異界都市日記1
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凄まじい速さで何かが通り抜けたのと、ビルの上部分が斜めに裂かれたのはその直後だった。すっぱり裂かれた部分が下に落ち、霧に覆われた空が見える。下の方で瓦礫が落ちていく音と悲鳴が聞こえる中、結理とチェインは事務所に降り立った。
「うわ、きれーに真っ二つ……」
「大丈夫!?ウンコ猿!」
「チェインさんほんとブレないですね……」
この非常時でも変わらない呼称に苦笑を洩らしつつ、結理も周囲を見回しながら駆け出す。
「…ああ、大丈夫だ」
土煙が晴れる前に見つけたザップは、右手から血を流してはいるもののそれ以外に負傷はなさそうだった。
それを見た結理はほっと小さく息をつき、チェインは心底残念そうに舌打ちをする。
「……ケガ軽すぎ」
「てめえ本当に犯すぞ」
「あはは……でもやっぱ流石ですね。これならすぐ治せますよ」
「こんなかすり傷より旦那だ。アッチの方を探せ!」
「何でよ、アンタが生きてるなら彼が怪我するわけないじゃん」
「あ!ジョニー・ランディス(仮)!」
「…あ、そうか」
新人の名を騙った少年は、邪神の斬撃を避けられる風にはとても見えなかった。クラウスがすぐ側にいたのなら間違いなく彼を庇うだろう。
「…あーあ…やっぱり…」
その予想通り、クラウスは少年と一緒にいた。少年の方は無傷のようだったが、クラウスの方は負傷して倒れ込んでいる。
少年は自分を庇った理由が分からない様子で動揺しているが、そこに何故などない。強いて言うならば、少年がそこにいたからだ。
「っ!クラウスさん!」
遠目に負傷の具合を見た結理が顔色を変えて駆け寄った。傍らに膝をつき、真っ赤に染まった脇腹にそっと触れる。
「止血だけでもします」
返答を待たずに、結理はすっと小さく息を吸い込んだ。
「……『療』」
「おいコラ」
傷口に触れる手が淡い光を灯らせた一方で、ザップが低い声と一緒に少年の胸ぐらをつかんで持ち上げた。半神の片割れがこの事務所で出現したということは、必然的に疑いは彼の方に向く。
「やっぱりお前が差し金かこのガキ」
「あ、待ってザップさん!その人じゃないです!!」
「頭使いなさいよクソ猿」
治癒の術をかけながら結理が慌ててザップに声をかけ、次いで起き上がろうとするクラウスを支えているチェインも声を飛ばした。ザップが訝しげに振り向くのを見ながらチェインは続ける。
「ミスタークラウスが「このままでは死ぬ判断して庇った」のよ?」
「……そうか…被害が及ぶのは周囲のみ、」
チェインの言葉で合点が行ったザップは、掴み上げていた少年から手を離して床に落とした。
「ゲート仕込んだ本体がおっ死ぬポカを堕落王が犯すはずもねえ」
「でもゲート発生の気配は間違いなくここからしてました。そのお兄さんが違うとすると……」
言いながら結理と、同じようにその可能性に辿りついた全員の視線が一つに集中する。
視線の先には斬れたビルの縁に佇む、白く小さい姿。
少年が連れていた音速猿がいる。
(お前かーーーーー!!!)
