異界都市日記4
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ストムクリードアベニュー駅は騒然としていた。駅構内に現れた相手はあらゆる攻撃を無効化し、防衛線を次々と突破していく。起動装甲警察隊は全滅し、その全員が屍喰らいにされてしまっているだろうという報告が飛んで来ていた。
そんな現場の中心に向かって歩く、長身の男女と小柄な少女の姿があった。
「あーもう最悪だわー。ユーリっちはともかく腹黒と組むなんてありえない。」
「まーそう言うなよK.K。エルダーに対して単独で突っ込むより色々マシだろ?」
「相手が相手なんですし、戦力は多い方がいいじゃないですか」
「その通り。合理的に行こうよ」
ぼやくK.Kにスティーブンと結理がそう返した。口調こそ三人とも気負った様子もなく日常会話のようだが、空気には緊張感が漂っている。
中でも一番緊張をまとっているのは結理だった。
「まあ……わたしは長老級は初めてなんで、戦力になるか分かんないんですけど……」
「戦力として数えてなきゃ、こんな所に連れてきたりしないよ」
「頑張ります……」
緊張をほぐすようにぽんと背中を叩かれた結理は、引きつった苦笑を漏らしてから表情を引き締める。
「…待ったわね…3年…」
「そうかい?僕はこんな日が来ないでくれたらとずっと思っていたよ」
「ダメな男ね」
「穏やかに行きたいだけさ」
K.Kとスティーブンの会話を聞きながら、結理はポケットから指抜きのグローブを取り出してはめた。具合を確かめるように二、三度拳を開閉してから小さく息をついて前を見据え、掌底同士を打ちつけるように合わせる。その視線の先には大きな影がある。
三人は目の前にいる屍喰らいと化したポリスーツに向かって、それぞれ地を蹴った。
「954ブラッドバレットアーツ―血弾格闘技―」
「エスメラルダ式血凍道」
「『血術―ブラッド・クラフト―』」
それぞれの技が屍喰らいに炸裂し、効果を発揮する。
「Electrigger 1.25GW」
「エスパーダデルセロアブソルート―絶対零度の剣―」
「『刃鞭―エッジ・ウィップ―』」
雷の弾丸が穿ち、氷の剣が凍てつかせ、赤い棘鞭が切り刻み、道を開いた。道の先にいるのは何体もの屍喰らいと、一組の男女。
「おっ、来た来。」
「マスターシニョリータ、あれかい?斃しておきたい友人っていうのは」
「そうそう。油断しちゃダメよ。彼等の技は対私達に特化してるわ。再生できなくなっちゃっても知らないわよ……あら?」
男の問いに答えた女は、結理の姿を見ると怪訝そうに目を丸くして首を傾げた。
「毛色の違うのがいる……ねえおチビちゃん、」
「……え、わたしですか?」
「そうそう」
普通に話しかけられると思っていなかった結理は、ぱちぱちと瞬きをしてから確認のつもりで自身を指さすと、女は笑いながら頷いた。
「貴女私達の側じゃないの?同族のニオイがするわ」
「同じ…ではないですけど、確かに吸血鬼の血は流れてます」
「だったら仲良くしない?半端でも同族なら大歓迎よ」
「……いいですね」
にこりと、この殺伐とした場にそぐわない人懐っこい笑みを浮かべて、結理はそう答えながら腕に赤い装甲を纏わせた。
「あなた達が永久に血を吸わず、永遠に誰も襲わず、夜の闇に隠れて二度と表に出てこないのなら、大歓迎です」
「……残念だわ」
「残念ですね」
言葉の割にさして残念な風でも無く、女は笑った。その笑みから放たれる冷たいプレッシャーに圧されないように、結理も笑みを返して構える。
「4分もたすぞ」
「アタシに命令しないで」
「まあまあK.Kさん……」
「クラウスが来る前に周囲の障害を全て排除する」
「あったりまえでしょ」
「了解です」
言い合い、構え、倒すべき敵に意識を集中させる。
「いくよ」
「応」
「はい」
返事が開戦の合図となった。殺到する屍喰らいの集団に、三人は臆せず突っ込んでいった。