異界都市日記8
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「…ビンゴ!!」
K.Kが放った雷を纏った弾丸が血界の眷属の眉間を撃ち抜き、結理がレオの襟首を掴んで放り投げるように下がらせた。攻撃は届かず、血界の眷属の動きが止まった一瞬でそれぞれが動く。
「わ」
放り投げられたレオをハマーがキャッチして、そのまま戦線を離脱する。クラウスは即座に回復した血界の眷属と対峙し、ザップと結理は航空機の残骸の方へ走り出した。
「待ってろ!今出してやる」
ザップは13時間もの間一人で長老級と対峙していた弟弟子の救助へ向かう。彼もまた己の研鑚しか興味のない師の犠牲者だという思いが顔をしかめさせた。
「『血術』……っ!?」
「?!」
思惑こそ違うが結理も早く救助しなければと術を紡ごうとするが、刃を形成する直前に内側から太刀筋が走った。思わず二人揃って足を止めた直後、分厚い鉄板が切り裂かれ、外に向かって倒れた。
それを為したのは、水かきと鋭い爪のついた手だった。ザップも結理も驚いて固まっている間に、残骸の中から誰かが出てくる。
「下がっていて下さい。人類(ヒューマー)」
落ち着いた声音と共に出て来た誰かはすらりとした体躯の、一見すると異界存在のようだった。肌の色は海の生き物を連想させる青系統で、腕には鰭のような長い突起が伸びている。
全く予想していなかった姿に結理は目をまん丸に見開き、
ザップはブーと思い切り噴き出した。それも弟弟子の顔に向かって。
「……って、ザップさん!?」
「……いや済まねえ……半魚人。それも闇雲にスマート。つか半透明…あの質感…くず餅か!ジャパニーズスイーツくず餅か!!やべえツボった…!ちょ、まじやめて」
「!?初対面の人に何て事言うんですかバカ猿先輩!!ああもうすいません!この人いつもこうなんです!!悪い人じゃないけど馬鹿なんです!!」
腹を抱えてげらげら笑い出したザップに罵声を投げてから、結理は慌てて弟弟子の方に向き直って謝った。謝られた本人は、少女を見下ろして戸惑い気味に言葉を返す。
「いえ、貴女が謝る必要は」
「つか何で半魚人?むしろほんとに半魚人か!?その触覚は虫じゃねえのかよ!!」
「ザップさん!!」
その間も笑いが止まらないザップに、弟弟子の方が反撃に出た。赤い三叉槍でザップの顔面の真横を突き刺し、強制的に笑いを止めさせる。
「失ッ…敬だな!!君は!!」
「…サーセン」
「もー……!」
ザップがようやく笑いを引っ込めて謝った直後、三人に向かって殺気が飛んできた。それぞれの得物で攻撃を受け流し、地面を滑りながら距離を取る。攻撃を放った血界の眷属は、変わらない無表情で三人を見つめてぼそりと呟いた。
「…残念、殺せなかったか」
気の抜けた空気に一瞬忘れかけてしまっていたが、戦闘はまだ終わっていない。
「全く、余所見していたら命落としますよ」
「そりゃこっちのセリフだ出オチ野郎」
言い合い、斗流血法の二人の後継者は互いの得物に視線を向けた。
(この刃の形…我が斗流…「彼」がそうなのか?)
(シナトベも刃身の基本は変わらねえらしいな。綺麗な三叉槍だ…三叉…さかなクンが…何突こうってんだ?パパとママか?)
(また失礼な事考えてんだろうなあザップさん……)
最初は観察するように、感心するように見ていたザップが唐突に噴き出した。結理が胸中でぼやきつつ顔をしかめて隣を窺い見ると、弟弟子も同じことを思っているらしく微妙な表情でザップを見ている。
そんな、戦闘中にも関わらず流れかけた気の抜けた空気に、血界の眷属は苛立ちを覚えたのか先程から無表情を貫いていた顔を若干しかめた。
「っ!!」
威嚇するように放たれたオーラが、ビリビリと空気を震えさせた。下半身を失うという、人間なら即死している躰で十数時間も牙狩りと激闘を繰り広げたとは思えない程の圧が、押し潰す様に襲いかかる。
上半身だけでこの威圧感なのだから、下半身と合体して完全体に戻ったらどうなるかは想像に難くない。そうなる前に決着をつけなければという考えがよぎった瞬間、血界の眷属が牙をむき出しにして笑みを見せ、腕を振り上げた。放たれた衝撃は真っ直ぐにビルのフロアを打ち抜いていき、屋上まで到達する。
その衝撃を受け、籠から飛び出た真胎蛋が落ちていく。それを見つけた血界の眷属は、自らの半身へと向かって跳んだ。
(動いた…!!)
「斗流血法・シナトベ」
血界の眷属が動いたことを見届けたシナトベの使い手は、自身の血を武器へと研ぎ澄ませ、上に向かって投擲した。
「刃身の伍 突龍槍」
赤い三叉槍は空中で弾けるように糸の形に変化し、血界の眷属の周囲に張り巡らされる。
「空斬糸」
風を纏った血糸を張り巡らせれば、後は炎が放たれるのを待つのみだ。
だが、それを為すべき筈の相手は何もせず、ただ血界の眷属が完全になろうとしているのを見据えている。
(…!?師匠――!?)
戸惑っている間に真胎蛋が広がり、求めるように手を伸ばした血界の眷属の上半身と絡み合い、体を形成していった。止める間もなく完成体となった血界の眷属は会心の笑みを浮かべて巨大な翼を広げた。
全員が死ぬ。
その直感を打ち砕いたのは、強烈な冷気と氷の音だった。完成体となったはずの血界の眷属があっという間に全身を凍てつかせ、驚愕の表情で動きを止める。
「…チッ、そういう事か」
舌打ち交じりの吐き捨てるような言葉と共に、炎の気配を纏った刃が血界の眷属を貫いた。
「先に言っとけ!雑巾ジジイ!!」
全ての状況、作戦を察したザップは顔をしかめながら言い放ち、隣の弟弟子に目配せをする。同じく状況を理解したシナトベの使い手も動く。
「斗流血法・カグツチ」
「・シナトベ」
「七獄」
「天羽鞴」
風によって増幅された炎が一気に燃え上がり、血界の眷属の体を焼き尽くした。血界の眷属は抵抗しようとしたのかこれ以上の攻撃を防ぐ為か、苦悶の声を上げながらも触手刀を振り回す。
「『血術』……『鞭―バインド―』!」
その触手刀を、十の赤い鞭が左右でまとめて縛り上げた。それは十秒にも満たない拘束だが、その数秒で十分だった。
「エルルエル・ルカンド・ロゾ・ティエトカゥア・ギ・ムルムバヴァト」
攻防の手段も防がれてガラ空きになった血界の眷属の心臓に向かって、クラウスが滅獄の拳を振り下した。
「貴公を、密封する」