異界都市日記6.5
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―結理、―
優しく温かい声が自分を呼んだ。
―結理―
声の持ち主は愛おしげに自分を見ている。
―結理……どうして生きているの?―
告げられた言葉に返すことができない。
―どうしてあなたも死ななかったの?―
逃げ出すこともできない。
―ねえ結理……―
優しい笑顔のまま振るわれた赤い刃爪が、何の躊躇いもなく少女を引き裂いた。
―死んでちょうだい―
「―――――っ!!!」
弾かれたように目を見開いて、結理は飛び起きた。全力で走った後のように肩で息をしながら、震える手で毛布を握り締める。
(……大丈夫……大丈夫……)
今見た夢と、意識を失う前の記憶を頭の中で巡らせて、呼吸を整える。ただの夢だと言い聞かせ、乱れ切った心が凪ぐまで深呼吸を繰り返し、最後に両手で頬を叩いてから、ゆっくりと顔を上げた。
(……みんなが生きてるはずがない。だとしたらあれは……でもどうやって…?)
考えを巡らせるが、情報が少なすぎる。ひとまずベッドから下りて軽く伸びをして、ようやくそこが事務所の仮眠室であることに気づいた。かけてあったコートを取って眺めながら、結理は自らに問いかける。
再び彼等と対峙した時に、自分は戦えるのか?
「戦う……戦わなきゃいけない。あれは…………ニセモノだ」
問いに声に出して即答し、結理は羽織ったコートの襟元を一度力強く握り締めてから仮眠室を出た。ひとまず執務室に顔を出して、仲間達の前で取り乱したことと、心配をさせてしまったことを詫びなければならない。それからこの件のことを整理しようと決めて、執務室に続く扉に手をかけた。
「その幽霊が目撃された場所では、死体や廃人化した人間も発見されています。」
「……っ……」
だが、中から聞こえてきた言葉に手を止めた。
「辛うじて会話が成立する何人かにコンタクトを取った所、フードを目深にかぶった誰かに襲われ、その後幽霊に出くわしたと全員が証言していたそうです」
「何故幽霊と断言できるんだ?」
「その姿を現した相手が既に死亡している者だったそうです。家族であったり友人であったりと差はありますが、一年以上前に亡くなっている人物、という点で全員が共通しています。そういった経緯から、諜報部でも便宜上幽霊という呼称を用いることになりました」
「……繋がったな」
「結理の両親すね」
「先日結理を襲った犯人が何らかの方法……いや、この場合は能力か。それを用いて彼女の両親の姿を形作って襲わせたんだろう」
聞き終わる頃には、結理は踵を返していた。心臓の辺りをコートごと握り締め、しっかりと足を踏みしめて駆け出した。
「犯人の目的ははっきりしないが、結理を殺そうとしているのは間違いない。だとしたら、そいつと彼女を引き合わせるのは危険だ」
「っ?」
「どうしたザップ?」
「今足音しませんでした?」
問いに答えながら、ザップは音が聞こえた扉を開けた。そこは仮眠室のある廊下に繋がっていて、中の様子を見るなり顔色を変えてドアの向こうへバタバタと駆け出した。他のメンバーも何事かと彼の後を追い、辿り着いた場所を見て気付いてしまった。
開け放たれたドアの向こう、仮眠室の窓が開いている。
そして、中で寝かされていたはずの少女の姿がなかった。
「今の話聞いてやがったのかあいつ…!!」
「チェイン!すぐに結理を追跡、捕捉するんだ。」
「了解」
「レオナルド君、先日結理を襲った者の追跡は出来るかね?」
「やってみます!」
「ザップはレオナルド君と共に追跡を。我々は結理を追う」