異界都市日記6.5
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「幽霊?」
「いや、信じられないかもしれないんですけど本当なんです!!わたしも探知できない気配のない人に後ろから羽交い締めにされたんです!!もう幽霊としか言いようがないんですよ!!」
「僕も見ました!ユーリの後ろにいきなり現れた半透明の人が、ユーリの事捕まえたと思ったら消えたんすよ!」
身振り手振りも交えて結理とレオが見たものを報告すると、それを聞いたスティーブンは若干疑わしげに眉を寄せた。
「幻術ではなく?」
「術の気配がしなかったんですよ!本当に全く、何も!」
「僕も術式の類は見えなかったっす」
「まあ……何にしろ付きまとわれて襲われたという事態は放置できないな。一応諜報部に調査をさせてみよう。結果が出るまでお嬢さんは事務所で待機。外出時の単独行動も禁止だ。それでいいかい?クラウス」
「ああ。結理」
「はい」
確認の問いにクラウスは頷き、少女を呼んだ。呼ばれた結理は怪訝そうにしながらもすぐに返事をする。
「ここ数日尾行されていたことを、どうして黙っていたのだ?」
「え?いや、動きが思い切り素人だったから、わたし一人でも問題なく対処できると思いまして……ああでも!ここ来る時はちゃんっと撒いてきてましたから!そこは抜かりないです!」
「そうではない」
「?」
「君が強いことは私も分かっている。だが君はレディで、周囲から見れば子供だ。その容姿は君が思っている以上に狙われやすい。君にとっては些細なことかもしれないが、こういったことは隠さずに伝えてほしい」
「……は、はい……すいません」
静かに、だがどこか有無を言わせない響きのある言葉に、結理は戸惑った表情を見せながらもしっかりと頷いた。少女が表情を曇らせたことに気付いたクラウスは、若干慌てた様子で続ける。
「いや、その……責めている訳ではなく、結理を心配しての言葉で……」
「っ!あ、だ、大丈夫です分かってます!」
その様子に今度は結理が慌てて言い返して、はにかんだように苦笑する。
「今度からは気をつけます……ありがとうございます。クラウスさん」
それから数日は、表面上は平穏な時が流れていた。襲撃以降付きまとっていた気配はなくなっているものの、結理は指示の通り不用意に出歩くことは避けて過ごしている。
……と、いうよりは、執務室にほとんど缶詰め状態になっていた。
「何でこんなに書類溜まってるんですかぁ…!!?」
「好きで溜めたわけじゃないよ。ここ数週間何かとバタバタしてて」
泣きそうな顔をしながら書類処理をしていく結理の隣では、スティーブンが顔も上げず手も止めずに、淡々と少女の泣き言に答えている。徹夜こそしていないが、ここ数日は二人ともほとんど事務所を出ていない。
「うっわ……ザップさんまたこんな古文書みたいな報告書を…!!」
「それがなければもう少し早く片付けられるんだけどね……」
「……っ……噂をすればですよ」
ため息をついた結理が書類を処理済みの箱に入れると同時に、出入り口の扉が乱暴に開いた。入ってきたザップの姿を見た結理は驚きに目を丸くするが、当の本人は構わずにずかずかと少女の目の前まで来ると、遠慮なしに顎を掴んで顔を上げさせた。
「うぎゅっ!!?」
「……やっぱ似てんな」
「何がですか?あといい加減まともな報告書書けるようになってください」
「ああまったくだ。手直しする方の身にもなって……酷い怪我だな」
「掠り傷ですよ」
ようやく顔を上げたスティーブンが、そこかしこに傷を負っているザップを見て驚いた様子で尋ねる。ザップは結理から離れると、頬の血を乱暴に拭いながらソファにどっかり腰掛けて答えた。
「知らねえ女に絡まれたんす。黒髪に緑の目の、えらい美人だって思ってたらいきなり襲いかかってきて。一太刀浴びせたら逃げたが一体何だったんだか……」
「それとお嬢さんの顔を観察するのと、どう関係あるんだ?」
「そいつ、顔が結理に似てた上に、こいつとよく似た血法使ってきやがったんすよ」
「結理に?だが彼女の血法は」
「ザップさん!!!」
「!?」
顔をしかめてため息をつくザップに、結理は掴みかかっていた。その表情と目は真剣を通り越して殺気立っているくらいで、突然の剣幕にザップは驚いた様子で少女を見上げ、スティーブンも目を丸くして少女を見る。
「わたしに似た『血術』使いの女の人、どこで見たんですか?」
「はあ?何いきなり」
「どこで見たんですか!!?」
「……アロルドダイナーの裏手の路地だよ。あ!オイ結理!!」
「結理待つんだ!」
聞くなり結理は、制止の声も聞かずに窓から飛び出した。ただごとでない少女の雰囲気に、ザップとスティーブンは表情を陰らせる。
「何なんすか?あいつ……」
「分からないが、普通じゃないことは確かだな。ザップ、負傷してるとこ悪いが結理を追いかけてくれ」
「ウッス」