異界都市日記6.5
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「なあ気付いてるかユーリ!」
男女の攻撃をさばき続ける結理に、術者が告げる。
「攻撃パターンも、次の動きも、全部読めるだろ!?偽者じゃあり得ない動きなのが分かるかい?」
「何を……」
「お前は『俺達』に勝てたことがあったか!?」
「っ!?」
放たれた言葉ではなく、言葉を放った聞き覚えのある声に、結理の動きが一瞬鈍った。男女はその隙を見逃さず、同時に攻撃を仕掛ける。咄嗟に身を捻って距離を取るが、かわし切れなかった刃が腕をかすめ、頬に張られていたガーゼを引き剥がした。
「そうそうその顔だ!ああたまんない…!」
「『雷術』!!」
声の戻った術者に向かって結理は雷を放った。流れ弾が男女に命中して動きが止まり、恍惚とした笑みの声で息をつく術者は笑いながら飛び退いて雷をかわす。
「……今の声……」
「そうだ」
斬られた腕を押さえて唸る結理に返しながら、術者はフードを脱いだ。その下の顔は人類の男のようだったが、薬の副作用なのか文字通りに歪んでいて、脈打つように蠢いている。
その歪んだ顔に、ノイズのようなものが走る。
「君も薄々感じているだろ?自身の記憶から作られているということの意味を」
ノイズが大きくなるにつれて術者の顔が、声が変わっていく。
「お前の記憶の中の『俺』は、こいつらは、どれだけ強かった?」
「……!」
テレビの画面が砂嵐から切り替わるように、術者の顔が別人の顔を形作った。その顔が誰なのかを認識した結理は表情を凍てつかせる。集中が途切れ、腕にまとっていた赤の装甲の形が崩れ去った。
「なあ……結理」
「……じいちゃん……」
一見すると青年に見える男が、記憶の中の姿そのままで、不敵な笑みを浮かべる。時間が凍りついたような沈黙が流れる中、結理は最初に母の幻影を見せられた時と同じように、ただ立ち尽くして凝視することしかできなかった。
「……ちっ……邪魔が来たな」
凍てついた沈黙を破って、複数の足音が近づいてきた。術者は面倒そうに表情をしかめて元の歪んだ顔へと戻り、軽く腕を振るう。その動作に呼応したように現れたものが真横を通り過ぎても、結理は動くことができなかった。
「……続きだ」
雷の攻撃から回復した男女が身を起こし、結理に襲いかかった。反射的に攻撃を避けるが足元はどこか覚束なく、かわしきれずにいくつもの裂傷が刻まれていく。
「さっき君は言ったな?それは偽者だと。そうだ。確かにその二人も今僕が『被って』みせたのも本当に生きているわけじゃない。けれどね?君の記憶から作り出された彼等は本物と何一つ変わらないんだよ!言っている意味は分かるかい?君はどうあがいても勝てないんだよ!!君の記憶の中にある!!誰よりも強かった君の家族にな!!!」
同時に放たれた一撃を受け切れず、小柄な体が地面を転がった。
「ぅ……」
「それだけじゃないよユーリ!本物と何一つ変わらない、大好きな家族を君は切れるかい?その刃で引き裂くなんてこと、君には出来ないだろう!!?」
「……!」
立ち上がろうとするが、術者から突き付けられた言葉が重い枷のようにまとわりついて力が入らない。
(……勝てない……)
気付いてしまった。気付かされてしまった。戦うことの無意味さを。例え作り物であっても、自分の刃は届かない。
(わたしが知ってるお母さんと、お父さんと、じいちゃんに……わたしが……勝てるわけがない……)
「そうだその顔だ!!愛する家族の手にかけられて!恐怖と絶望に塗れて無力に死んで行くんだ!それで僕のユーリが完成する!!!」
視界が揺らぐ。耳障りな笑い声が頭の中で反響している。暗闇に覆われているような感覚が、何もかもを鎖していく。
自分をつけ回していた男が望んだ通り、この状況に恐怖し、絶望してしまっている。戦うことも立ち上がることもできず、抵抗の意思も削り取られてしまった。
(わたしは……もう……)