異界都市日記8
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【斗流血法・カグツチ】
「え…?」
【刃身の百壱焔丸――三口】
キシャキシャという音のような声だったが、結理には何となく意味が伝わってきた。
(もしかして、技名…?それにあの刀身……)
考えている間にも技は紡がれる。
【穿ツ牙 七獄五劫】
糸を伝って燃え盛る炎が、下半身だけの血界の眷属を一気に焼き尽くした。
「すごい…!」
「ヒューッ!!…お見事!!」
「……いや…まだ動く。再生している」
こちらまで巻き込まんばかりの圧倒的な熱量に圧され、呆けた様子で呟いた結理と驚きの混じった歓声をあげるK.Kに、スティーブンが言い放った。彼の言う通り、血界の眷属は炎に包まれながらも尚動こうともがいている。
「構えろK.K、結理……!!もう数撃見舞うぞ…!!」
【斗流血法・シナトベ】
攻撃態勢を取ろうとした三人を遮るように、炎を放った者が更に術を紡ぐ。
【刃身の弐 空斬糸】
炎を放った者が手を捻ると、風が巻き起こる。
【龍搦め】
巻き起こった風に絡め取られた炎が勢いを増し、更に強く燃え盛った。
【天羽鞴】
巨大な火柱に包まれた血界の眷属がどうなっているかは見えないが、少なくともこの状態で再生と反撃を行うのは到底不可能な事だけは分かるほど、風と炎の威力は絶大だった。
「……伝説の…2重属性遣い…参ったな、本物中の本物じゃないか…」
「そんなにすごいんですか?」
「すごいなんてもんじゃない。異なる属性の血法を一人の人間が使い分けるなんて、本来なら不可能だ」
「それをあの人は……こんな威力で……」
呆然と呟くスティーブンに思わず尋ねると、即答が返ってきた。結理は徐々に収まってきている火柱を見つめながら、驚きと緊張が混じった面持ちで息をつく。
やがて、炎に焼かれていた血界の眷属が一つにまとまるように収縮し、丸い形を取って地面に落ちた。卵状の表面は触手のようなもので包まれていて、その間から開くいくつもの目が警戒するようにきょろきょろと周囲を見回している。
「あれは…?」
「…真胎蛋(ツェンタイダン)?」
「え…?つぇん……だ…?」
「いかにも」
聞き取れずに聞き返そうとした所で、聞き慣れた声が聞き慣れない抑揚と口調で入ってきた。
「文献でようやく知るレベルだろう腐れ小童どもめ。これが血界の眷属最終自閉形態じゃ。せいぜいその憐れな大きさの脳に刻み込んでおけ」
「は…?」
師匠と呼んだ者に持ち上げられた状態で不遜な物言いをするザップに、スティーブンとK.Kは遠慮なく眉を寄せて青筋を立て、結理も怪訝交じりの苛立ちに顔をしかめる。
矛先が完全に自分に向いていることに気付いたザップは、慌てて弁解の言葉を叫んだ。
「違うんすよ!!俺は通訳してるだけっす!!何ひとつ盛ってないっす…!!」
「……ザップさん、師匠ってゆうのは」
ひとまずと思って問いかけようとした結理だったが、それは指を突き付けられることで遮られた。ぱちくりと瞬きをしながら指を突き付けた相手を見ると、先程と同じ音のような声で何かを言い放つ。言葉は分からなかったが、ニュアンスは何となく感じ取れた。
「何故貴様のような人為らざる者がここにいる?」
相手が結理に抱いているのは、紛れもない敵意だ。
「何故って……わたしも非公式ですけど牙狩りの一人だからです」
「血界の眷属に連なる者が世迷言を……っておい待てよ!こいつは敵じゃねえって!いでででで!黙ってられっか!!」
(……ああ成程。そういう……)
理解ができると戸惑いは消えた。自身の血に対する敵意を肌でも感じたが、一歩も退かずにしっかりと相手を見据える。
「あの……確かにわたしには吸血鬼の血が混ざってます。それで警戒するのは勝手ですけど、わたしがそこのぶら下げてるお弟子さんの後輩で仲間っていうのも、血界の眷属と敵対してるのも変えようがない事実です。その辺は理解してもらえると……言葉が通じない方ではないですよね?」
若干緊張したものの、結理はきっぱりと言い切った。少女の物言いに、ザップがぞわりと全身を総毛立たせて顔を真っ青にした。その態度でザップの師匠とやらが相当恐ろしいタイプの人物だと確信を持ったが、自分の言葉を翻すつもりはない。
ただ、相手がわずかでも攻撃の動きを見せたら何が何でも逃げようとだけは心に決めておいた。喧嘩を売るような言い方をしてしまったが、絶対に勝てる相手ではない。
誰も何も言わない、痛いほどの沈黙が数秒程流れ、最初に動きを見せたのはザップの師匠だった。興味を失くしたように結理から視線を外したのが気配で感じ取れた。
「……まあいい。貴様如き半端者、この場で見逃した所で害はない。牙狩りに属しているとほざくのなら、何かが起こっても奴等が対処しよう」
「分かっていただけて何よりです」
その言葉に笑みを返してから、結理はいつの間にか強張っていた肩から力を抜いた。その直後に、後ろから包むように抱きすくめられる。
「!?K.Kさん…?」
首だけで振り返ると、K.Kは結理を抱きしめたまま長々とため息をつく。その隣ではスティーブンが呆れたような苦笑を浮かべながら、少女を見下ろしていた。
「もー…!勝てない相手に喧嘩売るんじゃないわよー……!!」
「君の怖いもの知らずには冷や冷やさせられるよ……」
「……あはは……すいません……」