注目の的となっている音速猿は、何故注目されているのか分かっていないらしく、戸惑ったようにきょとんとしている。
「チェイン!!」
「了解!」
「結局お前の持ち込み企画だったな…!」
「すいませんごめんなさい知らなかったんです本当に!!」
クラウスの号令でチェインが即座に動いた。逃がさないよう、怖がらせないよう慎重に、音速猿に近づいていく。
だが音速猿の方は、その捕まえようとする行動を察したらしく、近づいてきた分だけ怯えた様子でじりじりと後退し、
「あ」
あと少しで手が届くといった所で、縁から飛ぶように逃げた。
「しまった!」
落ちるように逃げだした音速猿を追いかける形で、チェインも壁をひらりと飛び越える。
「待て猿ウウウウウウウウウウウ!!」
「……結理、もう大丈夫だ。君は召喚された半神の位置を捕捉してくれ給え。見つけ次第チェインと位置情報の交換を」
「了解しました。それと……」
指示に即座に頷き、結理は術を解除して立ち上がると、クラウスの血で赤く染まった手を見せて、やや躊躇いがちに続けた。
「『もらっても』いいですか?」
「ああ構わない。君も消費してしまっただろう」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げてから、結理は手についた赤を舐めとりながらチェインの後を追うように外へ向かって駆け出した。走りながら無駄に力が入りそうになる体を制御しつつ、空中に身を躍らせる。
(……あ、そういえば……)
落下しながら、ふと事務所の惨状を思い出す。盛大に切り裂かれた室内の調度品は、斬撃とその際に出た瓦礫のせいで粗方全滅していた。当然、クラウスが大事に育てている鉢植えも例外ではない。
「これは……どっかで血の雨が降るかなあ…?」
苦笑しつつ魔力を練り上げる。『八つ当たり』は自分の関知する所ではない。今は与えられた任務を全うするだけだ。
「『風術』!」
風を起こして落下速度を調節し、街灯の上にふわりと着地する。細く長く息を吐いて意識を集中させ、一つの方角をぴたりと見据えた。
「……見つけた」
小さく呟き、結理は街灯から飛び降りて走り出した。足は止めずに携帯を取り出して、慣れた操作で電話をかける。
相手は2コールで出た。
『はい』
「結理です。半神は暴れ回りながら混沌の角塔方面に向かってます。まだご機嫌斜めっぽいですねぇ……」
『分かった。猿の方は逆方向に向かってる。鉢合うようだったらまた連絡して。』
「了解です」
チェインとの長くない会話を終えて、走る速度を上げた。その間周囲の気配を探ることは忘れない。結理が探しているのは半神だけではない。この物騒で危険なゲームを仕組んだ主催者自身もだ。
(今日こそ見つけてとっ捕まえる…!)
「待ってろ堕落王…!!」
「うわ、きれーに真っ二つ……」
「大丈夫!?ウンコ猿!」
「チェインさんほんとブレないですね……」
この非常時でも変わらない呼称に苦笑を洩らしつつ、結理も周囲を見回しながら駆け出す。
「…ああ、大丈夫だ」
土煙が晴れる前に見つけたザップは、右手から血を流してはいるもののそれ以外に負傷はなさそうだった。
それを見た結理はほっと小さく息をつき、チェインは心底残念そうに舌打ちをする。
「……ケガ軽すぎ」
「てめえ本当に犯すぞ」
「あはは……でもやっぱ流石ですね。これならすぐ治せますよ」
「こんなかすり傷より旦那だ。アッチの方を探せ!」
「何でよ、アンタが生きてるなら彼が怪我するわけないじゃん」
「あ!ジョニー・ランディス(仮)!」
「…あ、そうか」
新人の名を騙った少年は、邪神の斬撃を避けられる風にはとても見えなかった。クラウスがすぐ側にいたのなら間違いなく彼を庇うだろう。
「…あーあ…やっぱり…」
その予想通り、クラウスは少年と一緒にいた。少年の方は無傷のようだったが、クラウスの方は負傷して倒れ込んでいる。
少年は自分を庇った理由が分からない様子で動揺しているが、そこに何故などない。強いて言うならば、少年がそこにいたからだ。
「っ!クラウスさん!」
遠目に負傷の具合を見た結理が顔色を変えて駆け寄った。傍らに膝をつき、真っ赤に染まった脇腹にそっと触れる。
「止血だけでもします」
返答を待たずに、結理はすっと小さく息を吸い込んだ。
「……『療』」
「おいコラ」
傷口に触れる手が淡い光を灯らせた一方で、ザップが低い声と一緒に少年の胸ぐらをつかんで持ち上げた。半神の片割れがこの事務所で出現したということは、必然的に疑いは彼の方に向く。
「やっぱりお前が差し金かこのガキ」
「あ、待ってザップさん!その人じゃないです!!」
「頭使いなさいよクソ猿」
治癒の術をかけながら結理が慌ててザップに声をかけ、次いで起き上がろうとするクラウスを支えているチェインも声を飛ばした。ザップが訝しげに振り向くのを見ながらチェインは続ける。
「ミスタークラウスが「このままでは死ぬ判断して庇った」のよ?」
「……そうか…被害が及ぶのは周囲のみ、」
チェインの言葉で合点が行ったザップは、掴み上げていた少年から手を離して床に落とした。
「ゲート仕込んだ本体がおっ死ぬポカを堕落王が犯すはずもねえ」
「でもゲート発生の気配は間違いなくここからしてました。そのお兄さんが違うとすると……」
言いながら結理と、同じようにその可能性に辿りついた全員の視線が一つに集中する。
視線の先には斬れたビルの縁に佇む、白く小さい姿。
少年が連れていた音速猿がいる。
(お前かーーーーー!!!)
