異界都市日記5
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交通量の多い大通りを、赤と黒に塗り分けられたベスパが走り抜けていた。運転者である小柄な少女の顔は引きつっていて、目は泣きそうに潤んでいる。
「おーくーれーるーーーー!!」
叫びながら結理は、アクセルをふかした。
ライブラ執務室にて会合が行われるというその日に限って、目覚まし時計が壊れて寝坊してしまい、朝食も抜いて飛び出した先で普段は滅多にないご近所トラブルに巻き込まれ、殴り合いに発展した騒動を武力制裁でどうにかおさめ、更に通勤路を塞ぐ形で起こった事故を迂回した時には、かなり時間を消費していた。
会合に遅刻をしたことはない。だが以前レオとザップが遅刻した時に、彼らに向けられた氷の視線は結理の記憶の中に深く刻みつけられている。
(遅刻したらスティーブンさんに何言われるか…!)
「……っ……」
そう思いながら更に速度を上げると、前方に見たことのあるランブレッタが二人乗りで蛇行運転をしているのが目に入った。レオが何かしているのかザップが何かしているのかは分からないが、とりあえず原因はザップにあるのだろうと結理は判断する。一体何をやっているんだと思ったが、同時に何とか間に合いそうだと、ほっと息をついた。
次の瞬間だった。
「っ!?うわっ!!!」
真横を巨大なトレーラーが通り抜けてベスパが風圧に煽られた。どうにか転ばないように立て直し、顔をしかめながら前を向くと同じように煽られかけたらしいランブレッタが蛇行運転を止めていた。
「あっぶないなー……っ!?」
ぼやきながら結理は少しだけ速度の落ちたランブレッタに追いつこうとしたが、その直前に嫌な気配を感じた。
その嫌な気配に答えるように、前方を走るトレーラーが浮いた。正確に言うと、トレーラーの後ろからやってきた何かがトレーラーを捕まえて持ち上げた。辿るように振り返ると巨大な、トラックと呼んでいいのかどうかすら迷う車両が今持ち上げたトレーラーを始めとして次々と車両を捕食してるところだった。
「な……何あれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!?」
叫びながら結理はベスパの速度を上げてランブレッタと並んだ。その間にも謎の車両は歯のような機関をがしゃがしゃ鳴らしながらこちらと距離を詰めようとする。
「っ!ユーリ!!?」
「何なのあれ!?新種!?ヘルサレムズ・ロットの王●!?怒りで我を忘れてるの!!?」
「分かんないよ!!」
「結理!ちょっとあれ止めてこい!!」
「無理に決まってんでしょ馬鹿ですか!テンパるにしてももっとマシなこと言ってくださいよ!」
ぎゃあぎゃあ言い合いながらもランブレッタとベスパは全速力で走り続けているが、謎の怪物車両は今にも追いつきそうだ。
そんな二台が走る先、街灯の上に見慣れたパンツスーツの女性の姿が見えた。彼女、チェインもこちらに気付いたらしく、真っ直ぐな視線を向けて電話を耳に当てたまま口を開く。
「グッ」
「ド」
「ラッ」
「「ク」じゃねェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!何がサムズアップだクソアマァァァァァァ!!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
いつもならチェインへ暴言を吐くザップを諌める結理だが、今回だけはほんの少しだけ同意した。助けてくれることへの期待は最初からなかったが、そんな涼しい顔で応援(?)をされても悲しくなるだけだ。
そうこうしている内に、暴走車両は目の前の得物を捕まえられないことに焦れたのか、大口を開けると地面に噛みついた。轟音と共にアスファルトが盛大にめくれ上がり、大型車でも吹っ飛んでしまいそうな衝撃と風圧で軽いスクーターはあっさり飛ぶ。
「ぶは!」
そんな風圧に煽られながらもどうにか空中で体勢を立て直し、着地に成功したザップが冷や汗を流しながら息をついた。
「大丈夫かレオ!結理!」
それから即座に振り向いたが、さっきまで後ろに乗っていた少年と、隣を走っていた少女の姿はベスパごとない。流れる冷や汗の量が一気に増えた。
「…………………………フォーエバー」