異界都市日記8
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ライブラのメンバーは、次の作戦に向けて移動をしていた。
半身をもがれた血界の眷属は現在、このヘルサレムズ・ロットに向かってきている。目的は『永遠の虚』中心部への帰還と、もがれた半身の回収と合体。ともすれば反撃も視野に入れているだろうというのが、血界の眷属と交戦していた汁外衛の見解だ。
「そんな事になれば今度両断されるのは貴様らの内の何人かじゃ。腹から裂かれて生き残る自信がなければせいぜい頑張る事じゃな」
そして、そんな血界の眷属をザップの弟弟子―彼が扱う斗流血法カグツチと対を為す、シナトベの正統後継者が拘束し、連れてきている最中とのことだ。
「突っ込むってぇ!?縛り付けたまま…!?そんな事をした飛行物体がどうなっか知ってんのかよ…!?」
【無論、タコ足に叩き摺り潰されよう。だが――そういう相手だ。使えるものは神性存在とて使わせて貰う】
「死ぬぜ、その弟子がよ」
【……手は打ってある】
やがて、目視できる距離に一機の飛行機が近付いてきた。まだ遠いのではっきりとは見えないが、先端には赤い何かが張り付いているように見える。機体は真っ直ぐにHLへ突っ込もうと飛び続けていたが、間もなく霧の壁に差し掛かるといった所で、下から唐突に伸びて来た巨大なタコのような足が、飛行機を捉えていともあっさりと握り潰した。その際に千切れた先端のみが街に突っ込んでいく。
それを合図に、それぞれが動く。
「ブラッドハンマー、GO」
クラウスの号令で、血殖装甲の姿を取ったブローディ&ハマーが飛び出した。
「…どうも!!」
血界の眷属が張り付いた飛行機の先端を受け止めるようにしっかりと掴み、ハマーは朗らかな挨拶もそこそこに思い切り叩きつけた。
「航空機B2B」
叩きつけられた衝撃でビルのフロアがいくつか破壊された音が響き渡る。それが次の行動を起こす合図だ。
「よし捉えた!!レオナルド君、諱名は見えたか!?」
「まだっす。半分しか…!!」
「そうか」
返答を聞くなり、クラウスはメモを取っているレオを抱えるとそのまま縁の向こうへ駆け出した。ザップと結理も後に続く中、レオは次に何が起こるのかを察して盛大に顔を引きつらせる。
「なっ!ちょ…ええええええ!!!!!」
数十メートルのビルの屋上から自由落下を始められて、レオの悲鳴も一緒に落ちていく。クラウスは落下をしながら一定毎に十字の杭を壁に打ち付け、それを足場に速度を落としながら下へと降り、ザップと結理も同様に杭を足場に目的地へ降りていった。
ブローディ&ハマーの攻撃で破砕されたフロアに降り立つと同時に、凄まじい勢いで鋭い殺気が伸びて来た。あと数センチで届くという所で十字の盾に止められた攻撃を放った主は、どこか忌々しげに巨大な刃爪の形を取っている手を引っ込める。
航空機の下敷きになったままの血界の眷属は、原形を止めていない程潰れていた。
「おおう…酷えな。潰れた頭蓋を再生しながら攻撃か」
「やめてくださいよ!!俺今からそっち見なきゃなんないんすから!!」
「うぉえ……ミートソース食べらんなくなりそう……」
「だからやめろってーーーっ!!」
嫌な実況をするザップと結理にレオは思わず泣き叫んだ。特に結理の例えが生々し過ぎて、見なくてはならない方向を直視するのが相当躊躇われる。
「…いや…もう見ても多分お前大丈夫だぞ…」
だが、その頃には相手は直視に耐え得る姿になっていた。下半身はないが、上半身はどこも欠けることなく人の形を取っている。
「……すごい速度……」
「逆再生の早回しかよ…」
正しくあっという間と表現できる速度で再生を済ませた血界の眷属は、陰った目で対峙する牙狩り達を見据えながら挑発するように手招きをした。
「どう出る…?」
「うむ。まずは諱名。書き写すと同時にレオを安全圏へ。機内の“彼”は無事だろうか?」
「生きてる気配はします。けどそれ以上は血界の眷属の圧が強過ぎて捉えきれないです」
答えながら結理は、ふと違和感を覚えた。機内に留まっているザップの弟弟子とやらの気配が、人間のそれとは微妙に異なっていた。先程遠くから彼等の師の気配を感じ取った時とはまた別の違和感に、思わず眉を寄せる。
(人間じゃ……ない?いやでも……もしかして……)
その違和感は、血界の眷属の諱名を読み取っているレオも抱いていた。見慣れ始めて来た緋く輝くオーラの横に見えるもう一つのオーラは、人間かどうか判断に迷う色をしている。
「急いで慌てず確実にだ」
「…はいっ」
だが今はそちらに気を取られている場合ではない。レオは自分に出来得る限り素早く諱名を書き取り、メモを千切る。
「出来ました…!!」
「その子供からか…」
攻撃をしてこない敵を怪訝に思っていた血界の眷属は、何かをしていると察して静かに呟き、地面に触れた。同時にレオの真横から先程と同じ刃爪が、何かをしている少年を突き刺そうと地面を割って襲いかかる。
だが、届く直前でそれは阻まれた。