異界都市日記5
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怪物車両の中は外見に見合って広かった。その広い車内には三人の人影がある。一人は十字架のような拘束具ではりつけにされ、一人は床にしっかりと固定されたソファにぐったりと横たわっていて、最後の一人はソファに体重を預けている少女の顔を覗きこんでいた。
「へえ~、近くで見ると結構可愛い顔してんのね~」
「あ……ありがとうございます……」
「フェムトがさ~、会うたんびにアンタの話するからアタシいい加減耳タコで~。どんな子なのか一回見てみたかったんだ~」
「堕落王と……知り合いなんですか…?」
「ただの腐れ縁~」
楽しげにけらけら笑う女を見ながら、ソファで横になっている結理は鈍った思考を巡らせる。貧血でなければ即座にはりつけにされたレオを回収して逃げている所だが、今は戦うどころかまともに動くことすらままならなず、無理に動いたとして一分ももたないだろう。例え遅刻して氷の視線に射竦められたとしても、牛乳は抜くべきでなかったと後悔ばかりがよぎるが、過ぎたことを悔やんでいる場合ではない。
知るべきことは女の目的と、この怪物車両を止める手段だ。
「……あの、」
「あ~ちょっと待って~。もうすぐ着くから~」
「……着く…?」
ひとまず話は通じそうなので会話を続けようとしたが、女の方が打ち切って前を向いた。どこか目的地があるらしいモンスタートラックは、相変わらず他の車両を捕食しながら進み続けている。
その先に知った気配を見つけて、結理は顔を上げた。
同時に女が叫ぶ。
「見つけた~!!!ブローディ&ハマー!!!」
「「!!クラウスさ…」」
思わずレオと結理が同時に名前を呼んだ瞬間、女がその名前に反応して振り向いた。マズイと思ったが、もう遅い。咄嗟に女の注意を逸らせる為に、結理はもう一度声を張り上げる。
「っ!?何あれ!!?」
それは本音でもあったがとにかく、結理の言葉を聞いた女は再び前を向いた。
モンスタートラックに向かってきたのは巨大な姿だった。真っ赤な肉体の鎧のような装甲を纏った誰かは思い切り拳を振りかぶり、一切臆すことなくトラックの顔面部分に攻撃を叩き込んだ。衝撃でモンスタートラックは地面ごとひしゃげて凹んで急停止し、その揺れで結理は床に投げ出され、ついでに攻撃を放った本人は反動で遠くまで吹っ飛ばされていた。
「……何なの今の…?」
床に投げ出された状態のまま、結理は何とも言えない表情で呟いた。
「…………全くよぉ」
モンスタートラックをぶっ飛ばした反動で飛ばされ、ビルの屋上の一部を盛大にぶっ壊した巨体から、呆れたような声が響いた。
「パンチは踏ん張りからだ。基本だろうが」
「ごめんごめん」
呆れたような声に朗らかに謝る声もまた巨体からしていて、現場に辿り着いたライブラの面々はそんな会話をごく普通に眺めている。
「俺を「纏って」なかったらお前死んでたぞ全く…」
「そりゃまずい。それじゃ君も死んでたよデルドロ」
会話を一通り終えてからその巨体、全身に血液を纏って武装する血殖装甲(エグゾクリムゾン)の使い手である血槌(ブラッドハンマー)のハマーことドグ・ハマーは、引っ繰り返った状態のまま顔馴染みの面々を見た。
「――ということで、ご無沙汰しております、皆さん」
にこやかな声で挨拶をしながら、ハマーは巨体に似合わない軽い動作で転がって体勢を立て直す。
「こうしてまた一緒に戦えるなんて嬉しいです」
「おう。しかし相変わらずだよねお前」
「いやあ、かたじけない」
「褒めてねえんだけどね」
微妙にずれた返答をしつつ、ハマーは自身を覆っている血殖装甲の首の下辺りからにゅっと顔を出した。
「行けるかい?」
「何とか。今度は足場バッチリな所でよろしくお願いします」
「いやいや、よろしくお願いしたいのはこっちだから」
やはり微妙に返答がずれているが、その若干天然も混じっている朗らかさが彼の魅力の一つと言っていい。
「やっぱいいわねー、かわいいわードグ・ハマー」
「マジっすか姐さん」
「外見だけはアツイですよね」
「犬!!!てめえまで!!」
そしてその性格とルックスから、女性陣からの評価も存分に高い。
「レオと結理の安否は?」
「無事です、確認しました。二人とも捕まってます。結理は貧血を起こして動けない様子です。バレない様に本人達との接触はこの後ですが」
「何でこのタイミングでぶっ倒れてんだよあいつ……」
クラウスの問いで、即座に仕事モードに戻ったチェインの報告を聞いていたザップが呆れ返ったようにぼやいていると、重々しい機械音と軋むような金属音が轟いた。つい先程まで潰れたように静止していたモンスタートラックが再生し、再び走行を開始しようとしている。
即座に武装ヘリが銃撃を開始するが、モンスタートラックは攻撃をものともせずに破損した端から再生をし、何事もなく再び走り出した。こういった再生する手合いは、その再生の元となっている核を破壊するしか止める方法はない。HLPDMPが何度目かの壊滅を向かえる前に、ライブラのメンバーは作戦を開始すべくそれぞれの配置へ急いだ。
そんな中、ザップだけが何かを言いたげに顔をしかめている。
「?どうしたザップ」
「…旦那よぉ、俺の持ち場なんだが…正直不満だね」
「何故だ!?判断力、精密さ、スピード、どれをとっても君以外には不可能だ!」
きっぱりと不満だと口にするザップと、それを慌てて説得しているクラウスに背を向ける形で、チェインはその場にしゃがんでソニックと向き直っていた。初めて相対した時は近づいただけで怯えて逃げてしまったソニックだが、仲間となった今ではチェインが自分に何かを頼もうとしているのを察して、じっと言葉を待っている。
「いい子ね、もう一回行ってくれる?」
そう言ってチェインから差し出されたものを、ソニックは緊張した様子だったがしっかりと受け取った。自分にしかできない、この事態の解決を手助けする為のアイテムを持ち、自慢のスピードを駆使して飛ぶように駆け出す。それを見送ったチェインは小さく呟いた。
「正念場よ…レオ、結理」