異界都市日記9
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ライブラの事務所内は穏やかな空気が流れていた。することと言えば前回の任務の報告書の作成ぐらいで、緊急の事件も取りかかっている案件もない。
「……よし、できた!レオ君終わった?」
「うん、俺も今できたよ。」
「じゃ一緒に出しとくね。あー……もうお昼時かー……」
呟きながら結理は、自分のものとレオから受け取った報告書を誰もいないデスクに置いた。デスクの主は数時間前から不在で、今事務所内にいるのは自分とレオを除けばザップとツェッドだけだ。
「ねーねー、昼飯行きましょーよヒルメシ」
「さんせー!」
「お、何だもうこんな時間か。よっしゃ」
「……ツェッドさんも行きましょうよ」
「あ、いいね一緒に行こう!」
「え…僕は」
「てめーレオてめー」
号令をかけたレオがツェッドに声をかけると、真っ先に結理が同意し、当のツェッドは戸惑ったように言葉を濁し、昼飯と聞いて乗り気で立ち上がったザップは途端に盛大に顔をしかめた。
「何誘ってんだお前。生臭くなんだろメシが。結理も賛成してんじゃねえよ」
遠慮も配慮もない悪口を聞いて、今度はレオと結理が顔をしかめる。二人は早々にザップから視線を外してツェッドの側に行くと、促すように彼の背を軽く押した。
「じゃあいいです。俺らツェッドさんと行きますから。そんな事言う人は死ねばいいです」
「三人でおいしいご飯食べてきますんでSS先輩はそこで干からびててください。レオ君ツェッド君行こう?」
「ちょ…!!待てよ…!!」
まさか即答で置いていかれるとは思っていなかったのか、ザップは慌てて三人を呼び止めた。不服そうな顔は隠しもしなかったが、自分が折れなければならないのは流石に分かっているので、肯定の言葉を口に出す。
「…いいぜ、一緒に食おう」
しかし、そこでタダでは折れないのがザップだった。
おすすめの店があるという言葉で連れられて来たのは、異界存在が経営している回転寿司屋だった。
「いやーウマそうったら無いなーオイ」
「…………クズい」
どう考えても特定の一人に対する嫌がらせでしかない店のチョイスに、レオは唖然とした様子で表情を歪め、結理は無表情で店の看板を眺めながら呟き、ターゲットであるツェッドは、
「…って入るんかい…ッ!?」
何でもないようにのれんをくぐろうとした。予想外の行動に思わずザップが突っ込みを入れると、ツェッドは涼しい顔で「え?…何がですか?」と返した。
「海に居る魚が普段何を食べてると思ってるんですか?同じ海に棲む生き物達です」
「……ッ!!」
「あー確かに」
「貴方の程度の低い嫌がらせは無教養からくる的外れも含むわけです。さ、理解できたらさっさと頂いてしまいましょう」
「わー回転寿司久しぶりだあ……うぎゅっ!」
「待てい!!」
嬉しそうにツェッドと一緒に店に入ろうとした結理の襟首を引っ掴みながら、ザップは焦った表情で待ったをかけた。
「そうだった!!実は今日のアンラッキーナンバーはマグロだった…!!」
「マグロは数字じゃないでしょう」
「エンガワとか食べりゃいいじゃないすか」
「味噌汁もありますよ。ザップさん前においしいって言ってたでしょ?」
「…腹が痛い…!!」
「じゃあ食べるのやめて帰りますか?新人イビリの為だけに外に出てきた事を認めて帰りますか?」
「くううっ…うっうっ…!!」
形勢は完全に逆転していた。元々形勢も何もあったものではないが、追い込まれているのはザップの方だった。このまま折れてくれればいいのにと、結理はザップを見下ろしながら思っていたが、残念ながらそれは叶わず、気を取り直したように勢いよく立ちあがった。
「治ったー!!別の店行くぞえァ!!」
「何なんですかこの人」
「訊かないで下さい。僕も同じ感想っすわ」
(お腹空いたなあ……)