注目の的となっている音速猿は、何故注目されているのか分かっていないらしく、戸惑ったようにきょとんとしている。
「チェイン!!」
「了解!」
「結局お前の持ち込み企画だったな…!」
「すいませんごめんなさい知らなかったんです本当に!!」
クラウスの号令でチェインが即座に動いた。逃がさないよう、怖がらせないよう慎重に、音速猿に近づいていく。
だが音速猿の方は、その捕まえようとする行動を察したらしく、近づいてきた分だけ怯えた様子でじりじりと後退し、
「あ」
あと少しで手が届くといった所で、縁から飛ぶように逃げた。
「しまった!」
落ちるように逃げだした音速猿を追いかける形で、チェインも壁をひらりと飛び越える。
「待て猿ウウウウウウウウウウウ!!」
「……結理、もう大丈夫だ。君は召喚された半神の位置を捕捉してくれ給え。見つけ次第チェインと位置情報の交換を」
「了解しました。それと……」
指示に即座に頷き、結理は術を解除して立ち上がると、クラウスの血で赤く染まった手を見せて、やや躊躇いがちに続けた。
「『もらっても』いいですか?」
「ああ構わない。君も消費してしまっただろう」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げてから、結理は手についた赤を舐めとりながらチェインの後を追うように外へ向かって駆け出した。走りながら無駄に力が入りそうになる体を制御しつつ、空中に身を躍らせる。
(……あ、そういえば……)
落下しながら、ふと事務所の惨状を思い出す。盛大に切り裂かれた室内の調度品は、斬撃とその際に出た瓦礫のせいで粗方全滅していた。当然、クラウスが大事に育てている鉢植えも例外ではない。
「これは……どっかで血の雨が降るかなあ…?」
苦笑しつつ魔力を練り上げる。『八つ当たり』は自分の関知する所ではない。今は与えられた任務を全うするだけだ。
「『風術』!」
風を起こして落下速度を調節し、街灯の上にふわりと着地する。細く長く息を吐いて意識を集中させ、一つの方角をぴたりと見据えた。
「……見つけた」
小さく呟き、結理は街灯から飛び降りて走り出した。足は止めずに携帯を取り出して、慣れた操作で電話をかける。
相手は2コールで出た。
『はい』
「結理です。半神は暴れ回りながら混沌の角塔方面に向かってます。まだご機嫌斜めっぽいですねぇ……」
『分かった。猿の方は逆方向に向かってる。鉢合うようだったらまた連絡して。』
「了解です」
チェインとの長くない会話を終えて、走る速度を上げた。その間周囲の気配を探ることは忘れない。結理が探しているのは半神だけではない。この物騒で危険なゲームを仕組んだ主催者自身もだ。
(今日こそ見つけてとっ捕まえる…!)
「待ってろ堕落王…!!」