異界都市日記5
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40秒後、モンスタートラックを撃破する作戦がスタートした。
まず前段階として、レオが内側から『神々の義眼』を駆使してトラックの視界を奪い、誘導する。
(視界を支配して…進行方向へ…曲がれ!!!)
モンスタートラックは直角に急カーブをし、レオの誘導のままに旧パークアベニューに向かって疾走を始めた。
作戦第一段階(フェイズワン)
「954B・B・A―ブラッドバレットアーツ―」
K.Kの銃撃による護衛バグの無力化及び、対人障害の排除。
「STRAFINGVOLT 2000」
遠距離からの狙撃が次々と護衛バグを撃ち抜き、残らずショートさせてトラックから弾き飛ばした。
「すげえっ、すげえな姐ちゃん!!」
「ハーイありがとー!」
狙撃の瞬間を目撃して歓声を上げた異界人にK.Kが笑顔で返している間に、モンスタートラックは疾走を続ける。
作戦第二段階(フェイズツー)
「エスメラルダ式血凍道」
スティーブンが対象の足を凍結。以後の加速の手段を奪いレールに載せる。
「アヴィオンデルセロアブソルート―絶対零度の地平―」
道路と一緒に凍らされた車輪の動きが止まり、加減速することなく凍てついた道路を勢いよく滑っていった。
作戦第三段階(フェイズスリー)
「ブレングリード流血闘術」
ブラッドハンマーの迎撃コースに乗せるべく、クラウスによる車体のトス。
「絶対不破血十字盾―クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ―」
地面から斜めに立てられた十字の盾が、巨大なモンスタートラックを持ち上げるレールとなり、宙に浮かせた。
その先、ゴールであるグランドセントラル消失公園では、血槌のハマーが待ち構えている。
(今だ…!)
車体が大きく飛び上がったのを感じながら、結理は握り締めていた血晶石を口の中に放り込んだ。アリギュラは前方を見ていて完全にこちらから視線を外している。奥歯で鮮血色の石を噛み砕きながら、ソファから転がるように落ちる。起き上がった時には貧血の目眩も倦怠感も消え失せていて、爪で掌を切りながらはりつけにされたままのレオに接近して腕を振りかぶった。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……『爪―クロウ―』」
赤い刃爪が拘束を残らず切り裂く。落ちる前にレオの体を抱え上げ、一番手近にあった窓に向かって再度刃爪を振るった。アリギュラが振り返った気配を感じたが、構わずに突き進む。
切り裂かれ、人一人以上は楽に通れる穴のあいた窓枠からレオと彼を抱えた結理が飛び出だした直後、凄まじい衝撃がモンスタートラックに叩きつけられた。
それは、モンスタートラックを文字通りに粉砕させ、ヘルサレムズ・ロットの霧を突き抜けるほどの衝撃だった。
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
衝撃と風圧で空中に煽られ、悲鳴を上げながらも結理はレオを離そうとはしなかった。前後左右ではモンスタートラックだった部品がバラバラになりながら同じように宙を舞っていて、やがて重力に従って落ち始めた。
「結理!」
「!」
落下に備えようとした所で呼ばれ、結理は声のした方向を見た。
「チェインさん!パス!」
言うなり結理は抱えていたレオをチェインに向かって放り投げた。レオが盛大に顔を引きつらせる中、チェインは難なく少年をキャッチして一緒に落ちていく。それを見届けた結理は身を捻って空へ向き直りながら魔力を練り上げた。視線の先では、モンスタートラックの巨大な破片がこちらを押し潰そうとしているかのように迫ってきている。
「『炎術』!!と、『風術』!」
最大火力で放った炎は破片を残らず炭にし、畳みかけるように放った突風が炭化して脆くなった巨大な板を粉々に吹き飛ばす。結理はもう一度身を捻って下を向き、再び術を放った。
「『風術』!」
放った風は結理とチェイン、そしてチェインに抱えられているレオにまとわりつき、落下速度を落とす。それでもまだそれなり以上に速度があるのでレオが悲鳴をあげているが、『受け止めて』もらうには十分だ。
パラシュートなしのスカイダイビングをした三人は、ザップが街灯の間に張った赤い網の上に落ちた。
目標車両は爆散。数億の屑鉄がヘルサレムズ・ロット市街に降り注いだ。
死傷者多数。百数十万とも言われているが、正確な数は不明と当局は発表。多分、いや絶対途中でめんどくさくなったのだろう。
偏執王アリギュラは行方知れず。落下の際に頭をぶつけたレオは後頭部を5針縫い、同じく受け身を取るのに失敗した結理は左腕を痛めた。
「いやいや、はっはっはっは。」
そして、今回の立役者であるハマーは、全身を負傷して病院に担ぎ込まれていた。
「…ちょっとデルドロ!!」
特に顔の約三分の二を包帯で覆われた有様を見たK.Kが、ハマーの血液であり体内の同居人であり相棒でもあるデルドロ・ブローディを怒鳴りつける。
「出てきなさいよこの唐変木!ハマーの顔を護るのがアンタの仕事でしょうが!」
「やかましいわクソ年増!」
言われっ放しでは堪らないと、ブローディもハマーの中から出てきて言い返した。モンスタートラック迎撃の為に自分の防御を限界まで薄くして巨大な拳を作り上げたという宿主の暴挙は、彼にとっても予想外で、望んでいない結果だった。
「俺は止めたっつーの!コイツが勝手にやったっつーの!」
「まあまあまあまあ」
「あ、君がユーリちゃん?」
「……うぇ!?あ、はい!」
K.Kとブローディの言い争いも軽くスルーして、ハマーは結理に視線を向けた。自分に話を振られるとは思わず、若干気を抜いてやり取りを眺めていた結理はびくりと身じろいでから、慌てて居住まいを正しながら返事をする。
「クラウス兄ちゃんから君のこと聞いたことあるんだ。ほんとにちっちゃくて可愛いね」
「っ!?あ……ありがとうございます……」
にこやかにさらりと言われて一瞬焦ったが、自分を見るハマーの目が小動物を見るそれと同じだということに気付き、結理は苦笑しつつもお礼を言う。お礼を言うのもおかしいかもしれないが、当たり障りのない言葉が他に思いつかなかった。
「色々あったがとにかく、稀代の厄介者は退けたんだ。ご褒美だと思ってゆっくり療養すればいいさ」
「折角こうやって外にも出れたことだ。欲しい物や食べたい物、何でも行ってくれ給え」
「いや、僕はもう帰るよ」
あっさりとした様子で放られた言葉に、その場にいた全員が、え?と意味が分からないと言いたげな顔になる。
「…帰るって…?どこへ?」
「…どこって、決まってるじゃないですか」
デルドロ・ブローディ。
強盗、傷害、殺人、誘拐、婦女暴行、麻薬不正使用エトセトラエトセトラ、累積懲役が1000年を超える、正真正銘の人間のクズとすら称された犯罪者である。
「獄長……「奴」らが、もどりました」
「…………そうか…」
そんなブローディを血液としているハマーは、久しぶりに得た自由をあっさり手放して、パンドラム超異常犯罪者保護拘束施設に戻っていた。
「おいマジかよ!折角出られたってのに!ああもう畜生この馬鹿!」
「ダメだよ。君の刑期はまだ沢山残ってる」
心底残念そうに悪態をつくブローディに、ハマーは何でもないようにそう返した。
「犯罪者は檻の中。めでたしめでたし」
「……はー……」
「ユーリ、どうしたの?」
「ハマーさん、イケメンだったなあって思って…」
「てめえもかよ!!」
異界都市日記5 了
2024年8月11日 再掲