異界都市日記6.5
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担ぎ上げられた状態で現場から離れている間も、事務所に着いて顔の傷を手当てしてもらっている間も、結理は一言も喋ることはなかった。代わりにザップが、謎の男女に襲われたこと、その男女が結理が扱うものと同じ『血術』らしき技を使ったこと、結理が彼等を父と母と呼んだこと、そしてその二人が彼女に殺意を向けていたことを簡潔に説明した。
「ちょっと待て。結理の家族は死んだと言っていなかったか?」
「けどこいつが呼んだんすよ。連中も結理を知ってる感じだったし」
「結理、本当なのかい?」
「…………」
「……結理、辛いかもしれないが教えて欲しい。君やザップに襲いかかったのは、君の御両親なのか?」
「…………両親、だと思います」
促され、ソファに浅く座っている結理はうつむいたまま小さな声で答えた。顔色は貧血を起こしている時のように真っ青で、膝の上で緩く握られている手が震えていた。
「顔も、声も、技も……全部、同じでした……でも……いるはずがないんです……だって……あの時みんな……」
「生きてたってことじゃねえのか?」
「あり得ないんですよ!!!」
問われた結理は悲鳴に近い声で叫び返しながら立ち上がった。全員が驚いているのも目に入っていない様子で頭を抱え、掠れた声で続ける。
「あり得ないんですよ…!生きてるわけないんです!だって……だって……っ…!」
荒い呼吸が不規則になっていき、結理は苦しげに表情を歪めて膝から崩れ落ちた。
「結理!」
「ユーリ!!」
「……何で……!!」
うわ言のように呟いたきり意識を失い、受け止められた腕に体重を預ける少女は、悲痛に表情を歪めたままだった。
「……あんなユーリ、初めて見ました」
「僕等もだよ」
気を失った少女が運ばれて行った扉を見つめながらぽつりと呟いたレオに、スティーブンが静かに返した。いつでも明るい表情を見せる結理が、あんなにも痛ましい様子で取り乱した姿は、今まで誰も見たことがない。
「許せないわね」
怒りと苛立ちを隠さず、K.Kが唸るように吐き捨てる。
「ニセモノかホンモノか知らないけど、親が自分の子を殺そうとするなんて最低よ」
「その連中が何者であろうとも、あの子をああまで傷つけた罪は重い」
室内の空気がピリピリと音がしそうなほど軋む。普段ならその殺気のような空気に気後れするレオですら、険しい表情で拳を握っていた。
「我々を敵に回したことを、存分に後悔させてやる」
断定の形で放たれた言葉は、その場の総意だった。