異界都市日記8
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「パーティパック一つと、コールスローラージで一つと、ビスケット二つ。あとバニラシェイクLで一つとホットココアSで一つ。イートインで」
「はーいかしこまりました!」
少女が頼む量ではない注文を、店員は顔色一つ変えずに笑顔で応じた。剣呑も物騒も理不尽も超常現象もごちゃ混ぜであることが日常であるこのヘルサレムズ・ロットでは、少女がフライドチキンを山盛りで平らげようが異界存在が骨まで食べようが人類の容姿をした誰かが包み紙ごと飲み込もうがお構いなしで、妙な顔をするのは観光客か、超常現象に慣れることのない数少ない住人ぐらいだ。
この街のこういった所が結理は好きだった。見た目通りに扱われることは多々あるしそれ故に侮られることもあるが、少なくとも異端視されることはない。良くも悪くも、この街は自由だ。
「いったっだっきまーす!!」
そんなわけで結理は、大量の昼食を周囲を気にすることなく満面の笑顔で食べ始めた。昼時の店内は賑わっていて、長蛇の列とまではいかないがレジもフル稼働する程度には列ができている。そんな喧騒を横目に次々とフライドチキンを胃に収めていると、よく知る姿と気配を視界の端に捉えた。
(……あ、ザップさんだ……っ!)
「……ぶっ…!!?」
箸休めのビスケットにかぶりつきながら顔を上げた結理は、よく知る男の見慣れない姿を見て、思わず口に含んだものを噴き出しそうになって慌てて手で覆った。
(何あのお腹!?……え!?ちょっと前まで何ともなかったじゃん!ていうかザップさんから見た目の良さ抜いたら何残るの!!?)
何故か中年太りのように腹の出た先輩を見ながら胸中で色々、中々失礼なことも考えている間に、結理が席にいることに気付いていないザップは何かを注文している。結理の注文も笑顔で受けていたレジ係の女性店員(確かアンジェリカと名札には書いてあった気がする)は最初は営業スマイルで聞いていたが、次第に笑顔が引きつっていき、最後には店長らしき男とレジを交代していた。
それだけで、結理は大体の事情を察した。
(あー……成程。あのお姉さんか……うん、見なかったことにしよう)
結論を出して、食事を再開した。ケンダッジーは今日も変わらず美味しい。