロー。実は内心半泣きなんじゃねえのか?」
「…何の事です?」
「いや僕が全泣きです!ホラ!!ホラホラ見て!!見て!!」
「お願いだから止めようよぉぉぉぉっ!!でないと泣いちゃう!わたしが!!!」
睨み合う斗流兄弟弟子にそれぞれしがみついて、レオと結理は全力で反対の意思を示した。どうにか店の前から移動して、どこか落ち着ける場所はないかと探すが、手軽に入れそうな店は見つからなかった。
「じゃーここならどーよ」
「クラムチャウダーすか」
専門店らしい店内に入ると、ちょうど客が運ばれてきた料理に手をつける光景が目に入った。白いスープは湯気を立てていて、スプーンを入れると、
中から出てきた何かが客を丸呑みにした。
「うわあ……」
「おいいいいいいいいいいいい!」
結理はドン引きした表情を見せただけで終わったが、レオはそうはいかなかった。客が食われた光景を思い切り見てしまい、顔中から血の気を引かせて泣きだす。
「気を付けてくださいアルねー」
「「くださいアルねー」じゃねーでしょ!!」
「すっごい斬新なクラムチャウダーですね」
「クラ……?…ムチャ…?」
結理の感想に、ウェイトレスが心底訳が分からないと言いたげに眉を寄せる。よく見ると周囲の反応も似たようなものだった。その反応に首を傾げると、ウェイトレスは「何言ってるアル?」と外の看板を指さした。
「うちは…グラムキュホウデ※%$#@(後半部分標記不能発音)の店アルよ」
「認めねェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!」
本日何度目になるか分からないレオの絶叫が店内に響き渡った。
「もー何でこんな店ばっかなんすかああ…!仲良くしましょうよおお…!」
「……今のとこだったらわたしは別に」
「ユーリだけは僕の味方でいてくれよおおおおお!!!」
「僕は全然食べましょうって言ってるじゃないですか。それをこの人がさっきから露骨に不服そうな顔をして」
「何だとテメー。レオが先に大騒ぎで拒否してくれて助かってんじゃねーのかオイ」
「嫌がらせであることを隠そうともしなくなりましたね。貴方こそホントは食べたくなくて失禁寸前なんじゃないですか?」
ぎりぎりと不機嫌全開の顔でからんでくるザップに、ツェッドは冷静に返した。それもまた気に入らない様子でザップは額がくっつきそうなほどツェッドを睨みつけ、ツェッドも無言でそれに応えて睨み返す。
「もー……早く決めましょうよー……」
「…メシの時間無くなりますよ…!!マジで…!!」
二人のやり取りに飽きてきた様子の結理と、時間が気になり始めたレオは態度は違えど力なく仲裁の言葉を投げた。
それから四人は、口に出すのも憚れる某黒光りする昆虫の人間サイズが給仕する店。生きたまま切られた正しく生肉が出てくる店。何故かスツールが鋭過ぎる牙を持った生き物の店。文字通りのめいど喫茶(ここは結理が戦いたい的な意味で食いついたが三人で止めに入った)。スープの中に妖精と表現していいのかかなり迷う生物が入っている店等々を巡っては出て、時に逃げ出して、最後に客の頭を開いて脳みそをいじっている店をうっかりしっかり見てしまった所で、レオが色々な意味で折れて道のど真ん中に倒れ伏した。
「……レオ君死んだ?」
「もうやめましょう…普通にお昼ごはん食べましょう……」
あながち冗談とも取れなさそうな問いに言葉は返ってきたが、内容は噛み合っていなかった。結理は一つため息をつくと呆れたようにザップとツェッド、特にザップの方を見やる。
「まだ続けるんなら、レオ君連れてサブウェイでも行くけど……」
これ以上無駄にレオを連れ回すのなら勝手に喧嘩でも何でもしてろと言いたげな少女の視線に、ツェッドは困ったように肩を落とし、ザップは嫌そうにそっぽを向いた。だがすぐに、ザップはレオの方を一瞥すると力を抜くようにため息をついた。
そこでレオが夢から覚めたようにがばりと起き上った。
「…行くぞ」
「…ザップさん、やっぱり食事っつーのは…」
「おう、やめだやめだ」
恐る恐る言いだそうとしたレオに、ザップは穏やかに返した。
「普通に食おうぜ。マジ腹減っちまったしよ」
「……!!」
「一件落着、かな?」
「ですね」