異界都市日記8
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「っ?結理です…………了解しました、すぐ向かいます」
血界の眷属出現の一報が入ったのは、昼食を残すことなく食べ尽くした結理が追加をしようかデザートを買いに別の店に行こうか素直に事務所に戻ろうか迷っていた時だった。インドにて血界の眷属御用達の空間連結術式、血脈門の開放を確認し、その開放先がこのヘルサレムズ・ロットとのことだ。
『目標は半身欠損状態まで追い込むも、今なお交戦状態のまま移動中。断片情報のみだが確度は高い』
『何で断片情報なんすか?「牙狩り」本部からなんでしょ?』
『……最初のエンカウントはインド国軍グワーリヤル空軍基地。3時間前に封鎖された。中は屍喰らい(グール)だらけで手のつけられない状況だそうだ』
「それらしい気配を見つけました。フラットライアンディストリクト南です」
通信で告げ、結理はベスパの速度を上げた。遠目でも分かるほどの激戦の中心に『彼等』はいる。だがその二つの気配を感じ取りながら、思わず眉を寄せた。
(……人間?でも、気配が普通じゃない……)
血界の眷属と交戦中の誰かは、ただの人間とは違う気配を纏っていた。空軍基地内を屍喰らいで埋め尽くすような高位存在と一人で渡り合っているのだから、勿論普通の人間あるはずがないのだが、それにしても異質だ。
考えている間に気配は移動する。結理はベスパから下りると走ってその中心へと向かいかけるが、
「っ!」
瓦礫の雨がポリスーツと共に降ってきた。避けようと飛び退きかけ、周囲に何組もの家族連れがいるのに気付くとその場に留まったまま魔力を練り上げる。
「『風術』!!と……『血術―ブラッド・クラフト―』……『壁―ウォール―』!!」
突風でほんの僅かだけ落下が緩んだ隙に、両手を打ちつけて広げて術を展開する。広範囲に張られた赤い壁は瓦礫の破片から周囲の者達を守り、更に同時に発動させた念動力でポリスーツと大きな瓦礫を弾き、何もない地面に落とした。
(ご飯食べたばっかでよかった…!)
三つの術を立て続けに同時に発動させるなど、空腹に近い状態だったら即座に貧血になっていた恐れがある。内心安堵しつつも結理は術を解除して、今度こそ走り出した。
念の為に血晶石を一つかじりながら気配を辿ってパーキッソスビルに向かうと、周辺が氷で覆われていた。
「まーたーあーなーたーとーふーたーりー!?」
ついでに恐ろしく不服そうなK.Kの声が聞こえてきたので、現場に到着しているのはまだ彼女とスティーブンだけのようだと判断して、苦笑しつつ氷山を飛び越えると予想した通りの男女の姿が見えた。
その向こうでは、激闘を繰り広げていたであろう二体が対峙している。集中するまでもなく感じ取れる気配を持つ血界の眷属に向かって、結理は地を蹴った。
「帽子とコートの方です!!」
「「!?」」
どちらが敵なのか判断しかねている様子のスティーブンとK.Kに告げ、血界の眷属に向かっていきながら術を紡ぐ。
「『血術』……」
同時にスティーブンとK.Kも帽子とコートを着込んでいる方に向き直ったが、血界の眷属と対峙していたポンチョのような布を纏っていた者は、何故か明後日の方向へ飛び立った。
「は?!」
「え?!」
「っ!?『爪―クロウ―』!」
つい今まで交戦していた敵をいきなり放置したことに驚きながらも、三人は目の前に集中した。殺意の乗った刃を結理の刃爪が弾き、その隙をついてスティーブンとK.Kの放った技が血界の眷属の動きを止め、拘束する。
「ぎゃあああああああああ!!!」
その間に、血界の眷属と対峙していた誰かは、全力で逃走姿勢を取っていたザップに真っ直ぐに向かって行っていた。思い切りロックオンされたザップは、立ち向かうでもなく恐怖の表情で悲鳴を上げる。
「ザップさん!?」
「何だ!?結理!血界の眷属はこっちなんだろう!?」
「間違いないです!え……ええ!?何なんですかあの人……人?」
「どういう事だ!?」
現場の戸惑いの声に対する回答は、どう見ても襲われているようにしか見えないザップから投げられた。
「カンベンして下さい師匠オオオオオオオオ!」
「……ししょお?」
予想していなかった言葉に結理が思わず素っ頓狂な声を上げた直後だった。
バキャ!っと大きな音を立てて、血界の眷属が氷に拘束された上部分を切り離した。自由になった下半身は攻撃器官を再生させながら、反撃の態勢に入ろうとしている。
「っ!しまった…!」
即座に構えを取るが、それよりも早く三本の刃が突き刺さった。その血刃を操っているのは最初に血界の眷属と対峙していて、ザップが師匠と呼んだ者だ。