異界都市日記6.5
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「っぎゃああああああああっ!!」
悲鳴を上げながら膝をついた男の顔が、また歪んだそれに戻った。男は歪んだ表情を結理に向け、信じられないといった風に力なく首を振る。
「馬鹿な……認めない!僕は認めない!!君は……僕の手で殺すんだ!!!」
「っ!?」
呻き声に呼応するように男の姿が先程とは違う意味で変わった。体の内側から膨らむように蠢きながら質量が増し、体全体が歪んでいく。
そうして異形の存在に成り果てた男は、結理に向かって彼女の身長近くある剛腕を振り下した。
「モウ綺麗ジャなくていい…!!グチャグチャに潰してヤルァァァァっ!!!」
「いい加減に……っ……」
振るわれた腕を飛び退いてかわした結理は、反撃しようと術を紡ぎかけたが、突然動きを止めて表情を凍てつかせた。
「っ!あ……っ!」
次の瞬間、腕を中心に少女の体の内側から爆ぜるように血が噴き出した。全身に激痛が走り、脱力感に膝をつく。
(しまった…!時間が…!)
強過ぎる力を使った代償が最悪のタイミングで訪れた。歪んで表情が分からないはずの顔が勝ち誇ったように見える。倒れようとする体を留まらせ、歯を食いしばって異形の男を睨むが、術を紡ぐどころか腕を上げることすらできない。
(お願い……あと一撃…!!)
祈るような気持ちで動かない腕を持ち上げようと力を込めるが、異形の腕が振り下ろされる方が早い。一瞬後に叩き潰される未来が嫌になるほど見えた。
「く…!!」
それでも結理は、顔を背けもうつむきもしなかった。例え叩き潰されようと、心まで折られる訳にはいかない、折れてたまるかという意思を乗せて、最後まで相手を睨みつけた。
「斗流血法」
そんな結理の横を赤い殺気が通り過ぎたのは、今正に剛腕が振り下ろされるという直前だった。
「刃身の壱 焔丸」
振るわれた赤い刃は振り上げていた異形の剛腕を斬り飛ばし、赤い糸へと変化して巻きつく。
「七獄」
「―――っ!?」
巻きついた糸が燃え上がり、切り離された腕を焼き尽くした。それでようやく自分が攻撃を受けたことに気付いたらしい異形は、痛みと驚愕に唸りながら残った腕を振り上げる。
「954ブラッドバレットアーツ―血弾格闘技―」
そんな異形の腕に、空を裂く音と共に穴が開いた。
「Electrigger 1.25GW」
「……え…?」
穿たれた穴から雷が迸り、異形の動きが止まる。なす術もなく叩き潰される覚悟をしていた結理は、異形が次々と攻撃される光景を呆然と見ていた。
「エスメラルダ式血凍道」
思わず力が抜けて引っ繰り返りそうになった体を誰かが受け止めた時には、周囲の気温が一気に下がっていた。
「ランサデルセロアブソルート―絶対零度の槍―」
呆然としたままの結理の横を誰かが駆け抜け、全身を凍てつかせた異形に向かって行く。
「ブレングリード流血闘術 111式」
愕然とした表情で氷の彫像と化した異形に、止めの一撃が繰り出される。
「十字型殲滅槍―クロイツヴェルニクトランツェ―」
砕かれた異形の男が、悲鳴も上げずに文字通り崩れ落ちた。それを為した者達は、標的が動かないことを確認することもなく即座に振り返る。
「「「結理!!」」」
「ユーリ!!」
「…………」
駆け寄ってきた彼等を、結理は何も言わずにただただ見つめていることしかできなかった。あまりにも目まぐるしく変わった状況に、頭がすぐに追いつけなかった為だ。
「やだ酷い怪我!ああもう!あのくそったれもっと蜂の巣にしてやればよかった!!」
「ちょ、姐さん!そんな動かしちゃマズイっすよ!」
「まったく……今回の無茶は一際だな」
「とにかく傷の手当てを…!」
「ユーリ、ユーリ!俺らの声聞こえてる?!」
「……あ……うん、はい……」
自分が痛みを抱えているように泣きそうな顔のK.Kが両肩を掴み、それを見たザップが狼狽えた様子を見せ、呆れた顔を見せながら心配の色を隠し切れていないスティーブンがため息をつき、全身から心配のオーラを発しているクラウスが促すように声をかける。
最後に自分を抱き支えてくれているレオに慌てた様子で問いかけられた結理は、どうにか頷いた。
色々と思う事、言うべきことが次々に脳内で浮かんでは消えていったが、ひとまずできたことは、
「すいません……ちょっと……限界です……」
『!!?』
意識を手放すことだけだった。