異界都市日記6
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うへえ……すごいことになっちゃったね……」
「ザップさんとっ捕まえるだけじゃ済まない事態だよ、これ」
「でもほんと、何考えてんだろうザップさん……あ、グレゴールさーん!!」
「ん?おおユーリ!お疲れさん」
向かう方向に知った顔を見つけた結理が手を振ると、相手も気付いて瓶を持った方の手を軽く上げた。リング上ではかなりひどいダメージを受けたように見えたグレゴールだったが、腕のギプス以外に大きな負傷はないように見えた。
「グレゴールさんもお疲れ様です。災難でしたね。せっかくいい試合になりそうだったのに」
「そんな日もあるさ。ん?君は確か…ミスタ・クラウスと一緒に居た…」
「わたしの同僚のレオ君です」
「はい。えへへ…」
紹介されたレオは何と返していいか分からず、愛想笑いのようなものを浮かべてから、ギプスに覆われたグレゴールの腕に視線を移す。
「あの……大丈夫なんすか?」
「これか?ああ…まあね。腕のいい医者がいるんだ」
(どんなレベルだ…)
「……!?同僚ってことは、ユーリも君もザップの知り合いか」
「その口調…!!やっぱあの人一枚噛んでますね!?」
「グレゴールさん何か知ってるんですか!?」
「う、や…あーそうかあーしまったスマンスマン」
出てきた名前にレオと結理が反応すると、事情を知っているらしいグレゴールは気まずげに二人から視線を逸らした。
「まあ色々あるが心配には及ばないよ。ミスタ・クラウスは十分に頑強だし。腕のいい医者も居るからな」
「…………そうですか…」
「あら、納得するのね」
「グレゴールさん、ザップさんどこにいるか知りませんか?」
「アテはあるがこの先は関係者以外立ち入り禁止だ。君はここにいること自体が特例だから、これ以上は認めちゃくれないだろうな」
「じゃあ、試合が終わるまで動けないってことか…それはしょうがない!もうクラウスさんの試合を見守るしかないですね!仕方がない!!」
「言ってることと顔が一致してないぞ」
キラキラした満面の笑顔でリングに視線を移した結理に、レオは呆れかえった様子でツッコミを入れた。聞いちゃいないことは分かっていたが、声に出さずにはいられなかった。
結理も、他の観客も皆リングにくぎ付けで、これから始まる最高潮の期待と興奮で満ち溢れていた。
「…しかし…何でみんな、わざわざここまで来て血を見ようとするんすか」
それはレオにはいまいちピンとこない感覚だった。
「そうでなくたって、ヘルサレムズ・ロットじゃ毎日どこかで物騒なことが起こってるのに…」
ぼやくように呟いたレオを、グレゴールが見つめた。視線に気付いたレオが「…違いますか」と尋ねると、グレゴールは「いや、全くだな」と即答する。
「一歩出れば引き金一つで相手を致命傷にでき、ボタン一押しで何人もまとめて爆散させられる。世界はまこと効率のいい暴力のオンパレードだ」
リング上ではようやく説得に応じたらしく、クラウスが次の対戦相手と対峙していた。
「でも、石斧で殴り合い、剣で斬り合い、銃で撃ち合い、魔術で呪いあい、ミサイルで狙いあうようになっても何故か、ひとつも進化できなくて居座る渇望がある」
素手
一対一
種族を超えてこの二つのルールにしがみつく大馬鹿ども
「そうだよ。血を見たいんじゃない。有史以前から男達には不治の病がかかってるのさ」
ゴングが鳴り、再び場内が沸き上がった。
「「ステゴロ最強」という病気にな」
どこか楽しげに話していたグレゴールは、笑みを苦笑に変えて結理に視線を送った。真剣な表情の少女は気付いた様子も全くなく、両拳を握り締めて瞬き一つせずにリングを見つめている。恐らく、今の彼女の頭の中にはザップを探すという目的も、非合法な闘技ショーにこっそり参加していた後ろめたさも、全て消え去ってしまっているのだろう。
「ごくごく稀に、女でこの病にかかる奴もいるけどね」
笑いながら、グレゴールは瓶を傾けた。
上がっても上がってもまだ足りないぐらいの熱が場内を包んでいる。息をするのも忘れそうな興奮と、心臓を直接叩かれているような緊張を誰もが感じていた。
リングの外で観戦している者達の全員が思っていた。
今日は大当たりだ。今日という日にこの場いられて良かった。と……
次々と対戦相手を叩き伏せていくクラウスも、いつの間にか場内の熱に飲まれたようにこの状況を享受して乗り気になっていた。
「……うあ…!!」
「ユーリ?どうしたの?」
「わたし……わたしもリングに立ちたい…!殴り合いたい…!マジ……あんなノリッノリのクラウスさんと殴り合えるあいつら……マジうらやましい…!!わた……わたし……わたしも男だったら……!!!」
「落ち着け」
突然崩れ落ちるように膝をついた結理に尋ねると、熱に浮かされたように息の荒い返答が来た。興奮が限界を超えてしまったらしい。
素直でくるくる表情を変えるものの、自分を見失うことの少ない少女がこれだけトランス状態になってしまうということは、確かにこれは病気のようだ。
そうこうしている内に、現チャンピオンまでもがリングのど真ん中に沈んだ。