異界都市日記7
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「……うーん……あいたたた…!」
久しぶりに自分のトレードマークでもあるサマーコートに袖を通して、結理は大きく伸びをした。その拍子に体のあちこちが痛みを訴えて、顔をしかめながら体を縮こませる。
数週間前、とある事件の際に重傷を負ってしまい、長期の入院を余儀なくされてしまった。まともに歩き回れるようになったのが一週間前で、まだ傷はいくつか残っているもののようやく退院の許可が下りてくれて、今日はその退院の日だ。
ライブラの仲間達が入れ替わり立ち替わりに見舞いに来てくれたが、外に出られないのは退屈極まりなく、それからもようやく解放されて上機嫌に少ない荷物をまとめていると、病室の扉がノックされた。
「はーいどうぞー」
元気良く返事をすると扉が開き、訪問者が顔をのぞかせた。
「やあお嬢さん、退院おめでとう。迎えに来たよ」
「スティーブンさん!って……あれ?」
相手の姿を見てぱっと表情を輝かせた結理だったが、言葉に引っかかりを覚えて怪訝そうに首を傾げた。
「ギルベルトさんが迎えに来てくれるって聞いてたんですけど…何かあったんですか?」
「そのギルベルトさんなんだけどね……」
「?」
どこか困ったような苦笑を漏らすスティーブンから話を聞いた結理は、
「ぎ、ギルベルトさん!!!」
実際にその姿を目の当たりにして改めて悲鳴を上げた。
「退院おめでとうございます結理さん。迎えに行けなくて申し訳うっ!」
「あーあー」
「あーあーあー」
普段から巻いている包帯に加え、コルセットというオプションが追加されているギルベルトが、いつものように穏やかな口調で結理に頭を下げようとした瞬間にぐきりと腰を曲げた。それを側にいたザップとレオが慌てて支える。
「あの、背骨痛めたって聞いたんですけど、大丈夫……じゃないですよね?どう見ても!」
「いえいえ、御心配には及びませんよ」
「なあ結理、これ治してやれねえのか?」
「切り傷擦り傷なら多少大きくてもいけますけど、捻挫系は治せないです。てゆうか、今まだ治癒術使えなくて…ごめんなさい…あ!代わりじゃないけど、手伝えることがあったら手伝わせてください!」
「そちらも大丈夫ですよ?ラインヘルツ家の方からヘルプの人材が派遣されてくる予定ですので」
「う……そうですか……」
「お気持ちだけ頂きます。ありがとうございます、結理さん」
(やっぱギルベルトさんには敵わないなぁ……)
気遣ったつもりが逆に気遣われるように優しく笑いかけられ、結理は苦笑するしかなかった。
「フィリップ・レノールです!どうぞ宜しく!」
(何か超声デカイ人来た…!!スゴイ圧の人来た…!!)
(張り切った人だなぁ……)
そうして派遣されてきた人物は、執務室どころか事務所中に響きそうな大声で挨拶をし、びしりと礼をした。そんな、青年と表現しても差し支えないだろうフィリップを眺めながら、レオと結理は胸中で感想を漏らす。
フィリップはギルベルトの補佐という形に入るらしいが、当の本人はやる気満々といった風に全ての業務を任せて欲しいと言い切った。
「キャスリーンメイド長はそのつもりで私を派遣されました!!その為のC・Bです!!」
「声でけえなー」
「コンバット・バトラーって……戦うんですか?」
「ええ、必要とあらば!!」
「はあ……」
(これは……)
何となく、結理の中で予感のようなものがよぎったが、それは言葉には出さなかった。