異界都市日記8
名前変換
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「お初にお目にかかります。“血闘神”斗流血法創始者、裸獣汁外衛賤厳殿」
(ヤバい、本気ですごい人だった。とんでもないのに喧嘩売ってた…!消し炭にされなくてよかった……!!!)
「世辞はいい。一瞬どちらを攻撃するか迷う未熟者共に言われても価値は無いわ」
名前と肩書きを聞いた結理が内心冷や汗を流している間も、ザップの師は相変わらずの物言いで言葉を放った。とはいっても通訳しているのがザップなので、スティーブンとK.Kが盛大に嫌そうに顔をしかめる。
「な…!!!だから俺じゃないっすよ!!!」
「でもやっぱちょっとイラっとするよね」
「うん……」
再び慌てて弁解するザップを見ながら、レオの隣まで下がった結理がこっそり呟き、聞こえたレオもこっそり頷いた。
「今回の相手、汁外衛殿に於かれましても強敵でありますか」
「さあなあ、どうであろう」
スティーブンの問いに汁外衛ははぐらかす様に曖昧な返答をする。
十年単位の行方不明はザラ。その間にかなり高位の血界の眷属の滅殺跡が発見されていて、全て目の前の血闘神の仕業とも噂されているが、恐らく真偽は語っては貰えないだろう。全く捉えどころの無い御仁だと内心ぼやいている間に、斗流血法創始者はクラウスの方に向き直った。
「貴様が滅獄の術式を付与されし血か」
「はい」
「面構えは面白いが長としては未熟だな」
「?」
「これを見よ」
そう言うと、汁外衛は吊るし上げた状態のザップの腹を、持っていた杖でつつき始めた。
「儂を師匠と呼ぶこの糞袋が鍛錬のタの字も掠らぬ生ゴミとなり果てとる。まるで浅黒く腐った猛毒の餅じゃ。忌々しさを固めて人型にして蛇蝎を埋め込んでもここまで不快なものにはなるまい」
丸い下腹をぶにぶにとつつき続けながら、弟子への罵詈雑言は止まらない。
「節制とは程遠い自堕落な精神状態で日々を無為に過ごさせとるな?こうなっては目も当てられん。惨憺たる有様。ものを喰い屁を垂れる分だけ潰された蟲の屍骸より厄介じゃ」
そして自分の口から自分への罵詈雑言を言わされ続けている弟子の方は、色々な意味で死んでしまいそうな顔で涙を流している。
(うわー…ここまでの面罵を自分で言わされてる画ってもの凄いシュールだなー)
「ここまでどSな言葉攻めはないだろうなあ……」
「という事で…こいつは連れて帰る」
そんな可哀想なことになっているザップを見て、レオと結理が何とも言えない表情でそれぞれ思っていると、汁外衛が締めくくるように言い放った。
「……って」
場の全員が大なり小なりと驚きを見せたが、一番は当然と言うべきか宣言されたザップ本人だった。
「ちょ…!!ちょ、待てよ!!ジジイ…!!じゃなくて師匠…!!」
言い返そうとするザップだが、ずっと掴まれていた頭を更に締め付けられ、杖で叩くようにつつかれて反論が悲鳴に変わる。師が言い放つ言葉に負けじと悪態を返したが、結局最後はまた頭を締め付けられ…というよりは爪を立てられて、強制的に黙らされてしまった。
「いだいいだいいだいいだい」
「まあまあまあまあご老体、ザップは確かに度し難い人間のクズですが、我々にとって欠くことのできない大事なメンバーです」
「スティーブンさん、本音出てます」
「サラリと出るよね本心は!言葉に気付かず混じるよね」
「どうか、お考え直しを」
「…………」
さりげなく低評価な言葉を混ぜつつも説得を試みるスティーブンに次いで、クラウスが深々と頭を下げた。その姿を見たからなのか、何か別に思いがあるのか、汁外衛はしばらく黙ってから、ザップに向かって何かを言う。
「…え?」
「通訳しろザップ」
「真胎蛋の攻勢解除を求めてます。試験と云うか……交換条件に」
最終自閉形態を取った血界の眷属は、現在その内部で急速再生治癒に入っている。その間、外界からの刺激には超反射攻撃で反応し、触れるどころか間合いの中に近づくことすら許されない。その反射攻撃をする為に、真胎蛋の表面に開いた六つの目のような器官が常に周囲を監視している。
「「同時に射抜け」ってアンタ…それで大人しくなるって簡単に言うけども……」
「……それって、すごい集中力と精密さがないとできない芸当じゃ……」
真胎蛋の攻略法を遠くで聞きながら、結理は思わず声に出して呟いた。それが聞こえたレオは、やや不安そうに結理とザップとを見る。
「ザップさんならできるの?」
「少なくとも……あのお師匠さんを除いたら、この中で一番その手のに向いてるのはザップさんだと思う。けど、もし失敗したら」
「良くて両腕切断。最悪足首しか残らない…じゃねーだろ馬鹿かアンタ」
「だって」
「ええ……!?」
「でも、まあ…何とかなるんじゃないかな?お師匠さんがああ言うってことは、ザップさんならできるって確信してるんだろうし…………多分」
「多分って……」
「いやぁ……こればっかりは何とも……」
話している内に、汁外衛はザップと真胎蛋を隔離するように血の薄膜で結界のようなものを張った。逃げ道も塞がれ、ザップは気圧されたように顔を引きつらせる。
「お師匠!やはり、どう考えてもこれは度が過ぎています。どうか…」
流石にマズイと判断したクラウスが待ったをかけようとするが、結界を張った主はそれを一睨みで一蹴した。その気迫に全員が凍りつき、思わず下がる者もいた。
尤も、約一名は岩石の如く一歩も退くことはなかったが。
「……やるぜ」
そんな凍てついた空気の中、ザップが緊張した面持ちのまま静かに口を開いた。