異界都市日記4
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「『血術』……『爪―クロウ―』!!」
攻撃を掻い潜りながら、結理は腕を振るう。腕の装甲から伸びた刃爪が屍喰らいを切り刻んで行動不能にしていき、数を減らしていく。周囲を見回して残りを確認するよりも早く殺気に囲まれた。結理はポケットからビー玉のような鮮血色の石を取り出しながら、地面に手を置く。
「『血術』……『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!!」
石を口に含んで噛み砕くと同時に、地面から突き出た巨大な赤い棘が結理に殺到しようとしていた屍喰らいをまとめて貫いた。結果を見ずに即座にその場から飛び退き、次の術を練り上げる。
「『血術』……」
「イヤッハアァァっ!!」
「『拳―ナックル―』!」
再び纏わせた腕の装甲で、頭上からの一撃を受け流した。攻撃を繰り出してきた相手を見据え、結理は拳を握り直す。
結理に攻撃をかわされた男の吸血鬼は、楽しげに笑いながら腕を刃の形に変えた。
「俺と踊らないかい?バンビーナ」
「喜んで」
好戦的な獣の笑みを浮かべ、結理は地を蹴った。振るわれる刃をいなし、かわし、時に殴り飛ばす。体勢が崩れた所に蹴りを叩き込むと、男は二、三歩後退した。その体さばきを見て、結理はあることに気付いた。
「お兄さん『なりたて』ですね?人間の頃の癖が抜けてないですよ?」
「ああそうさ。俺はまだ新米でね。けどもう、大分慣れてきてる……ぜ!!」
軽い口調に合わせて殺気が飛んできた。結理はその方向を見もせずに死角からの攻撃を避け、術を紡ぐ。避けられることを予想していなかったのか、驚愕の表情を浮かべる男との距離を詰めながら狙いを定めた。
「『血術』……」
「ちょっと、いつまで遊んでるの?」
「っ!!」
涼しげな声と共に男の背後から凄まじいプレッシャーが放たれた。居竦みそうになる体を叱咤して無理矢理動かし、腕を振るう。
「『爪』!」
男へ牽制の攻撃を放ちながら、殺気から逃げるように飛ぶ。だが飛んだ先に新たな殺気が生まれた。それを感じ取ることができても、体の反応速度は追いつかない。防御も回避もする間もなく、異形の棘が少女に突き刺さった。
「がっ……ぁ…!!」
小柄な体が壁に叩きつけられ、手足を貫かれる。辛うじて急所は避けたが、動きは完全に止められていた。結理を縫い止めている異形の棘は、女吸血鬼から伸びている。その棘はスティーブンとK.Kも貫いていて、彼等を行動不能に陥れていた。
「…何だかがっかりだわ…あなた達」
拍子抜けしたと言わんばかりの表情で、三人の戦士を一度に制圧してみせた女は首を傾げた。
「そりゃあ…どうも…」
「対「血界の眷属」特化型人間兵器と聞いていたけど…あと一歩よね」
ため息をついて、女は自身の指についた血を舐めとった。触れた血に反応して舌から煙が上がるが、女は何でもないように話し続ける。
「確かに細胞レベルまで侵食してダメージを与える恐ろしい血液で、血を糧にする私達には天敵だけれども、今まで、心臓に杭を立てて、銀の弾で爆散させて、灰にして、それで「不死者」が滅んでると思った?」
「……どうゆう……意味、ですか…?」
「私達の血が流れてるのに分かってないのね、おチビちゃん」
尋ねる結理に、女はくすりと笑ってたった今自身を侵す猛毒の血を舐めた舌を見せた。煙は既に収まっていて、ほんの僅かに白くなっているだけだ。
「滅ぼしたと思ったその瞬間から復活は始まっているのよ。細かく刻んで遅らせてるだけ。低級の連中ならば千年かかるかも知れないけど、私とかはホラ、もう完治」
「……!」
どこか得意げに笑う女の言葉を、結理は愕然としながらも理解した。今まで相対したことがなかった故にいまいち実感を得ていなかった、血界の眷属という存在の脅威を。決定的な『違い』を。
(これが……長老級の血界の眷属……)
だとすれば、血界の眷属と戦うということは人類からしてみれば途方もないいたちごっこだ。
「……で、いいのさ…」
「?」
「それでいいんだよ…化物のお嬢さん(モンストレス)」
少女の中で生まれた認識に答えるように、長老級の血界の眷属に言い返したのはスティーブンだった。体を貫かれ、血を吐き、息を切らせながらも、闘志だけは消さずに相手を見据え、告げる。
「千年かかろうが、千五百年かかろうが、人類は必ず君達に追いつく。不死者を死なせるという、矛盾を御する日がきっと来る」
遠くから金属が軋むような音がした。それは少しずつ近づいていて、同時に地面から伝わってくる振動も大きくなっていく。
「そう。これは大いなる時間稼ぎだ。だがその時間稼ぎの中に、今、長老級にすら届く牙があるとしたら…」
ホーム内に響き渡る程の金属音を伴った光が段々と大きくなる。その正体が電車だと認識できた時には、ライトが駅構内を照らし出した。
「どうする?」
ホームに入ってきた電車の光に、女が一瞬気を取られた。
「ブレングリード流血闘術」
その一瞬で、『牙』は血界の眷属のすぐ側まで来ていた。
「推して参る」
その闘気に即座に反応したのは女の眷属の男だった。腕から刃を伸ばし、天井を足場に接近していた相手、クラウスに突き刺そうとするが、放たれた拳によって体の大半ごと文字通りに粉砕される。
長老級は驚いた様子もなく、着地したクラウスの首を刈ろうと刃の腕を振るう。クラウスはそれを紙一重でかわし、開いた脇腹に拳を当てた。
「な…に…?」
「ヴァルクェル・ロッゾ・ヴァルクトヴォエル・ギリカ」
「!」
「貴方を「密封」する。」
触れられたことにも驚いていた女は、告げられた言葉に更に驚愕の表情を見せた。知られるはずがない、知られてはいけない「言霊」が知られている。それは、彼女にとっては心臓を直接鷲掴みにされたのと全く同じ意味合いだった。
「どうやって…その「名」を…」
憎み給え
赦し給え
諦め給え
人界を護る為に行う我が蛮行を
「ブレングリード流血闘術 999式」
注がれた血が不死の存在を拘束し、抵抗も許さず圧縮していく。
「久遠棺封縛獄―エーヴィヒカイトゲフェングニス―」
圧縮封印された長老級の血界の眷属は、小さな十字架となって地面に落ち、澄んだ音を立てた。