異界都市日記6.5
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今日のヘルサレムズ・ロットの気候は穏やかだった。霧の間から差し込む陽光が、ライブラ事務所にある温室の中も明るく照らしている。
そんな温室内の一角で、クラウスと結理は並んで一つのプランターを眺めていた。
「うわあ…!綺麗に咲きましたねぇ…!!」
「うむ。結理が作ってくれた肥料のおかげだ」
「母と祖母の受け売りだったんですけど、こっちの植物相手でも有効でよかったです。祖母が二人ともすごいこの手の詳しかったんですよ。魔術的アプローチが多かったんで、たまにHL(ここ)の改悪種みたいなのが出来上がってましたけど」
思い出しながら苦笑していると、クラウスが自分を見ていることに気づいた。結理は怪訝そうに首を傾げてクラウスに問いかける。
「……わたし、何か変なこと言いました?」
「いや……最近よく、御家族の話題を口にしてくれると思ってね」
「……そうですか?」
「ああ。以前も話してくれてはいたが、趣味の話を自分からしてくれるようになったのは最近だ」
「そう、なんですか……ふふっ……」
「?」
自分でも気付いていなかったことを指摘され、結理#は驚いたように何度か瞬きをしてから、嬉しさを隠し切れないといった様子で笑みをこぼした。今度はクラウスが怪訝そうな表情になり、それに気付いた結理は笑みはそのままで答える。
「今まで、家族のことを思い出すと悲しくなったり辛くなることが多かったんです。確かに今でも少し辛いけど、それだけじゃなくて、大事な、誇れる思い出でもあるんだって、気付いたんです」
喪ってしまったことは今でも辛く苦しい過去だ。けれど、彼等との記憶は決してそれだけではない。
「でも、考えたら当たり前なんですよね。だって、大好きな家族のことですもん。大好きな人達に知ってほしいし、誇りたいです」
「……ならば是非、君の御家族のことをもっと聞かせてくれないだろうか?」
「はい!あ、早速一個。この前作った肥料あるじゃないですか?あれ母方の祖母の受け売りだったんですけど、できた過程がとんでもなかったんですよ!最初―」
少女は晴れやかに、遠い日の思い出を語る。
宝物を見せるような、花が咲いたようなその笑顔に、陰りはなかった。
異界都市日記6.5 了
2024年8月11日 再掲